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精神科医 星野概念が教える
心の居場所探しが孤独感を和らげる

2020.6.8
<b>精神科医 星野概念が教える<br class=“none” />心の居場所探しが孤独感を和らげる</b>

新型コロナウイルスが猛威を振るい、突如として外出の自粛を余儀なくされる生活が訪れた。家で過ごす中で思考を整理する時間が増えた一方で、孤独を感じている人も多いのではないだろうか。精神科医の星野概念さんに、いまの非日常を乗りきるためのヒントを聞いた。

星野概念(ほしの・がいねん)
病院勤務の精神科医。執筆や音楽活動も行う。雑誌やウェブでの連載のほか、寄稿も多数。音楽活動はさまざま。著書に、いとうせいこうさんとの共著 『ラブという薬』(リトルモア)、『自由というサプリ 続・ラブという薬』(リトルモア)がある

大変な世の中になってきました。少し前までコロナと聞けば、ライムかレモンでも搾る? という思考が流れたはずなのに、いまや遠い昔の平和なおとぎ話のようです。すべての人ができる限りの巣ごもり生活を心掛けることが必要になり、決まっていた楽しみなイベントや、成長や成功のために立てていた計画はほとんどが延期か中止。

日々のストレスを発散するためにジムで運動したり、カラオケで声を出したり、カフェでお茶をしたり、酒場で語り合うなど自分なりの対処法として見出したことも、大体は他人の存在が近くにあって、ソーシャルディスタンスという耳慣れない遵守必須ワードとともに続けることができなくなりました。いま我々を取り巻く環境は、おそらく世界的に、まったく新しい規律のある社会に突然さま変わりしたと言えます。

人を含めた生物は皆、慣れない新しい環境に入るとそれに適応するのに数カ月ほどの時間がかかります。5月病という言葉がありますが、これは4月の新年度から職場や学校など環境が変わった人が、なかなか馴染めずじわじわと疲れ過ぎてしまって、不安や焦り、無気力感などに苛まれることをいいます。新型コロナウイルスの猛威に怯える現在、我々全員が5月病のような適応障害を呈する可能性があります。

慣れない環境に適応するまでは、その環境は非日常といえます。どんどん余裕はなくなり、物事を冷静にとらえられなくなる人も少なくないでしょう。当然です。巣ごもり生活に疲れてしまったり、客商売が成り立たず経済的に困窮する不安を抱えたり、社会的任務のために困難な仕事を続けなければならなかったり、事情は少しずつ違うかもしれませんが、皆過酷です。皆過酷なのですが、余裕がなくなると、“皆が過酷”というある種の連帯感を感じることさえできなくなり、自分はこんなに過酷だ、耐えられないと、つらさがさらに極まっていくかもしれません。

連帯感は、常に強く感じる必要はないと思いますが、まったくない状態に近づくとかなりつらいです。なぜなら連帯感が薄まることは孤独感が濃くなることだからです。人は基本的には社会的な生き物なので、孤独感が濃くなると絶望に直結します。この孤独感に対してどう対処すべきか。これは実は、コロナ前から我々の大きな課題です。

孤独感を和らげるために簡単なことは、集まることです。気の合う人たちと集まれば、連帯感を取り戻せます。ソーシャルディスタンスを守りながら、オンラインで集会をする人たちが増えているのは、おそらく無意識的にそういった居場所の必要性を感じているからだと思います。でもそれは万能なことでしょうか。

僕もオンラインの集会を何度か経験しましたが、なんとなくその特殊性にまだ慣れません。新しい社会自体に慣れていないためにオンラインの集会を気軽に楽しめないのかもしれませんが、ある種の人当たりのような息苦しさを覚えることがあります。直接会うのと違い、皆のノンバーバルな雰囲気を感じることが少し難しく、その分気を遣い過ぎているのかもしれません。人と集える居場所があるのはありがたいけど時々でいいかもしれないな、というのが現在の私見です。

ぬか床をはじめるため、COBOの「ウエダ家のにおわないぬか床」を購入。愛用歴は1カ月。目に入った食材すべてを漬けているという

もうひとつ、人と関係しなくても孤独感が和らぐことがあります。それは心の居場所を見つけることです。不安や焦りばかりに苛まれているとき、心は安心する居場所を失ってあたふたします。気の合う人と会うとき、その人との関係性を紡ぐことに心を使うため、それが心の居場所になります。

それと同じで、少しの時間でもそのことをしたり考えたりするとうれしい、楽しいというものが見つかることは、心の居場所を得ることだといえます。たとえば自作のマスクをつくってみるとか、部屋の模様替えをしてみるとか、作業を楽しむことはそのひとつかもしれません。作業といえば、料理を工夫するなどは、生活に必須な上に時間がある程度ないとできないことなのでやりがいがあるのではないでしょうか。

ちなみに、僕は発酵に関することを考えたり触れたりすることが好きで、これまで味噌や醤油を趣味でつくってきましたが、4月からはついに、ずっとやってみたかったぬか床をはじめました。色々なものを漬けたり、気になる乳酸菌をまぶしてみたり、いまはぬか床がかわいくて仕方ありません。オンラインの集会よりもぬかを触りたい気持ちになったりもします。

また、作業でなくても、お気に入りの動画やYouTuberを探すのも楽しそうだし、働いているとなかなか取り組めない語学などの勉強に着手してみるのもよいのではないでしょうか。僕は、病院勤務がなければ英語の勉強をしてみたいと思っています。いざその状況になったら取り組むかどうかわかりませんが……。

いずれにしても、人にとって必要なのは心の居場所だと僕は思います。新型コロナウイルスが広がってしまっている現在を無理やりポジティブにとらえるとすれば、心の居場所を探す時間が増えた、ということになるでしょうか。コロナ後の世界、自分で自分を労れる心の居場所が増えていれば、この苦しい期間は意味があったと言えるかもしれません。

文・イラスト=星野概念
執筆=4月19日
2020年6月号 特集「おうち時間。」

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