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新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」
アート里山をめぐる|前編

2022.7.1
新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」<br>アート里山をめぐる|前編
イリヤ&エミリア・カバコフ『棚田』
大地の芸術祭の代表作品のひとつ。季節ごとの伝統的な稲作の情景を詠んだ詩と、対岸の棚田に農作業をする人々の姿をかたどった彫刻を配置。展望台から見ると、実際の風景の中に、立体絵本のような作品が立ち現れる
photo: Nakamura Osamu

世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。

日常から解き放たれ、刻々と移りゆく情景を眺めながら、里山アートの世界に身をゆだねる――。大自然をダイナミックに使った展示作品と、そこから知る郷土文化の刺激が「大地の芸術祭」の魅力だ。

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大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。

松代エリア

信濃川の支流・渋海川沿いを中心に形成され、周囲を山々に囲まれた丘陵地帯。里山の美景の中にイリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』、草間彌生さん『花咲ける妻有』など世界的アーティストの作品が点在している。

東 弘一郎『廻転する不在』
破棄されてしまった放置自転車を組み合わせて制作された大型作品。かたちや物質としての記憶は残りながら、放置されることで静止した時間は、回転させることでもう一度動きはじめる
photo: Kioku Keizo
草間彌生『花咲ける妻有』
まつだい「農舞台」敷地内の丘の上に常設展示される、世界的な前衛芸術家・草間彌生さんの屋外彫刻。全世界と日本の数カ所でつくった作品の中でもお気に入りナンバーワンと作者が公言する代表作
photo: Nakamura Osamu

里山アートから地域や
人とのつながりを垣間見る

マ・ヤンソン/MAD アーキテクツ
『Tunnel of Light』
パノラマステーション『ライトケーブ(光の洞窟)(水)』

世界最大級の国際芸術祭であり、2018年には年間54万人が訪れた「大地の芸術祭」のおもしろさは、世界的なアーティストの作品展示だけではない。それらを媒介に、土地の風土が体感できるところが最大の魅力だ。

たとえば、清津峡渓谷トンネル内に展開している『Tunnel of Light』の終着地、パノラマステーションは、清津峡の美景を反転させた水盤鏡の中に歩みを進め、沢水の冷たさを感じながら幻想的な風景と一体化することができる。柔らかな新緑、色鮮やかな紅葉だけでなく、冬は雪で描いた水墨画のような情景に溶け込む時間は、ここにしかないものだ。

そして、土地の文脈をくみ、人とのつながりによって生まれた作品も多い。その代表的な作品が、イリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』だ。

いまから23年前、この地を訪れたイリヤ・カバコフさんは、ほくほく線まつだい駅のホームで見た棚田の風景に心を奪われ、ソ連の圧制下の間に温めていた立体絵本のアイデアを取り入れて作品を制作した。この棚田の持ち主である農家・福島友善さんは、作品設置の提案をしたとき、耕作をやめることを理由に断ったが、カバコフさんの詩や丁寧な図面を見て快諾し、亡くなられる寸前まで農業を続けたという。その作品を一望できる「まつだい『農舞台』」は昨年、周辺の城山や松代城も含めてフィールドミュージアムとして生まれ変わった。カバコフさんの4つの新作を展示する館内をはじめ、食・農・アートをテーマに土地全体で、松代の雪国農耕文化が楽しめる。

ほかにも1907年に創業した酒蔵「苗場酒造」の中で、麹をモチーフにしたオブジェが花を咲かせる『Invisible Grove〜不可視の杜〜』や、廃校の記憶を幽玄に伝える『最後の教室』など、新旧さまざまなアート作品を通して、越後妻有特有の文化やつながりを感じてほしい。

イリヤ&エミリア・カバコフ『人生のアーチ』
photo: Nakamura Osamu
イリヤ&エミリア・カバコフ『10のアルバム 迷宮』
イリヤ&エミリア・カバコフ『アーティストの図書館』
『人生のアーチ』は、生から死までの人生の段階を視覚化した作品。旧ソ連に住む10人の夢見る人々を主人公にした物語をドローイングで表現した『10のアルバム 迷宮』、カバコフ作品にまつわるドローイングや写真を鑑賞できる『アーティストの図書館』は、まつだい「農舞台」内に設置された新作
河口龍夫『関係 – 黒板の教室』(教育空間)
豪雪地である新潟・越後妻有には、遠方の学校へ通えない子どもたちのために冬季分校が存在した。そんな学校をイメージし、空間すべてを黒板にした、落書きのできるユニークな作品

まつだい「農舞台」
住所|新潟県十日町市松代3743-1
Tel|025-595-6180
時間|10:00~18:00
料金|まつだい「農舞台」フィールドミュージアム券1200円(農舞台個別鑑賞券は600円)または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|通年
休業日|火・水曜(祝日は除く)
※詳細は公式ウェブサイトを確認

関根哲男『帰ってきた赤ふん少年』
小荒戸(こあらと)集落のお父さんたちが、赤ふん姿で渋海川(しぶみがわ)を泳いでいたという記憶をモチーフに、2006年にできた木像作品。集落の要望で2009年に再展示され、寒いからと服も着せられた、地域に愛される作品

住所|新潟県十日町市小荒戸 
時間|日中 
公開期間|通年 
休業日|火・水曜

日比野克彦『明後日新聞社文化事業部』
2003年、日比野さんが旧莇平小学校を拠点に活動を開始。以来、月に1度、地域情報や大地の芸術祭情報を伝える新聞を発行し、収穫祭や小正月などの集落行事の参加を通して地域住民と交流を続ける。全国29カ所で育てられた「明後日朝顔」が社屋を覆う

住所|新潟県十日町市莇平(あざみひら)550-1
時間|10:00~17:00
料金|個別鑑賞券300円または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|7月30日(土)~9月4日(日)
休業日|火・水曜

日比野克彦
東京藝術大学大学院修了。舞台美術、パブリックアートなど多岐にわたる分野で活動、近年は各地で一般参加者と地域特性を生かしたワークショップを展開している

津南エリア

新潟県と長野県の県境に位置する地域。信濃川をはじめとした河川に沿う階段状の地形・河か岸がん段だん丘きゅうが形成され、縄文時代中期の遺跡や木造小学校を活用した秘境の宿「秋山郷結東温泉かたくりの宿」がある。

早崎真奈美『Invisible Grove 〜不可視の杜〜』
津南町の老舗酒蔵「苗場酒造」内に展示。日本酒造りに必要不可欠な麹をモチーフに紙から切り出したオブジェ。麹の木が森のように広がり、花を咲かせている

住所|新潟県中魚沼郡津南町下船渡丁戊555(苗場酒造2F)
時間|10:00~17:00
料金|個別鑑賞券300円または作品鑑賞パスポートを掲示
公開期間|~9月4日(日)
休業日|火・水曜 
※詳細は公式ウェブサイトを確認

 

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《新潟・越後妻有 大地の芸術祭 2022》
1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編後編
2|越後まつだい里山食堂 前編後編
3|旅の最後は“祈り”のアート『手をたずさえる塔』へ
4|アート里山をめぐる 前編後編
5|ジェームズ・タレルの泊まれるアート『光の館』
6|総合ディレクター・北川フラム氏に聞いた、アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
7|十日町エリアの作品・作家マップ 前編後編
8|川西エリアの作品・作家マップ 前編後編
9|中里エリアの作品・作家マップ 前編後編
10|松代エリアの作品・作家マップ 前編後編
11|松之山エリアの作品・作家マップ 前編後編
12|津南エリアの作品・作家マップ 前編後編
13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」

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