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日本人なら知っておきたい8柱の神さま
《参拝が楽しくなる基礎知識》

2023.10.7
日本人なら知っておきたい8柱の神さま<br><small>《参拝が楽しくなる基礎知識》</small>

日本の神さまは八百万いるとされるが、『古事記』や『日本書紀』の神話に登場する主役級の5柱である、伊邪那岐神、伊邪那美神、須佐之男命、天照大御神、大国主神は特に覚えておきたい。また、神社に多く祀られている神さま3柱の八幡神、稲荷神、天神も知っておくのがおすすめだ。宗教史研究家の渋谷申博さん監修のもと、知っておくと神社めぐりがさらに楽しくなる、日本の神話と神様についてご紹介。

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監修・文=渋谷申博(しぶや・のぶひろ)さん
宗教史研究家。神道・仏教など宗教史にかかわる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地などでのフィールドワークを続けている。著書に『参拝したくなる! 日本の神様と神社の教科書』(ナツメ社)など多数

日本人なら知っておきたい8柱の神さま

日本の神さまは数が多いことを表すたとえとして、「八百万の神」という言葉がある。実際、『古事記』や『日本書紀』には多くの神名が列挙される場面があちこちにあり、読み慣れない者をクラクラさせる。
 
『古事記』、『日本書紀』に登場する神さまだけではなく、たとえば海辺に行けば漁を守る「恵比寿神」、集落の入り口には悪しきものが入らぬよう見張る「道祖神」、川辺には水が枯れたりあふれたりしないよう守る「水神」が祀られている。家の中にも竈神や納戸神、便所神がいた。また、かつて神と人は明確に区別されたが、奈良時代頃から怨みをもって死んだ人を神として祀るようになり、後に偉人も神として崇めるようになった。
 
このように神さまの数が多いのは、日本の信仰がそれだけ多様で奥が深いことを表す。従って、その全貌を把握するのも容易ではない。
 
しかし臆する必要なし。まず代表的な8柱の神々を知れば、日本神話のあらましや神社信仰の概要がわかるだろう。

<神話に登場する神さま>

伊邪那岐神
日本国土の生みの親であり、天照大御神の父

天地のはじめに現れた「別天神五柱」に続く「神世七代」の最後の世代の神。ペアとなる「伊邪那美神」とともに地上に降り、日本の国土と地上の神々を生んだ。火の神を産んで亡くなった伊邪那美神を迎えに黄泉国(よみのくに)へ赴くが、腐敗した姿を見たため2神は決裂。地上に逃げ戻り、穢れた身を清めるために海で禊を行う。このときに「天照大御神」、「月読命」、「須佐之男命」の三貴子が誕生した。
 
◎代表的なご利益
家内安全/開運招福/夫婦和合
 
◎主な神社
滋賀県・多賀(たが)大社/兵庫県・伊弉諾(いざなぎ)神宮

伊邪那美神
国土と地上の神々を産んだ日本の母

「伊邪那岐神」とともに「神世七代」最後の神として出現。伊邪那岐神と結婚して最初に国土、続いて神々を産むが、火の神を産んだことにより陰部をやけどして死去する。死者の国である黄泉国まで伊邪那岐神が迎えに来るが、すでに黄泉国の食べ物を口にしていたため戻ることができない。しかも死体となった姿を伊邪那岐神に見られてしまい、怒って追いかけた。(『日本書紀』には亡くならない話もある)
 
◎代表的なご利益
安産子育/夫婦和合/縁結び
 
◎主な神社
三重県・花窟(はなのいわや)神社/兵庫県・伊弉冊(いざなみ)神社

須佐之男命
暴れん坊から英雄神へ、縁結びの神の顔も

父の「伊邪那岐神」から海の統治を命じられるが、地下世界の「根(ね)の国」に行きたいと言って、泣き続けたため追放される。そこで「天照大御神」に別れのあいさつをするために高天原に行くが、暴虐な振る舞いで天照大御神が洞窟に隠れる事態を招いてしまい、天上も追放され出雲に天下る。ここで「ヤマタノオロチ」を退治し、救った「櫛名田比売(くしなだひめ)」を妻に迎えた。最後は根の国の王となり、大国主神に試練を与えている。
 
