古来広く栽培され、
多彩な用途に活用される「クリ」
《暮らしの中にある木の図鑑30》
高温多湿な気候に恵まれた森林大国・日本に存在する樹木の種類は900〜1000種に及ぶという。ここでは古来日本人の暮らしに溶け込んできた「木の文化」にまつわる30の樹木をセレクト。今回は、古来広く栽培され、多彩な用途に活用される「クリ」を解説する。
ブナ科の落葉高木。クリ属には北半球の温帯と暖帯に12種が分布するが、我が国には1種が自生。北海道南部から九州、そして朝鮮半島中南部の特産種である。土質や気候をそれほど問わず幅広い地域に生育し、傾斜地でも生育に問題がないため、管理がしやすいのが特徴。病虫害も少なく食用となる実をつけるため、古来広く栽培されており、縄文時代の遺跡からも多く出土している。昔は実を殻のまま干し、杵でつぶして殻を除き搗栗(かちぐり)にし、保存食として活用。搗栗は武将の出陣や勝利の祝いなどに用いられていた。現在も栗ご飯や栗おこわ、焼き栗やゆで栗、栗羊羹や栗きんとんなどさまざまなかたちで調理され、多くの日本人に食され続けている。材は、肌目は粗いが割裂が容易で耐久性が高い。典型的な環孔材で、道管(木材の成長方向に伸びる管状の細胞。水分や栄養分を運ぶ)径の大きさは、日本の木材の中で最大の部類に入る。
木材名|栗
学名|Castanea crenata Sieb. et Zucc.
科名|ブナ科(クリ属)落葉広葉樹
産地|北海道(南部)〜九州
<木・葉・実>
樹皮は暗い灰色から黒褐色で、縦に不規則な割れ目ができる。よく知られる通り、実は長いトゲのある殻斗(かくと=イガ)に包まれており、素手の採取には注意が必要。葉は長さ7〜15㎝の狭い長楕円形で針状の鋸歯がある。葉のかたちはクヌギに似ているが、クヌギの葉の裏面が白に近いのに対し、クリの葉の裏面は緑がかっており、鋸歯もクヌギより短く緑が残っている
<特徴・用途>
建築材や家具、漆器、船や橋梁など多くの用途に用いられる。床柱としての名栗丸太(断面が六角形で表面を手斧で凸凹に削った柱のこと)は日本建築でよく知られ、数寄屋造の床柱や茶室の中柱に使われる。タンニンの含有量が多いため耐朽性や保存性、耐湿性が非常に高く、長年にわたって鉄道の枕木に使われてきた。そして、エキスは皮のなめしにも用いられている
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「ケヤキ」
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監修=国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 安部 久
text: Naruhiko Maeda photo: Hisashi Abe from Forest Research and Management Organization
参考文献=『日本有用樹木誌』伊東隆夫・佐野雄三・安部 久・内海泰弘・山口和穂著(海青社)
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」