新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」
アート里山をめぐる|前編
世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。
日常から解き放たれ、刻々と移りゆく情景を眺めながら、里山アートの世界に身をゆだねる――。大自然をダイナミックに使った展示作品と、そこから知る郷土文化の刺激が「大地の芸術祭」の魅力だ。
大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。
松代エリア
信濃川の支流・渋海川沿いを中心に形成され、周囲を山々に囲まれた丘陵地帯。里山の美景の中にイリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』、草間彌生さん『花咲ける妻有』など世界的アーティストの作品が点在している。
里山アートから地域や
人とのつながりを垣間見る
世界最大級の国際芸術祭であり、2018年には年間54万人が訪れた「大地の芸術祭」のおもしろさは、世界的なアーティストの作品展示だけではない。それらを媒介に、土地の風土が体感できるところが最大の魅力だ。
たとえば、清津峡渓谷トンネル内に展開している『Tunnel of Light』の終着地、パノラマステーションは、清津峡の美景を反転させた水盤鏡の中に歩みを進め、沢水の冷たさを感じながら幻想的な風景と一体化することができる。柔らかな新緑、色鮮やかな紅葉だけでなく、冬は雪で描いた水墨画のような情景に溶け込む時間は、ここにしかないものだ。
そして、土地の文脈をくみ、人とのつながりによって生まれた作品も多い。その代表的な作品が、イリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』だ。
いまから23年前、この地を訪れたイリヤ・カバコフさんは、ほくほく線まつだい駅のホームで見た棚田の風景に心を奪われ、ソ連の圧制下の間に温めていた立体絵本のアイデアを取り入れて作品を制作した。この棚田の持ち主である農家・福島友善さんは、作品設置の提案をしたとき、耕作をやめることを理由に断ったが、カバコフさんの詩や丁寧な図面を見て快諾し、亡くなられる寸前まで農業を続けたという。その作品を一望できる「まつだい『農舞台』」は昨年、周辺の城山や松代城も含めてフィールドミュージアムとして生まれ変わった。カバコフさんの4つの新作を展示する館内をはじめ、食・農・アートをテーマに土地全体で、松代の雪国農耕文化が楽しめる。
ほかにも1907年に創業した酒蔵「苗場酒造」の中で、麹をモチーフにしたオブジェが花を咲かせる『Invisible Grove〜不可視の杜〜』や、廃校の記憶を幽玄に伝える『最後の教室』など、新旧さまざまなアート作品を通して、越後妻有特有の文化やつながりを感じてほしい。
まつだい「農舞台」
住所|新潟県十日町市松代3743-1
Tel|025-595-6180
時間|10:00~18:00
料金|まつだい「農舞台」フィールドミュージアム券1200円(農舞台個別鑑賞券は600円)または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|通年
休業日|火・水曜(祝日は除く)
※詳細は公式ウェブサイトを確認
住所|新潟県十日町市小荒戸
時間|日中
公開期間|通年
休業日|火・水曜
住所|新潟県十日町市莇平(あざみひら)550-1
時間|10:00~17:00
料金|個別鑑賞券300円または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|7月30日(土)~9月4日(日)
休業日|火・水曜
津南エリア
新潟県と長野県の県境に位置する地域。信濃川をはじめとした河川に沿う階段状の地形・河か岸がん段だん丘きゅうが形成され、縄文時代中期の遺跡や木造小学校を活用した秘境の宿「秋山郷結東温泉かたくりの宿」がある。
住所|新潟県中魚沼郡津南町下船渡丁戊555(苗場酒造2F)
時間|10:00~17:00
料金|個別鑑賞券300円または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|~9月4日(日)
休業日|火・水曜
※詳細は公式ウェブサイトを確認
1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編・後編
2|越後まつだい里山食堂 前編・後編
3|旅の最後は“祈り”のアート『手をたずさえる塔』へ
4|アート里山をめぐる 前編・後編
5|ジェームズ・タレルの泊まれるアート『光の館』
6|総合ディレクター・北川フラム氏に聞いた、アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
7|十日町エリアの作品・作家マップ 前編・後編
8|川西エリアの作品・作家マップ 前編・後編
9|中里エリアの作品・作家マップ 前編・後編
10|松代エリアの作品・作家マップ 前編・後編
11|松之山エリアの作品・作家マップ 前編・後編
12|津南エリアの作品・作家マップ 前編・後編
13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」