◎代表的なご利益
大願成就/縁結び/疫病退散
 
◎主な神社
京都府・八坂神社/島根県・八重垣(やえがき)神社

天照大御神
太陽の神であり、天皇の祖先とされる

「伊邪那岐神」が黄泉国の穢れを落とすため禊をした際に、「月読命」、「須佐之男命」とともに誕生した(『日本書紀』には異なる誕生も伝えられている)。この3柱の神は「伊邪那岐神」・「伊邪那美神」が生んだ神の中でも最も貴いことから「三貴子(みはしらのうずのみこ)」と呼ばれ、その中でも天照大御神は特に貴いとされる。地上統治のために孫の「邇邇芸命(ににぎのみこと)」を降臨させる。そのひ孫が初代天皇の「神武天皇」である。
 
◎代表的なご利益
立身出世/除災招福/国家鎮護
 
◎主な神社
東京都・東京大神宮/三重県・伊勢神宮

大国主神
多くの名とたくさんの子をもつ地上の王

「八十神(やそがみ)」という兄神たちの迫害を受け、「根の国」に逃れる。ここで「須佐之男命」に課せられた試練を乗り越え、宝物と須佐之男命の娘「須勢理毘売(すせりびめ)」を連れて地上に戻る。八十神を倒して地上の王となり、人々に農作や医術を広めて国づくりをした。「大穴牟遅神(おおなむぢのかみ)」をはじめ多くの異名をもち、子だくさんでも知られる。後世、福神の「大黒天」と同一視され、財福の信仰も広まった。
 
◎代表的なご利益
縁結び/財運隆昌/病気平癒
 
◎主な神社
石川県・氣多(けた)大社/島根県・出雲大社(いづもおおやしろ)

<神社に多く祀られている神さま>

八幡神(応神天皇
朝廷の守護神、武門の神として信仰が広まる

八幡神の信仰は、大分の「宇佐神宮」が起源。朝廷にその信仰が広まったのは8世紀で、僧侶「弓削道鏡(ゆげのどうきょう)」が皇位に就こうとしたのを阻止したことから、皇室の守護神として崇敬されるように。9世紀半ばに京都の「石清水(いわしみず)八幡宮」が創建されると朝廷の守護神としての地位が固まり、貴族にも信仰が広まった。さらに源氏が崇敬したことから「武門の神」として各地に神社が建てられるようになった。
 
◎代表的なご利益
必勝合格/厄除け/交通安全
 
◎主な神社
大分県・宇佐神宮/京都府・石清水(いわしみず)八幡宮

稲荷神
五穀豊穣の神さまから、商売繁盛の神さまへ

神社の数では「八幡神」を祀るものが一番多いとされるが、道端の小祠(しょうし)や屋敷で祀られるものまで数えると、稲荷神の社のほうが多いだろう。それだけ広く信仰が普及している。その総本宮とされるのが京都の「伏見稲荷大社」。もともとは渡来系の氏族である秦(はた)氏の氏神であったが、稲をはじめとした「五穀豊穣の神」であることから各地の「田の神」信仰と習合して広まった。その後、商工業者にも信仰が普及した。
 
◎代表的なご利益
五穀豊穣/商売繁盛/家内安全
 
◎主な神社
茨城県・笠間(かさま)稲荷神社/京都府・伏見稲荷大社

天神 (菅原道真公
「学問の神さま」だけではない広いご神徳

怨みをもって亡くなった人は、疫病をはやらせるなどのたたりをなすという「御霊(ごりょう)信仰」が奈良時代頃より広まり、これを防ぐために非業の死を遂げた人が神として祀られた。「宇多天皇」に抜擢されながら嘘の告発で太宰府に左遷となった「菅原道真」も、当初は御霊として祀られた。しかし、時代が経つにつれ怨霊性は薄れ、学問の神、和歌の神、開運の神として信仰されるようになった。
 
◎代表的なご利益
学芸上達/立身出世/合格祈願
 
◎主な神社
京都府・北野天満宮/福岡県・太宰府天満宮

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illustration: Aki Ishibashi
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