Restaurant UOZEN
<レストラン・ウオゼン>
新潟でジビエに学ぶ、食の在り方、楽しみ方。
どんな小さな店でも、どんな辺鄙な場所でも、「ホンモノ」であれば、必ず人は引き寄せられる。レストランジャーナリスト・犬養裕美子さんの《新・ニッポンのレストラン名鑑》。今回はシェフ自ら猟を行い、新潟県のジビエ料理を提供する「Restaurant UOZEN(レストラン・ウオゼン)」を紹介する。
「Restaurant UOZEN」は、
≫Discover Japan最新号『ニッポンの旅計画10』」でも紹介しています。
合わせて、お楽しみください。
東京を中心に世界のレストラン事情を最前線で取材する。新しい店はもちろん、実力派シェフたちの世界での活躍もレポート。また、日本国内各地にアンテナを張り、料理や食文化を取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員。
変化の早い東京から
自分のペースで生きられる新潟へ
2005年、30歳で池尻大橋に「HOKU」をオープン。井上和洋シェフの料理人人生は、おおむね順調に見えた。当時は人気生産者の有機野菜を使った料理が話題になったが、井上シェフは悩んでいたという。「東京のサイクルは早過ぎて、自分のやりたいこととお客から求められるものがかみ合わない。早く東京を離れたくて」。休日は湘南・鎌倉など近郊へ物件探しに出掛けたが気に入るものはなかった。
そんなとき、妻の真理子さんの実家である、三条市にある料理店「魚善」を閉める話が出た。「だったら、そこでやろう」ということに。日本海に隣接しているからいつでも釣りができる、すぐ近くに山もあるから狩猟も可能、田んぼと畑に囲まれた環境で野菜づくりもできる。まさに理想だった。
2013年秋に移転。最初はのんびりとスタートしたが、3年ほど経ったとき、大きな転機がやってきた。
「はじめての猟を経験して衝撃を受けました」。
「命をいただく」ということに直面し、素材との向き合い方が大きく変わったという。そんな気持ちから厨房の隣に解体処理&保存所を新設した。狩猟から解体処理まで行うシェフの誕生だ!
新潟は素材の宝庫
その美味しさを広めたい
東京から新幹線で2時間。燕三条駅からタクシーで15分。周りを田畑に囲まれた「UOZEN」は、建物こそ以前の日本料理店のまま。玄関で靴を脱いで、ダイニングに行くまではここがレストランとはにわかに信じ難い。テーブルに案内され、椅子に座ると、ここがガストロノミーレストランであることを実感する。
11月半ばから4月末まで用意されているジビエコースは11品のうち8品に真鴨、猪、鹿、月の輪熊などを使っている。そんな料理に共通しているのは、ジビエ料理にありがちな獣臭さや荒々しい味を感じさせないこと。下処理と的確な調理のおかげで嫌な臭いは一切しない。
真鴨や猪はしっかりと薪で焼いて、素材の味そのものの風味を引き出している。鹿の赤身は日本料理の技法・昆布締めにすることでまろやかな旨みをプラス。コラーゲン素材の熊の手とアワビを組み合わせたオリジナルも。極めつきは熊のアイスクリーム。生クリームの代わりに熊の脂肪分を使い、熊のすべてを利用し尽くす。
「うちの料理は新潟の自然から生まれるものばかり」。冬はジビエ、春は山菜、夏は魚、秋はきのこ。それぞれ主役になる素材が変化しながら一年がめぐる。「地方には地方のやり方があるはず。東京にないもので勝負しなければ、誰も納得してくれません」。
2年前に、ずっと行きたいと思っていたスウェーデンのレストラン「フェービケン」に出掛けたという。最寄りの飛行場から車で約240㎞。交通手段はそれのみ。そこには世界中から美食家たちが訪れていた。
オーナーシェフのマグナス・ニルソン氏は何もない土地で限られた食材を使い、自由な表現を試みていた。井上シェフはそこで「レストランの総合力」についてあらためて考えさせられたという。料理だけでなく、サービスや店の在り方にも主張が見られることに感動した。
UOZENはますます独自性が強くなっている気がする。ここ5年でフレンチ→地産地消→素材処理。次にどう変化するのか? はじめて訪れたのに、もう次が楽しみになってしまう。
住所:新潟県三条市東大崎1-10-69-8
Tel:0256-38-4179
営業時間:11:30〜15:00(L.O.13:00)、17:30〜22:00(最終入店20:00)
定休日:月曜ほか、不定休あり
料金:ランチ4700円〜、ディナー7000円〜(税・サ別)
文=犬養裕美子 写真=前田宗晃
2020年3月号 特集「SAKEに恋する5秒前。」