日本中に広く植林される最高の材「ヒノキ」
《暮らしの中にある木の図鑑30》
高温多湿な気候に恵まれた森林大国・日本に存在する樹木の種類は900〜1000種に及ぶという。ここでは古来日本人の暮らしに溶け込んできた「木の文化」にまつわる30の樹木をセレクト。今回は、日本中に広く植林される最高の材「ヒノキ」を解説する。
ヒノキ科の常緑高木。日本ではスギに続く重要造林樹種で、日本中の野山に広く植林。太古の時代より建築用材として広く使われており、弥生時代の高床式大型建物に直径70㎝のヒノキの柱が多数使われていたことが確認されている。日本書紀には宮殿を造営するための用材として推奨されていたことが記載され、古事記には皇女の邸宅や宮門がヒノキでつくられているという記述がある。橿原宮、飛鳥浄御原宮、藤原宮、平城宮への遷都とともに大和中心に多くの大建築が造営。大量のヒノキが用いられた。大径材が得られ、肌目が緻密で色つやがよく、加工もしやすいため、現在も日本最高の木材といわれる。平安時代からカヤやヒバと同様に仏像にも多く用いられており、木目が緻密で年輪部分の黒い筋が非常に細いため、仏像の柔らかい表情を表現するのに適しているという説も。現代では、尾州ヒノキの柾目面が最良という仏師もいる。
木材名|桧、檜
学名|Chamaecyparis obtusa (Sieb. et Zucc.)Endl.
科名|ヒノキ科(ヒノキ属)常緑針葉樹
産地|本州(福島県以南)、四国、九州(屋久島まで)
<木・葉・実>
樹高30m、直径1.5mに達する。ヒノキ属は世界に6種分布し、日本にはヒノキとサワラの2種類が見られる。材は白く繊細で強度と加工性に優れ、光沢があり、漆などを塗らず木地のまま使用できる。心材はヒノキチオール、ヒノキニン、ヒノキオールなどの成分を含む。香りもよく、耐朽性や保存性も高いことから、多くの用途に使われている
<特徴・用途>
伊勢神宮は総檜造の造営で知られる。宮廷や豪族の邸宅などに用いられたほか、法隆寺、東大寺、正倉院、薬師寺、唐招提寺など現存する大寺院に使用。歴史上、建築用材として重要視されてきた。社寺など建築用のほか、家具や仏壇、漆器、風呂桶、橋梁、船舶、彫刻などあらゆる木製品に利用される。縦に裂け目ができ剥皮しやすいため、樹皮も寺社の屋根葺きに使われる
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22|モミ
23|イチイ〜ヤナギ
監修=国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 安部 久
text: Naruhiko Maeda photo: Hisashi Abe from Forest Research and Management Organization, WISE・WISE
参考文献=『日本有用樹木誌』伊東隆夫・佐野雄三・安部 久・内海泰弘・山口和穂著(海青社)
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」