ART

新潟・越後妻有「大地の芸術祭」
越後妻有里山現代美術館 MonET
旅のはじまりは「新定番」アートから|前編

2022.6.19
新潟・越後妻有「大地の芸術祭」<br>越後妻有里山現代美術館 MonET<br><small>旅のはじまりは「新定番」アートから|前編<br></small>
レアンドロ・エルリッヒ『Palimpsest: 空の池』
MonETの建物と回廊に囲まれた大きな池に光が反射して映し出される鏡像が、2階のある地点から眺めることで複層化し、不可思議な感覚を体験することができる
photo: Kioku Keizo

世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。

大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。

十日町エリア

信濃川の東側に広がる織物産業と農業を主体に形成された地域。「越後妻有里山現代美術館 MonET」や、廃校の小学校を作品として再生した「鉢&田島征三絵本と木の実の美術館」などがある。

「大地の芸術祭」の主要施設のひとつ「越後妻有里山現代美術館 MonET」は、2021年にリニューアルオープンした現代美術界の世界的な注目スポット。多彩な「新定番」アート作品が展示されている。

目[mé] 『movements』
無数の時計をムクドリの群れのように配した作品。個々の時計固有の意味と、針が回る運動としての全体が鑑賞者の視点によって連動し、意味と無意味、主体と客体という両極の世界が表れる
photo: Kioku Keizo

入り口に飛び交う
無数の“群れ”の正体は……

2003年、原広司+アトリエ・ファイ建築研究所が建築設計し、十日町に誕生した「越後妻有交流館キナーレ」。昨年その施設内にある美術館が「越後妻有里山現代美術館 MonET」に改修し、常設展示が一新された。

屋内作品が展示されている2階に上がると、ムクドリの群れのように配置された無数の時計に目を奪われる。作者である目[mé]のディレクター・南川憲二さんに展示への想いを聞いた。

「ムクドリの群れの中にいる個々は、自分たちを群れと認識していなくて、外から見ることでその存在が認識される。アートも鑑賞という行為によって“作品”を存在させている。芸術祭を訪れる方にとって、主体的にアートを観る準備のためのスイッチになればと思い、この作品を展示しました」

「時間を計るという意味の塊の時計を、不確かなムクドリの群れのように配置することで、無意味な針の運動になるかもしれない。相反する意味と無意味は、鑑賞者に感じとる行為を迫る」と南川さん

目[mé]は、’15年よりほぼ毎回この地で作品を発表しているが、里山の大地で開催する芸術祭の魅力をアーティスト・荒神明香さんがこう続ける。

「地方を訪れる際、移動の過程で刻一刻と流れる景色を眺めていると、都会の合理性や意味から解き放たれ、自分すらもなくなり、自然と同化する。もともと“自分たちがいた大地”に戻してもらえる感覚が、地域を舞台にした芸術祭のおもしろさだと思います」

目[mé]
アーティスト・荒神明香さん、ディレクター・南川憲二さん、インストーラー・増井宏文さんによる現代アートチーム。特定の手法やジャンルにこだわらず、果てしなく不確かな現実世界を、私たちの実感へ引き寄せる作品を展開する
photo: Takahiro Tsushima

“動く彫刻”に時間を忘れて
引き込まれてしまう

イリヤ&エミリア・カバコフ『16本のロープ』
16本のロープには紙切れや木片などの「ゴミ」と、日常会話のメモが吊るされている。旧ソ連の圧制下で暮らす人々の営みや感情を記憶したいという想いを反映した作品
イリヤ&エミリア・カバコフ
絵本作家のイリヤさんは、旧ソ連生まれ。非公式で芸術活動を続け、1988年からエミリアさんと共同で制作を行う。越後妻有では、『棚田』、『人生のアーチ』などを制作

MonETの奥へ進むと、大地の芸術祭を代表するアーティスト、イリヤ&エミリア・カバコフさんの新作『16本のロープ』が展示されている。

その先に続くのが、『Force』だ。糸のような黒いオイルが一定方向に高速で流れ続け、波紋を立てず床面にたまり、池を形成する“動く彫刻”に時を忘れて見入ってしまう。「この作品は先入観なく見てほしい」と話すのは作者である彫刻家・名和晃平さん。

「意味を固定すると言葉と作品がタグ付けされ、それ以外のものに見えなくなる。作品の可能性を狭めてしまうことにもつながるので、直感的に見ていただきたい。鑑賞者に解釈を委ねる、普遍性をもった作品でありたいです」

名和晃平 『Force』
重粘度を調整されたシリコーンオイルが、多数の糸となって天井から床に落下し続け、重力を可視化する。時間・空間・物質のはざまに鑑賞者の視点を誘う空間彫刻作品

MonETの建築空間を見て、今作に決めたという名和さんに、大地の芸術祭に対する印象をうかがった。

「過疎化が進んでいた地域にアートが入ったことで多くの方々が訪れる。そして、その土地の歴史や食文化、自然も含めて感じられる仕組みは、近代に発達したミュージアムにはない、新しいモデルになっていると感じます。都市から離れることで普段と異なる思考が呼び起こされ、アートをきっかけに視点が広がっていくのは、大地の芸術祭ならではだと思います」。

名和晃平
彫刻家。京都芸術大学教授。2009年、「Sandwich」設立。彫刻の定義を柔軟に解釈し、多様な素材の特性と最先端技術を掛け合わせた作品や空間表現を行う。代表作に、アートパビリオン『洸庭』、泡と光のインスタレーション『Foam』など

 

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text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」

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