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日本仏教三大霊山 高野山、比叡山、身延山へ
祈りのアーティスト・小松美羽がめぐる旅②(後編)

2020.9.4
日本仏教三大霊山 高野山、比叡山、身延山へ<br>祈りのアーティスト・小松美羽がめぐる旅②(後編)
高野山の信仰の中心であり、弘法大師空海が入定(永遠の瞑想に入る修行)した聖地「高野山 奥之院」。多くの戦国武将の墓が並び、民族や宗教で隔てず、すべてを受け入れる寛容さは、高野山の精神そのもの。写真は奥之院維那の仁賀大善さんと。ここには、変わることのない篤い信仰が息づいていた

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「すべてを調和する大和力と高野山」

山頂に近づくほどに空気が澄み渡り、しんとした静寂な気配に包まれていく高野山。まず訪ねたのは、弘法大師空海入定の地である「高野山 奥之院」。入り口である一の橋から奥の御廟まで、およそ2㎞の道のりには、諸大名の墓石や供養塔20万基が、樹齢800年以上の大杉の中に建ち並んでいる。織田信長、豊臣家、徳川家、明智光秀、武田信玄、上杉謙信など110の大名が、魂となったいま敵味方の別なく、隣同士で安らかに眠っている。

御廟では、現在も弘法大師空海が世界のために祈り続けていると信じられており、奥之院維那(ゆいな)の仁賀大善さんは、弘法大師空海のために毎朝6時と10時30分に欠かすことなく御廟に食事を運ぶ。1000 年以上にわたり続くこの儀式を繰り返し執り行うことで雑念が払われ、日々生きる意味を深く理解するのだと維那は語る。

高野山に伝えられる文化遺産を保存展観する施設として1921年に開設。国宝23件、重要文化財185件、県指定文化財42件を収蔵(2019年2月)するほか、未指定品5万点以上を保管。「山の正倉院」、「宗教芸術の殿堂」の別名をもつ

続いて向かったのは「高野山 霊宝館」。高野山内一帯の貴重な文化財を保存し、一般に公開している博物館で、1921年に設立されたものだ。多いときには1800以上の寺院があった(現在は117)という高野山には、各院に仏像、仏画をはじめとした宝物が数多く存在した。しかし、多くは雷による山火事で焼失してしまった。祈りの対象を逸するたびに、修行者、参拝者の心のよりどころも失われるとして、この霊宝館が生まれたのだ。所蔵品には、国宝や重要文化財指定を受けているものも多く、その数なんと2万8000点。時代を超えた高次な作品の数々に、小松さんも思わず近づき、じっと見入っていた。

日暮れとともに、「三宝院」へ。三宝院は、弘法大師空海の母堂である玉依御前(たまよりごぜん)ゆかりの寺で、三笠宮崇仁親王(みかさのみやたかひとしんのう)が命名された「臨紅庭(りんこうてい)」で知られる名刹。紅葉の名所として、謡曲『高野物狂(こうやものぐるい)』にも謳われている。

弘法大師空海が高野山を開山した際、真っ先に造営に着手した場所が「高野山 壇上伽藍」。奥之院とともに高野山の二大聖地のひとつ。密教思想に基づく胎蔵曼荼羅(たいぞうまんだら)の世界観を具現化したものといわれている

翌朝、三宝院にて朝のお勤めに参加した後、いよいよ高野山開創の原点でもある「壇上伽藍(だんじょうがらん)」に向かう。壇上伽藍は、弘法大師空海が自ら土を踏み締め、密教思想に基づき、最初に講堂を建立した場所だ。境内で最も目を引く高くそびえる「根本大塔」の内部には、本尊・胎蔵大日如来(たいぞうだいにちにょらい)の周りに金剛界の四仏が控える。さらに、16本の柱に大菩薩、四隅の壁には密教の八祖が描かれており、堂内を立体曼荼羅のように構成したつくりに。そして、西端、山王院の裏手には、丹生都比売大神と息子の高野御子大神を祀っている「御社」があり、神と仏が再び一体となる。

国や文化、民族の違いから、互いを認めず、反目し合う歴史はまだ続いている。しかし、世界の人々の祈りが集結してきた高野山で手を合わせて目を閉じれば、きっと新しい世界がそこに浮かび上がり、よい方向に向かっていくはずだと、小松さんは静かに語ってくれた。

高野山 奥之院
住所|和歌山県伊都郡高野町大字高野山550
Tel|0736-56-2002
参拝時間|8:30~16:30(灯籠堂)
参拝料|なし
www.koyasan.or.jp

高野山 霊宝館
住所|和歌山県伊都郡高野町高野山306
Tel|0736-56-2029
参拝時間|8:30~17:30(5~10月)、8:30~17:00(11~4月)
参拝料|600円
www.reihokan.or.jp

高野山 壇上伽藍
住所|和歌山県伊都郡高野町高野山152
Tel|0736-56-2011
参拝時間|8:30~16:30
参拝料|200円(金堂、根本大塔)
www.koyasan.or.jp

 

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text: Hisashi Ikai photo: Masanori Ikeda
2020年10月号「新しい日本の旅スタイルはじまる。/特別企画 小松美羽」


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