ARTS & CRAFTS

現代美術家・杉本博司さんが手掛けた日本文化を身体で感じる場「江之浦測候所」

2019.10.12
<b>現代美術家・杉本博司さんが手掛けた日本文化を身体で感じる場「江之浦測候所」</b>
100メートルギャラリーの先端は、崖からせり出したようなかたちをした展望台になっている

2017年、神奈川県・江之浦に大規模なアート作品「江之浦測候所」が誕生した。現代美術家の杉本博司さんが手掛けた、人と自然、そして日本文化を融合する超大作の全貌とは?

杉本博司(すぎもと・ひろし)
1948年、東京都生まれ。’74年にニューヨークに移り、翌年から写真家として活動を開始。代表作に『海景』、『劇場』など。2008年建築設計事務所「新素材研究所」を設立。2009年小田原文化財団設立。2009年世界文化賞、2010年秋の紫綬褒章を受章。’13年フランス芸術文化勲章オフィシエを受勲している

小田原と熱海のちょうど中間に位置する神奈川県・江之浦。箱根一帯をぐるりと取り囲む外輪山のひとつ、白銀山に連なる急峻な土地ながら、相模湾から太平洋へと続く壮大な景色が目の前に広がる風光明媚な地域だ。

この江之浦の大自然の中に2017年10月9日「小田原文化財団 江之浦測候所」が完成した。その名から気象観測の研究施設のように想像する人も多いだろう。しかしながら、この江之浦測候所を手掛けたのは、現代美術家として国内のみならず、欧米でも高い評価を得ている杉本博司さん。およそ10年の構想を経て完成に導いた壮大なアートプロジェクトなのだ。

光を集めるギャラリー
夏至の朝、先端から光が差し込む100メートルギャラリー。大谷石とガラス板で無柱空間をつくり上げた

1万坪を超える広大な敷地に、室町時代の建造物や石づくりの鳥居など、日本各地に点在していた文化遺産を移築するとともに、茶室や庭園などを建設。

さらに、能舞台の寸法を基本とした石舞台や、半円形の古代ローマ劇場を実寸しながら、巨大な光学ガラスを舞台の床板に用いた「光学硝子舞台」、そして趣のある表情をたたえる大谷石を構造壁に用いた長さが100mあるギャラリーなど、創造性あふれる建造物もある。江之浦測候所には、古典と現代の建築様式と文化、思想が交錯するランドスケープが広がっている。

古来の鳥居のかたちを再現した石造鳥居と、千利休の「待庵」を模した茶室「雨聴天(うちょうてん)」

注目すべきは建造物だけではない。杉本さんは、土地全体をひとつの光学装置のようにとらえ、設計を考えている。主要な建物の配置や方角は、刻々と仰角や方位角を変える太陽の動きに合わせ、緻密に計算して決められている。

日の出とともに、光のアートが空間全体を包み込むように考え、冬至は光学硝子舞台の中央から、夏至は「100メートルギャラリー」の先端部から、そして春分と秋分には、茶室から見た石造鳥居の中心に、それぞれ朝陽が現れ、幻想的な情景をつくり出す。

至るところに名石、奇石が
文化財の礎石から地元で採取された石まで、場石の展示もさまざま。写真は硝子舞台の脇にある「亀石」

江之浦測候所は、古来より変わることなく我々を育んできた太陽や海の悠久の営みを改めて見つめ直し、体感するための装置だともいえるだろう。この地に立つことは、自分の意識と対話を促す。原点に立ち返ることで、未来のビジョンがクリアに見えてくるかもしれない。

小田原文化財団 江之浦測候所
構想:杉本博司
基本設計・デザイン監修:新素材研究所/杉本博司・榊田倫之・磯崎洋才住所:神奈川県小田原市江之浦362-1
Tel:0465-42-9170
開館日:木~火曜
休館日:水曜
入館方法:完全予約・入替制
見学時間:4~10月、1日3回/10時・13時・16時(約2時間・定員制)11~3月、1日2回/10時・13時(約2時間・定員制)
入館料:3000円(税別)
※中学生未満来館不可

文=猪飼尚司 写真=板野賢治
2017年11月号 特集「この秋、船旅?列車旅?」

・現代美術家・杉本博司さんが手掛けた日本文化を身体全体で感じる場「江之浦測候所」
・現代美術家・杉本博司さんに聞いた、なぜいま「江之浦測候所」なのか