ニッポンの年取り魚は、東の鮭、西のブリ
~鮭編~
新年の食卓に欠かせない、魚料理。特に「年取り魚」とされる鮭とブリは、縁起のよい食べ物として東日本では鮭、西日本ではブリが供されることが多々あります。そしてこのふたつの魚は、まさに年末に向けて旬を迎えるのです。今回は鮭を「イヨボヤ」と呼ぶなど、独自の鮭文化を育んできた北の鮭をひも解きます。
年取り魚とは?
大晦日やお正月、新年を迎える「年取り膳」に供される魚のこと。東日本では塩鮭、西日本では塩ブリが食べられてきた。古来律令制のころから朝廷に奉納されていたように、神へのお供え物として特別だった魚を、めでたい日に食べる習わしがもとになったという説が有力。鮭やブリのほか、京阪地域の鯛に加え、鱈やいわしなども全国的に散見される。
鮭が息づく、三面川里へ
一体まるごと捨てるところがないといわれる鮭は、いまも村上には100種類以上の鮭のレシピが残っているという。鮭を中心に発達してきた村上の文化を求めて、三面川(みおもてがわ)へ向かった。
新潟県の最も北に位置する村上市では、鮭を「イヨボヤ」と呼ぶ。「イヨ」も「ボヤ」もともに魚のことを指しており、「魚の中の魚、魚の王様」という意味。
市街地の北を貫く三面川では、250年前に世界ではじめて鮭の繁殖事業に取り組み、1878年には日本初の人工孵化場も設けられ、資源管理をしながら鮭文化を成熟させてきた歴史をもつ。
鮭漁は、10月から1月末にかけて行われる。伝統の姿を今も残す居繰網漁のほか、ウライと呼ばれる柵で遡上する鮭を捕らえるウライ漁、鮭が休憩する川岸に仕掛けを設けて捕らえるコド漁など、さまざまな形の漁が村上には伝えられ、現在も行われている。
村上を象徴する鮭文化の代表が、塩引き鮭。年末になると、各家庭の軒下には、頭を下に吊るされた鮭を見ることができる。腹をふたつに分けて割いているのは、切腹を嫌った武士文化の名残だとも。「村上には『親父は女房を質に入れても年の瀬の塩引きをつくる』といわれるほど、塩引き鮭は各家庭になくてはならないものだったんです」と、「味匠㐂(き)っ川」の主人・吉川哲鮏(きっかわてつしょう)さんは語る。
村上では、内蔵からエラ、皮にいたるまで、鮭は捨てるところなく調理されるという。今回は市内の「割烹新多久 (しんたく)」で鮭のフルコースをいただいた。鮭の命をまるごといただく、村上ならではの鮭料理、ぜひ召し上がれ。
江戸時代から続く、鮭の増殖事業
250年前に村上藩の藩士・青砥武平治が鮭の回帰性に世界ではじめて着目し、三面川にバイパスをつくることで産卵を促す自然孵化増殖システム「種川の制」を考案。現在は三面川を堰き止めて鮭を捕獲する一括採捕が行われ、人工繁殖のうえ、毎年800万匹以上の稚魚を2月に放流している。4年後に、また三面川へと戻ってくる。
一匹まるごと、捨てずにいただく
鮭文化を体感・買える町家へ。
村上に行ったら、ぜひ訪ねてみたいのが「味匠 㐂っ川」。うなぎの寝床のように細長い、村上の典型的な町家づくりの店内では、塩引き鮭や酒びたしなど村上ならではの鮭の加工品を販売している。店舗の奥では昔ながらの茶の間や吹き抜けの天井が公開されており、梁からは1000匹以上の鮭が常時吊るされている姿を見ることができる。
1867年創業の割烹 新多久では10〜12月の季節限定で鮭料理を提供。京都の名店・天㐂で修行した五代目の山貝真介さんの手による鮭料理は、味はもちろん見た目にも美しい一品ばかりだ。
味匠 㐂っ川
住所|新潟県村上市大町1-20
Tel|0254-53-2213
営業時間|9:00〜18:00
定休日|元日のみ
www.murakamisake.com
割烹 新多久
住所|新潟県村上市小町3-38
Tel|0254-53-2107
営業時間|11:30〜13:00(L.O.)、17:00〜21:00(L.O.)
定休日|不定休
http://sintaku.sakura.ne.jp/
text:Discover Japan photo:Atsushi Yamahira
2012年12月号 特集「冬の味覚でおもてなし」