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新潟のジビエ料理「Restaurant UOZEN」
犬養裕美子の新・レストラン名鑑

2020.3.23
新潟のジビエ料理「Restaurant UOZEN」<br class=“none” />犬養裕美子の新・レストラン名鑑

どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。今回はシェフ自ら猟を行い、新潟のジビエ料理を提供する「Restaurant UOZEN」を紹介する。

「Restaurant UOZEN」は、
≫Discover Japan最新号『ニッポンの旅計画10』」でも紹介しています。
合わせて、お楽しみください。

いぬかい・ゆみこ
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。

変化の早い東京から
自分のペースで生きられる新潟へ

山に入るときはフル装備。頼りになるのは、かわいい相棒!
冬、井上シェフの日課は、愛犬「はつ」の毎朝の散歩からはじまる。相棒はつはメス3歳。猟犬として一時は絶滅寸前だった梓山犬(あずさやまいぬ)で、現在は天然記念物に指定されている。「はつの後を車で追っていきます。獲物に出合うこともあるけれど、捕れないことも多い。でも、季節の移り変わりを肌で感じるこの時間が何より楽しい

2005年、30歳で池尻大橋に「HOKU」をオープン。井上和洋シェフの料理人人生は、おおむね順調に見えた。当時は人気生産者の有機野菜を使った料理が話題になったが、井上シェフは悩んでいたという。「東京のサイクルは早過ぎて、自分のやりたいこととお客から求められるものがかみ合わない。早く東京を離れたくて」。休日は湘南・鎌倉など近郊へ物件探しに出掛けたが気に入るものはなかった。

そんなとき、妻の真理子さんの実家である、三条市にある料理店「魚善」を閉める話が出た。「だったら、そこでやろう」ということに。日本海に隣接しているからいつでも釣りができる、すぐ近くに山もあるから狩猟も可能、田んぼと畑に囲まれた環境で野菜づくりもできる。まさに理想だった。

獲物を素早く下処理。その時点が料理のはじまり
この日、処理室に下がっていたのは80㎏の猪。「仕留めたらすぐに血を抜いて内臓を取り出して洗浄します。これをきちんとやらないと肉そのものが美味しくなくなってしまう」。単に趣味で狩猟をするのではない。命をいただいたその瞬間から、状態を把握し、処置をすることで、最高の状態で料理に仕上げる

2013年秋に移転。最初はのんびりとスタートしたが、3年ほど経ったとき、大きな転機がやってきた。

「はじめての猟を経験して衝撃を受けました」。

「命をいただく」ということに直面し、素材との向き合い方が大きく変わったという。そんな気持ちから厨房の隣に解体処理&保存所を新設した。狩猟から解体処理まで行うシェフの誕生だ!

新潟は素材の宝庫
その美味しさを広めたい

鹿 昆布 ナスタチウム
昆布締めにした鹿のタルタル。シブレット、シソの実のピクルス、発酵させた神楽南蛮のパウダーがアクセント。食べるときはナスタチウムの葉ごと手で包んで

東京から新幹線で2時間。燕三条駅からタクシーで15分。周りを田畑に囲まれた「UOZEN」は、建物こそ以前の日本料理店のまま。玄関で靴を脱いで、ダイニングに行くまではここがレストランとはにわかに信じ難い。テーブルに案内され、椅子に座ると、ここがガストロノミーレストランであることを実感する。

11月半ばから4月末まで用意されているジビエコースは11品のうち8品に真鴨、猪、鹿、月の輪熊などを使っている。そんな料理に共通しているのは、ジビエ料理にありがちな獣臭さや荒々しい味を感じさせないこと。下処理と的確な調理のおかげで嫌な臭いは一切しない。

月の輪熊コンソメ
自然薯と揚げたそばの実、薄くスライスした月の輪熊のモモ肉を敷き、上から月の輪熊のコンソメを注ぐ。清らかな澄んだ味、これこそが熊の美味しさ

真鴨や猪はしっかりと薪で焼いて、素材の味そのものの風味を引き出している。鹿の赤身は日本料理の技法・昆布締めにすることでまろやかな旨みをプラス。コラーゲン素材の熊の手とアワビを組み合わせたオリジナルも。極めつきは熊のアイスクリーム。生クリームの代わりに熊の脂肪分を使い、熊のすべてを利用し尽くす。

「うちの料理は新潟の自然から生まれるものばかり」。冬はジビエ、春は山菜、夏は魚、秋はきのこ。それぞれ主役になる素材が変化しながら一年がめぐる。「地方には地方のやり方があるはず。東京にないもので勝負しなければ、誰も納得してくれません」。

下田の猪
薪で焼いた猪。ソースは猪の骨から取った出汁とノワゼット、タイムなどの香り。串にはレバーとハツ、猪の好物・銀杏。力強く、かつ、エレガントな旨み

2年前に、ずっと行きたいと思っていたスウェーデンのレストラン「フェービケン」に出掛けたという。最寄りの飛行場から車で約240㎞。交通手段はそれのみ。そこには世界中から美食家たちが訪れていた。

オーナーシェフのマグナス・ニルソン氏は何もない土地で限られた食材を使い、自由な表現を試みていた。井上シェフはそこで「レストランの総合力」についてあらためて考えさせられたという。料理だけでなく、サービスや店の在り方にも主張が見られることに感動した。

熊のアイス
熊の脂はなめらかな口当たり。井上シェフはこれを生クリームの代わりに使用することを考えた。唐がらしと里山のハチミツのソースと柿のソースでデザートに

UOZENはますます独自性が強くなっている気がする。ここ5年でフレンチ→地産地消→素材処理。次にどう変化するのか? はじめて訪れたのに、もう次が楽しみになってしまう。

Restaurant UOZEN(れすとらん うおぜん)
住所:新潟県三条市東大崎1-10-69-8
Tel:0256-38-4179
営業時間:11:30〜15:00(L.O.13:00)、17:30〜22:00(最終入店20:00)
定休日:月曜ほか、不定休あり
料金:ランチ4700円〜、ディナー7000円〜(税・サ別)

文=犬養裕美子 写真=前田宗晃
2020年3月号 特集「SAKEに恋する5秒前。」


≫犬養裕美子さんの『新・レストラン名鑑』はこちら

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