新潟・越後妻有「大地の芸術祭」
ジェームズ・タレルの
泊まれるアート『光の館』
世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。
大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。
川西エリア
信濃川の西岸にある高さ50mの段丘上に広がる地域。ジェームズ・タレルさんの泊まれるアート作品『光の館』や住民によって運営されるブルーベリー園「ベリー・スプーン」などが楽しめる。
「大地の芸術祭」の楽しみ方は、作品鑑賞だけではない。世界的な「光の芸術家」の作品空間に滞在し、未知の知覚体験ができるのは、世界でも『光の館』だけだろう。
陰翳礼讃から見出した泊まれるアート
小高い丘の上に建つ「光の館」と名づけられたこの建物は、光の芸術家、ジェームズ・タレルさんの作品であり、その美しい作品世界を滞在しながら楽しむことができる、世界に類を見ない宿泊施設だ。
タレルさんは、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』からインスピレーションを得て、瞑想のためのゲストハウスを構想。重要文化財「星名邸」をモデルに制作した。
伝統的な日本家屋に見られる親密な光と融合する作品世界は、未知の知覚体験を呼び起こす。それが最も体感できるのが、2階の和室「Outside in」だ。可動式の屋根がスライドして天井が開き、徐々に移り変わる空の光を眺めることができる。淡い青、群青、そして漆黒――。四角く切り取られた空のキャンバスはドラスティックに移り変わり、普段気づかなかった光の豊かな表現に心が奪われる。さらに、直接光がない空間の中、身体が幻想的な光に包まれる浴室「Light Bath」、鑑賞者の視覚を揺り動かすライトプログラムなど、光と向き合う贅沢な時間は、滞在してこそ満喫できる。
目の錯覚を利用したライトプログラム
日の出と日没の時間に、木の枠に組み込まれた間接照明によって、天井に映し出される色が人間の知覚に作用し、目に映る色とまったく違う色に見えるライトプログラムが楽しめる
幻想的な光に包まれる“Light Bath”
扉の枠や浴槽の縁に光ファイバーによる照明が施された浴場。夜は真っ暗闇の中、入浴すると身体が発光し、幻想的な光に包まれながら湯浴みができる。朝は太陽の自然光の中で楽しめる
季節によって自然の光や色が部屋を彩る
1階の「庭の間」では、三和土(たたき)から飛び石が続き、内外の空間がゆるやかにつながっている。新緑から夏にかけて、ブナやコシアブラなど、生い茂る木々の緑が壁一面に映る
光の館
住所|新潟県十日町市上野甲2891(ナカゴグリーンパーク)
Tel|025-761-1090
見学時間|【~10月31日】11:00~15:30(受付~15:00)/【11月1~13日】11:00~15:00(受付~14:30)
料金|入館料600円または作品鑑賞パスポート提示/1泊素泊まり3万円+1名あたり3000円、夕食は2200円、3300円
IN|16:00
OUT|10:00
公開期間|通年
休業日|火・水曜(祝日は除く)
アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
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1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編・後編
2|越後まつだい里山食堂 前編・後編
3|旅の最後は“祈り”のアート『手をたずさえる塔』へ
4|アート里山をめぐる 前編・後編
5|ジェームズ・タレルの泊まれるアート『光の館』
6|総合ディレクター・北川フラム氏に聞いた、アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
7|十日町エリアの作品・作家マップ 前編・後編
8|川西エリアの作品・作家マップ 前編・後編
9|中里エリアの作品・作家マップ 前編・後編
10|松代エリアの作品・作家マップ 前編・後編
11|松之山エリアの作品・作家マップ 前編・後編
12|津南エリアの作品・作家マップ 前編・後編
13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」