TRADITION

「お伊勢参り」江戸時代、誰もが憧れた大イベントQ&A

2020.10.19
「お伊勢参り」江戸時代、誰もが憧れた大イベントQ&A

江戸時代、庶民の間でブームとなったお伊勢参り。伊勢を目指す旅には笑いあり、涙あり、そして神の“ おかげ”あり。そんなお伊勢参りにまつわる質問に答えます。

(例)江戸在住の2人のルート。
江戸日本橋→秋葉山→鳴海→熱田→桑名→伊勢神宮

Q.どれくらい時間がかかったの?

A.長い人は 約3カ月ほども。

物理的にも経済的にも、人生に一度きりの大旅行という覚悟で出掛けた人が多いお伊勢参り。そのため、伊勢神宮を目指してひたすら歩き、参拝後はそのまま国に帰る人よりも、道中にある観光名所やさまざまな寺社に立ち寄りながら、出発から帰着まで数カ月をかける人が多かった。江戸からの場合は、秋葉山、熱田神宮、京都、金毘羅などが定番の立ち寄りスポットだった。

Q.どれくらいお金がかかったの?

A.約2カ月の旅で最低でも60万円。

食費、宿泊費、交通費、遊興費、お土産代など、お伊勢参りにはなにかとお金がかかった。仮に1 日1 万円としても2 カ月で60 万円が必要になる。この額は当時の庶民にとって相当な負担。そこで村ごとに“伊勢講(いせこう)”という団体をつくり、みんなで積み立てたお金で代表者が参拝にいくという仕組みもあった。代表者は、村のみんなの分もお祓いを受け、お土産を、土産話とともに村へと戻った。

Q.ピーク時の参詣者数は?

A.なんと、半年未満の間に約460万人!

江戸時代には、約60 年に一度、お伊勢参りが大流行するという現象があった。全国から大勢の人が伊勢神宮を一斉に参拝するこの現象は、仕事をしていた人が急に思い立ち仕事を抜け旅立つことから“抜け参り”、神々のおかげをいただくことから“おかげ参り”とも呼ばれた。1829(文政12)年の式年遷宮の翌年には、半年未満の間に460万人が訪れたという記録もある。

『伊勢参宮 宮川の渡し』歌川広重

Q.お金がなくても行けたってホント?

A.はい、施行(せぎょう)もありました。

特に60 年に一度のおかげ年には、抜け参りも増え、お金をもたずに旅に出る者がほとんどだった。唯一の持ち物はひしゃく。参拝者に食事や宿などを無料で提供する施行というものがあり、施行を受ける目印であるひしゃくがあれば、無銭で伊勢までたどりつくこともできた。施行を与えた者は善行によって徳を積むことができると考えられていたため、進んで行う者が多かった。

Q.伊勢での宿はどうしていたの?

A.「御師(おんし)」の家が宿代わりでした。

御師は江戸時代、伊勢神宮から各地に出向いて祈祷を受け付け、暦やお札、伊勢土産を配り、金銭や米の奉納を勧めた神職たちのこと。伊勢神宮のありがたさを説くことで、庶民のお伊勢参りブームの火つけ役ともなった。御師は村ごとにお伊勢参りのための伊勢講という組織をつくり、自分の担当の講の者が伊勢に来たときには、自分の家に泊め、ごちそうでもてなした。

Q.お伊勢参り土産の定番は?

A.荷物にならないものが人気でした。

伊勢神宮参拝はもちろん、道中にさまざまな観光名所を訪ね歩くことが多かったお伊勢参り。お土産には農作物の種や化粧品、織物やたばこ入れなど各地の名物、名産品が人気だったが、一番の定番は“荷物にならないお土産”、伊勢音頭。“伊勢は津でもつ 津は伊勢でもつ 尾張名古屋は城でもつ”などの歌詞で知られる伊勢地方の民謡の総称で、お土産として覚えて帰る参拝者が多かった。

Q.お伊勢参りの必須アイテムは?

A.通行手形さえあればOK。

江戸時代には各地に関所が設けられ、そこを通るには通行手形が欠かせなかった。庶民は通行手形を手に入れることが難しかったが、お伊勢参り目的だけは例外。無条件で手に入れることができた。いったん通行手形を手に入れれば、どの街道を通ってもよかったので、せっかく手に入れた通行手形を有効に活用するべく、伊勢の前後に各地の観光名所に足を運ぶのが定番。

Q.お伊勢参りならではの事件簿は?

A.道中で出産、誘拐、いろいろありました……。

現代でも旅行中に危険な目に遭うことがあるが、道路事情や治安が現代以上に不安定だった当時は、道中で道に迷ったり、盗難に遭うことも珍しくなかった、ふと思いついて旅立つ、抜け参りも多かったことから、臨月の妊婦が突然思い立って旅立ち、道中で産気づいたり、女性だけで出掛けたところを誘拐されて遊女として売られたりといったことも起こった。それでも人々は伊勢を目指したのだ。

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実はお伊勢参りは、日本で最初の〇〇〇でした!

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text:Miyu Narita illustration:Jun Haneda(direction),Yoshitaka Sato specialthanks:Haruo Sakurai
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