新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」
越後まつだい里山食堂
アートと一体化しながら、
里山の食文化を味わう|前編
世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。
大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。
松代エリア
信濃川の支流・渋海川沿いを中心に形成され、周囲を山々に囲まれた丘陵地帯。里山の美景の中にイリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』、草間彌生さん『花咲ける妻有』など世界的アーティストの作品が点在している。
文化・芸術の最も原初的で基本的な表現は「食」にある――。それは、「大地の芸術祭」が大切にしている理念のひとつだ。点在するアートと融合したレストランを訪れ、口福の時間を味わいたい。
越後妻有のお母さんとの会話も
里山のごちそうです
「大地の芸術祭」が大切にしている理念のひとつに食がつくる「生活芸術」がある。建物自体がアート作品である総合文化施設「まつだい『農舞台』」内にある「越後まつだい里山食堂」では、越後妻有の食文化の魅力がアートと一体化しながら堪能できる。
美しい水色が映える空間は、ジャン=リュック・ヴィルムートさんの作品『カフェ・ルフレ』。店内に配された鏡のテーブルには、地域住民たちが自宅から写した美しい土地の風景が四季それぞれに映り込む。この空間で食べられるのは、地元のお母さんとその娘世代の方たちが郷土の味わいを現代風にアレンジした手づくり料理だ。
「野菜は近所の農家さんが持ってきてくれるもの。山菜は近くの野山で摘んで……ほら、黄色いふきのとうがぴんぴんと芽吹いているのが見えるでしょ。寒の時期に豆と麹、塩を混ぜて仕込む醤油の実とか、家庭に伝わる食べ方を取り入れています。そうした料理や景色を通して妻有の自然を愛してくれたらうれしいです」
目の前に広がる美しい棚田を眺めながらお母さんが教えてくれた。母から娘へ、そして未来へと受け継がれる食文化だけでなく、この地で暮らす人たちとの会話もまた、ごちそうなのだ。
日本の食文化の結晶。
その根底を体験する
越後まつだい里山食堂を監修するのは、「Jean-Georges Tokyo」の料理長など数々の名店で活躍してきたトップシェフの米澤文雄さん。2015年より大地の芸術祭のオフィシャルシェフとして深く関わる、この地の食の魅力をこう語る。
「いま都市部では失われつつありますが、かつて日本の家庭では、お母さんやおばあちゃんが自分のルーツの味を取り入れた料理をつくり、日々の食卓に並んでいました。そういった日本人の味覚を育んできた食文化の根底が越後妻有には残されています」
春は芽を食べ、夏は野菜で水分をとり、冬を越すために保存食をつくる。食べ方や調理のすべてに理由があり、その文化は継承していかなければいけないものだと続ける。
「新潟だからこその料理があり、背景に特有の食文化がある。それを現地で味わうからこそ、掛け替えのない美味しさにつながるのです」
越後まつだい里山食堂
住所|新潟県十日町市松代3743-1 まつだい「農舞台」内
Tel|025-594-7181
営業時間|【~7月29日、9月5日~11月13日】10:00~17:00(L.O.16:30)/【7月30日~9月4日】10:00~18:00(L.O.17:00)
※いずれもランチ 11:00~14:00
休業日|火・水曜 (祝日は除く)
1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編・後編
2|越後まつだい里山食堂 前編・後編
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13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い
text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」