日本で食べられている海藻は60種以上!
|日本の食文化「和食」を科学でひも解く③
日本人なら知っておきたい「和食」を科学的な切り口でひも解く展覧会が、国立科学博物館で開かれている。その見どころをピックアップ!
今回は日本人の食生活に欠かせない食材のひとつである海藻について解説。陸上の植物とは異なる生態系をもつ海藻。私たちの祖先は美味しい海藻を選りすぐり、保存の工夫をして流通させ、さまざまに料理して食卓を彩ってきた。
監修/写真
北山太樹(きたやま・たいじゅ)
菌類・藻類研究グループ 研究主幹。理学博士。東京大学で非常勤講師を務める。海藻の系統分類、海藻相、海藻学史を専門とするが、海藻のみならず、川に生育する藻の研究にも力を入れる
出汁を出すために生まれてきた
海藻界のエース「昆布」
昆布にうま味が多い理由
昆布がうま味成分のグルタミン酸(アミノ酸の一種)を大量に蓄えているのはなぜか。昆布は海の浅瀬で陽光を浴びて光合成を行い、アミノ酸をつくる。アミノ酸は葉の成長に必要な有機化合物だが、途中で使われることなく遊離した状態で葉の基部へ向けて運ばれるため、昆布はつねに大量の「うま味」を含む
昆布はなぜ海の中で出汁が出ないの?
出汁になるグルタミン酸は昆布が成長するための養分。昆布が海中で生命活動をしている間は養分が流れ出ることはない。昆布を引き揚げ、干すことで体内に閉じ込められられていた養分が体外に出る(=出汁が出る)
海藻を消化できるのは日本人だけ?
日本人は腸内に海藻を消化できる細菌(バクテリア)をもつとの研究発表が話題に。古代、海藻を生食した日本人は、海藻に付いている海洋細菌もともに摂取したため、長い歳月の間に腸内細菌が海藻を分解する酵素の遺伝子を獲得したという説がある
昆布は北海道生まれ
昆布は世界の冷たい海に生育している。カリフォルニア沖のジャイアントケルプは長さ60m以上に成長する世界最大の海藻として知られるが、そもそも昆布は北海道生まれ。厚岸(あっけし)にすむコンブモドキという海藻がコンブ類の祖先のひとつと考えられている
ワカメは世界の海では嫌われ者?
日本では古くから食用とされてきたワカメ。本来は東アジア固有の海藻だが、2001年に「世界の侵略的外来種ワースト100」に挙げられた。日本からワカメを連れ出したのは、養殖用の種牡蠣やタンカーなどのバラスト水(船のバランスを取るためにくみ上げる海水)だといわれている
日本の美味しい海藻
海岸線が南北に長く、寒流と暖流がぶつかる日本の海には、1500種類ほどの海藻が確認されている。その中で「奇跡的に美味しい」海藻といえば昆布・若布や海苔。地方に行けば、流通に乗らない海藻がさまざまに工夫されて食卓に上っている
<全国に流通する食用海藻>
昆布以外にも全国で食べられている海藻。流通に乗せるには、乾燥や塩蔵などの加工を施す必要がある
<地方限定の食用海藻>
日持ちしないため、全国へ流通しない地産地消の海藻。地域の名で親しまれるものも多い
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国立科学博物館で特別展
「和食 〜日本の自然、人々の知恵〜」を開催中
「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録されて10年。世界でますます注目の高まる食文化を、科学や歴史などの多角的な視点から紹介。日本列島の自然が育んだ多彩な食材、人々の知恵や工夫が生んだ技術、歴史的変遷と和食のこれから……。意外と知らない和食の魅力に迫る
会期|〜2024年2月25日(日)※月曜(12/25、2/19と祝日は開館、翌火曜休館)、年末年始を除く
開館時間|9:00〜17:00
会場|国立科学博物館(東京・上野公園)
Tel|050-5541-8600
https://washoku2023.exhibit.jp
text: Yukari Akiyama
参考|『特別展「和食 〜日本の自然、人々の知恵〜」公式カイドブック』
Discover Japan 2023年12月号「うつわと料理」