新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」
越後妻有里山現代美術館 MonET
旅のはじまりは「新定番」アートから|前編
世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。
大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。
十日町エリア
信濃川の東側に広がる織物産業と農業を主体に形成された地域。「越後妻有里山現代美術館 MonET」や、廃校の小学校を作品として再生した「鉢&田島征三絵本と木の実の美術館」などがある。
「大地の芸術祭」の主要施設のひとつ「越後妻有里山現代美術館 MonET」は、2021年にリニューアルオープンした現代美術界の世界的な注目スポット。多彩な「新定番」アート作品が展示されている。
入り口に飛び交う
無数の“群れ”の正体は……
2003年、原広司+アトリエ・ファイ建築研究所が建築設計し、十日町に誕生した「越後妻有交流館キナーレ」。昨年その施設内にある美術館が「越後妻有里山現代美術館 MonET」に改修し、常設展示が一新された。
屋内作品が展示されている2階に上がると、ムクドリの群れのように配置された無数の時計に目を奪われる。作者である目[mé]のディレクター・南川憲二さんに展示への想いを聞いた。
「ムクドリの群れの中にいる個々は、自分たちを群れと認識していなくて、外から見ることでその存在が認識される。アートも鑑賞という行為によって“作品”を存在させている。芸術祭を訪れる方にとって、主体的にアートを観る準備のためのスイッチになればと思い、この作品を展示しました」
目[mé]は、’15年よりほぼ毎回この地で作品を発表しているが、里山の大地で開催する芸術祭の魅力をアーティスト・荒神明香さんがこう続ける。
「地方を訪れる際、移動の過程で刻一刻と流れる景色を眺めていると、都会の合理性や意味から解き放たれ、自分すらもなくなり、自然と同化する。もともと“自分たちがいた大地”に戻してもらえる感覚が、地域を舞台にした芸術祭のおもしろさだと思います」
“動く彫刻”に時間を忘れて
引き込まれてしまう
MonETの奥へ進むと、大地の芸術祭を代表するアーティスト、イリヤ&エミリア・カバコフさんの新作『16本のロープ』が展示されている。
その先に続くのが、『Force』だ。糸のような黒いオイルが一定方向に高速で流れ続け、波紋を立てず床面にたまり、池を形成する“動く彫刻”に時を忘れて見入ってしまう。「この作品は先入観なく見てほしい」と話すのは作者である彫刻家・名和晃平さん。
「意味を固定すると言葉と作品がタグ付けされ、それ以外のものに見えなくなる。作品の可能性を狭めてしまうことにもつながるので、直感的に見ていただきたい。鑑賞者に解釈を委ねる、普遍性をもった作品でありたいです」
MonETの建築空間を見て、今作に決めたという名和さんに、大地の芸術祭に対する印象をうかがった。
「過疎化が進んでいた地域にアートが入ったことで多くの方々が訪れる。そして、その土地の歴史や食文化、自然も含めて感じられる仕組みは、近代に発達したミュージアムにはない、新しいモデルになっていると感じます。都市から離れることで普段と異なる思考が呼び起こされ、アートをきっかけに視点が広がっていくのは、大地の芸術祭ならではだと思います」。
1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編・後編
2|越後まつだい里山食堂 前編・後編
3|旅の最後は“祈り”のアート『手をたずさえる塔』へ
4|アート里山をめぐる 前編・後編
5|ジェームズ・タレルの泊まれるアート『光の館』
6|総合ディレクター・北川フラム氏に聞いた、アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
7|十日町エリアの作品・作家マップ 前編・後編
8|川西エリアの作品・作家マップ 前編・後編
9|中里エリアの作品・作家マップ 前編・後編
10|松代エリアの作品・作家マップ 前編・後編
11|松之山エリアの作品・作家マップ 前編・後編
12|津南エリアの作品・作家マップ 前編・後編
13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」