FOOD

新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」
越後まつだい里山食堂
アートと一体化しながら、
里山の食文化を味わう|前編

2022.6.30
新潟・越後妻有「大地の芸術祭 2022」<br>越後まつだい里山食堂<br><small>アートと一体化しながら、<br>里山の食文化を味わう|前編</small>
ジャン=リュック・ヴィルムートさんの作品『カフェ・ルフレ』。ルフレは反射の意。地域住民にインスタントカメラを渡し、撮影された風景が鏡のテーブルに映し出される

世界有数の豪雪地帯として知られる新潟県の越後妻有(えちごつまり)エリア。過疎高齢化の課題を抱えていたこの地は、2000年より開催されている世界最大級の国際芸術祭「大地の芸術祭」によって世界中から注目を集める場所となった。4月29日から開催されている第8回を取材し、アートを道しるべに里山をめぐることで風土・文化を体感する旅の魅力を探る――。

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大地の芸術祭とは・・・
「人間は自然に内包される」をコンセプトに、国内外の著名なアーティストと地域住民が協働し、210の常設・既存作品に加えて、新作・新展開作品が123点追加。約760㎢にわたる広大な6つのエリアで11月13日(日)まで開催される。

松代エリア

信濃川の支流・渋海川沿いを中心に形成され、周囲を山々に囲まれた丘陵地帯。里山の美景の中にイリヤ&エミリア・カバコフさんの『棚田』、草間彌生さん『花咲ける妻有』など世界的アーティストの作品が点在している。

文化・芸術の最も原初的で基本的な表現は「食」にある――。それは、「大地の芸術祭」が大切にしている理念のひとつだ。点在するアートと融合したレストランを訪れ、口福の時間を味わいたい。

その土地の「食」の主人公は、地元の人たち。「私たちが昔から食べている保存食や総菜を美味しいと気に入り、つくり方を聞いてくださる方がとても多いです」

越後妻有のお母さんとの会話も
里山のごちそうです

新潟は日本有数の米処。その中でも、冬には2mを超える積雪や昼夜の寒暖差、山から染み入る流麗な雪解け水が、松代エリアの棚田の美味しい米を育んでいる
photo :Yanagi Ayumi

「大地の芸術祭」が大切にしている理念のひとつに食がつくる「生活芸術」がある。建物自体がアート作品である総合文化施設「まつだい『農舞台』」内にある「越後まつだい里山食堂」では、越後妻有の食文化の魅力がアートと一体化しながら堪能できる。

美しい水色が映える空間は、ジャン=リュック・ヴィルムートさんの作品『カフェ・ルフレ』。店内に配された鏡のテーブルには、地域住民たちが自宅から写した美しい土地の風景が四季それぞれに映り込む。この空間で食べられるのは、地元のお母さんとその娘世代の方たちが郷土の味わいを現代風にアレンジした手づくり料理だ。

「野菜は近所の農家さんが持ってきてくれるもの。山菜は近くの野山で摘んで……ほら、黄色いふきのとうがぴんぴんと芽吹いているのが見えるでしょ。寒の時期に豆と麹、塩を混ぜて仕込む醤油の実とか、家庭に伝わる食べ方を取り入れています。そうした料理や景色を通して妻有の自然を愛してくれたらうれしいです」

目の前に広がる美しい棚田を眺めながらお母さんが教えてくれた。母から娘へ、そして未来へと受け継がれる食文化だけでなく、この地で暮らす人たちとの会話もまた、ごちそうなのだ。

日本の食文化の結晶。
その根底を体験する

里山ごはん 1200円(平日限定)
旬の妻有野菜で仕立てる6品程度の総菜と炊きたての棚田米、味噌汁、きめ細やかで軟らかく、芳醇な旨みと甘みが魅力の妻有ポークなどを使用した肉料理1品、漬物が楽しめるセット。白米か玄米が選べる

越後まつだい里山食堂を監修するのは、「Jean-Georges Tokyo」の料理長など数々の名店で活躍してきたトップシェフの米澤文雄さん。2015年より大地の芸術祭のオフィシャルシェフとして深く関わる、この地の食の魅力をこう語る。

「いま都市部では失われつつありますが、かつて日本の家庭では、お母さんやおばあちゃんが自分のルーツの味を取り入れた料理をつくり、日々の食卓に並んでいました。そういった日本人の味覚を育んできた食文化の根底が越後妻有には残されています」

春は芽を食べ、夏は野菜で水分をとり、冬を越すために保存食をつくる。食べ方や調理のすべてに理由があり、その文化は継承していかなければいけないものだと続ける。

「新潟だからこその料理があり、背景に特有の食文化がある。それを現地で味わうからこそ、掛け替えのない美味しさにつながるのです」

里山ビュッフェ1700円(土・日曜、祝日限定)
顔の見える生産者が育てた採れたて野菜、里山の自然が育む山菜などを使用し、郷土の味にアレンジを加えた滋味深い総菜を中心に、自家製の漬物や炊き込みご飯、スパイス香る里山カレーまで、約20種類の料理が存分に味わえる
米澤文雄さん
NYの三つ星フレンチ「Jean-Georges」本店で日本人初のスーシェフに抜擢。帰国後、Jean-Georgesの日本初進出を機に総料理長を4年務める。「THE BURN」料理長を経て、’22年「No Code」設立。ジャンルを越境し活躍の場を広げている

越後まつだい里山食堂
住所|新潟県十日町市松代3743-1 まつだい「農舞台」内
Tel|025-594-7181 
営業時間|【~7月29日、9月5日~11月13日】10:00~17:00(L.O.16:30)/【7月30日~9月4日】10:00~18:00(L.O.17:00)
※いずれもランチ 11:00~14:00 
休業日|火・水曜 (祝日は除く)

 

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《新潟・越後妻有 大地の芸術祭 2022》
1|越後妻有里山現代美術館 MonET 前編後編
2|越後まつだい里山食堂 前編後編
3|旅の最後は“祈り”のアート『手をたずさえる塔』へ
4|アート里山をめぐる 前編後編
5|ジェームズ・タレルの泊まれるアート『光の館』
6|総合ディレクター・北川フラム氏に聞いた、アートの力で地域の魅力を掘り起こす秘訣とは?
7|十日町エリアの作品・作家マップ 前編後編
8|川西エリアの作品・作家マップ 前編後編
9|中里エリアの作品・作家マップ 前編後編
10|松代エリアの作品・作家マップ 前編後編
11|松之山エリアの作品・作家マップ 前編後編
12|津南エリアの作品・作家マップ 前編後編
13|6エリア別 作品・作家見どころガイド
14|出展アーティスト4名に聞く作品に込めた思い

text: Ryosuke Fujitani photo: Norihito Suzuki
Discover Japan 2022年6月号「アートでめぐる里山。/新潟・越後妻有”大地の芸術祭”をまるごと楽しむ!」

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