A-POC ABLE ISSEY MIYAKE
《TYPE-Ⅶ Kouzoshi project》
土佐和紙の伝統を守る・三彩との協業プロジェクト。
世界初の技術でつくる楮絲が完成!
イッセイ ミヤケのブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」の第7弾として、高知県土佐市にある製紙メーカーグループ・三彩と共創したプロジェクト「TYPE-Ⅶ Kouzoshi project」が発表された。そこで生み出されたのは世界初となる技術でつくられた楮絲(こうぞし)による一枚の布だ。両社が今回のクリエイションを通して伝えたい日本のものづくりとは――。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEが
なぜ伝統産業と協業を?
既成概念を覆す服づくりで業界を牽引するデザイナーであった三宅一生が、1998年に発表した新たな服づくりの概念が「A-POC」(エイポック)だ。2001年にその企画チームに参画し、2021年から新ブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」を率いるデザイナーの宮前義之さんはこう話す。
「A-POCは、時代と向き合いながらさまざまな発想や技術を取り込み、一枚の布―A Piece of Cloth―から新しい服づくりのデザインを提案してきました。2021年に立ち上げたA-POC ABLE ISSEY MIYAKEは、その思想をさらに発展させて、あらゆる境界を乗り越え、次世代の服づくりを追求するブランドです」。
その中で、異分野・異業種との協業を通して新しいものづくりのプロセスを追求するプロジェクトの第7弾として、今回の協業が実現した。「高知・土佐で受け継がれる楮和紙の伝統と、革新的な技術開発、そして彼らの熱い想いに感動したことがきっかけではじまりました」
かつてない楮絲づくりへの挑戦
三彩のグループは日本三大和紙のひとつである伝統的工芸品「土佐和紙」に100年以上携わってきた製紙メーカーだ。高知はかつて、土佐和紙の原料である楮の生産高日本一を誇っていたが、生産者の高齢化などによって減少の一途を辿っている。
「楮和紙は繊維が長く強靱で、世界的な文化財修復などにも使用されている稀少な和紙です」と教えてくれたのは三彩 代表取締役・鈴木佐知代さん。
「弊社の創業者・森澤豊明が最高の繊維だと信じて止まない楮を栽培し、『楮和紙の伝統を未来に紡いでいきたい』という想いの下、かつてない製法で“楮絲”の開発がはじまりました」
一般的に流通している従来の和紙の糸の多くは、マニラ麻を主とするロール紙をスリット状に割いて撚糸*1したものだが、三彩のグループが生み出した楮絲は製法から異なる。
「スリットして断面ができると素材の柔らかさが損なわれます。そこで、和紙づくりの技術を応用し、楮の繊維を水に溶かし一本のテープ糸の形状に漉いて加工する製法に挑戦しました」と鈴木さん。
そのためだけに新しい機械を開発。結実するか不安を抱えながら職人たちが夢に向かって一丸となり取り組むこと数年、世界初のエポックメイキングな製法で楮絲が完成した。
「この楮絲の魅力を、暮らしに寄り添った素材として伝えたい」
鈴木さんの想いを宿した一本の糸が、宮前さんとの縁をつなぐ――。
※1撚糸…糸をねじり合わせること。
楮絲ストールの魅力
「これまで、服の素材に用いるためにさまざまな和紙と向き合ってきましたが、畑や生産現場を訪れたときは、驚きの連続でした」と、宮前さんは目を輝かせて振り返る。
三彩では、楮の施設栽培から独自の機械で効率化させ、糸になるまでの製造工程をグループ内で完結させる画期的な一貫生産体制を敷いている。
「楮をまっすぐ延ばすため、間引きや一つ一つの枝を芽かきする丁寧な栽培から、繊維にするまでの革新的な技術まで、いまの時代に合わせたものづくりを、森澤さん、鈴木さんをはじめ皆さんが愚直なまでに実践されている。その現場を目の当たりにして、心から感銘を受け、この楮絲をより多くの方々に知ってもらいたいと強く思いました」
プロジェクトが本格的にはじまり試行錯誤を重ねること約3年。これまでになかった楮絲が完成。2024年1月5日より、ISSEY MIYAKE KYOTO併設のギャラリー「KURA」で、原料の栽培から楮絲が出来上がるまでのプロセスを紹介する展示が行われる。
今回、宮前さんがこだわったのは、楮絲ならではの質感だという。「プロダクトとしての耐久性を確保しながら、楮絲ならではの肌に寄り添う柔らかさを表現することを大切にしました。料理で言えば、本当によい食材は塩を振るだけで魅力を引き出せますが、楮絲は塩すら振らなくてもいいような最高の素材。できるだけ手を加えず、心地よい質感をシンプルに表現しました」
「TYPE-Ⅶ Kouzoshi project」のストールは2023年5月に販売予定。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEが
伝えたいニッポンのものづくり
最後に、今後A-POC ABLE ISSEY MIYAKEの活動を通して実現したいことを宮前さんにうかがった。
「今回のプロジェクトを通して、日本独自の地域に根ざした伝統的な素材と世界に比する技術力、そして諦めない不屈の精神をあらためて感じました。弊社は、日本のものづくりを大切にここまで歩んでこられましたが全国に息づく伝統や文化を取り入れるだけではなく、各産地にある課題をデザインの力で持続可能なものにする丁寧な服づくりで、その魅力を伝えていきたいです」
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宮前義之(みやまえ・よしゆき)さん
2001年、三宅デザイン事務所に入社し、三宅一生さんと藤原大さんが率いたA-POCの企画チームに参加。その後、ISSEY MIYAKEの企画チームに加わり、’11年から’19年までISSEY MIYAKEのデザイナーを務めた。2021年、新ブランド「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」を発表。エンジニアリングチームを率いて、A-POC の更なる研究開発に取り組む。
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE
www.isseymiyake.com/pages/apocable
鈴木佐知代(すずき・さちよ)さん
100年以上に渡って土佐和紙から生活紙までつくり続けている三和製紙のグループ企業として2012年、三彩を起業。土佐和紙の生産技術を活用した不織布を用いて、美容や調理、生活関連商品の企画開発・販売を行い、新しい和紙との暮らし方を提案している。
text: Ryosuke Fujitani photo: ©︎ ISSEY MIYAKE INC.