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日本の暮らしの中にある8種類の木
《暮らしの中にある木の図鑑30》

2023.10.14
日本の暮らしの中にある8種類の木<br><small>《暮らしの中にある木の図鑑30》</small>

高温多湿な気候に恵まれた森林大国・日本に存在する樹木の種類は900〜1000種に及ぶという。ここでは古来日本人の暮らしに溶け込んできた「木の文化」にまつわる30の樹木をセレクト。最後は、「イチイ」、「カシ」、「カヤ」、「サワラ」、「マユミ」、「ミズキ」、「ヤチダモ」、「ヤナギ」の8種類を解説する。

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① 材はやや重硬。
名称の由来は仁徳天皇「イチイ」

樹高15m、直径1mに達する。針葉樹類に含まれるがほかと異なり球果をつくらず、硬い種子を水気のある肉質で包む仮種皮の実をつける。材はやや重硬。緻密でつやがあり、寸法の狂いが少なく耐久性が高いため工芸に多用される。名称は仁徳天皇がこの木でつくった笏に正一位という官位を授けたことに由来。

木材名|一位
学名|Taxus cuspidata Sieb. et Zucc.
科名|イチイ科(イチイ属)常緑針葉樹
産地|北海道〜九州(南九州を除く)

② 強靭さを求められる用途に強い「カシ」

カシ類は国内に8種類ほど生育。特に広く分布し、活用されてきた樹種にアカガシとシラカシがある。関東地方ではシラカシがよく知られており、1mの大木になることも。葉は大きく長楕円形で厚く、表面に光沢がある。材は硬く強度が高いため、器具材や車両材、建築材など強靭さを求められる用途に多く使われた。

木材名|樫
学名|Quercus myrsinaefolia Blume(シラカシ)
科名|ブナ科(コナラ属)常緑広葉樹
産地|本州(新潟県・福島県以南)、四国、九州

③ 適度な弾力性で
碁盤や将棋盤にも使われる「カヤ」

樹高25m、直径2mに達し、葉は線形で2本の白線が走る。材は黄白色でシナモンのような甘い香りがする。耐朽性、保存性、耐湿性が高く、加工も容易で適度な弾力性も有する。奈良時代以降の仏像によく用いられている。宮崎県日向市のカヤ材は色みがよく、最上級の評価を受けている。

木材名|榧、栢
学名|Torreya nucifera (L.) Sieb. et Zucc.
科名|イチイ科(カヤ属)常緑針葉樹
産地|本州(宮城県以南)、四国、九州(屋久島まで)

④ 軽軟で強度が低く、加工性が高い「サワラ」

同属のヒノキとは葉面の白い紋様や実のかたちで明確に区別される。材には耐水性があり、ヒノキに比べて軽く、軽軟加工性や寸法安定性に優れ、香りも少ないために、寿司桶や醤油樽などの食品の容器として用いられる。名前は古語の「爽らか(さはらか。すっきりしていること)」に由来するが、異説もある。

木材名|椹
学名|Chamaecyparis pisifera (Sieb. et Zucc.)Endl.
科名|ヒノキ科(ヒノキ属)常緑針葉樹
産地|本州(岩手県付近以南)、九州(北部)

⑤ 庭木や生垣、盆栽などに多く用いられる「マユミ」

樹高3〜5m、直径20㎝で大きいものは樹高10m前後に達する。秋に淡紅色の実を垂れる姿が美しく、庭木や生垣、盆栽などに多い。材は淡黄色で緻密なため、こけしや将棋の駒に用いられる。和名の「真弓」はこの木で丸木弓をつくったことによるもの。和歌にも多く詠まれ、万葉集には18の歌がある。

木材名|真弓、檀
学名|Euonymus sieboldianus Bl.
科名|ニシキギ科(ニシキギ属)落葉広葉樹
産地|北海道〜九州(屋久島含む)

⑥ 材は白色で緻密。細工がしやすい「ミズキ」

日本全国そして朝鮮半島、中国や台湾そしてヒマラヤにまで幅広く分布する。「水木」の漢字が当てられているのは、春先の葉のない時期に枝を切ると樹液が多く出ることによる。材は白色で清潔感があり緻密だが、重さと硬さは中庸。細工しやすく、東北地方のこけしはミズキ材でつくられている。

木材名|水木
学名|Cornus controversa(Hemsl.)Soják
科名|ミズキ科(ミズキ属)落葉広葉樹
産地|北海道〜九州

⑦ 主軸がしっかりして強度が高い「ヤチダモ」

樹高30m、直径1mに達する高木。「ヤチ」は谷沿いの湿地(谷地)に多く生えることにちなみ、「タモ」は水田のあぜによく植えられて「田茂木」と呼ばれたこと、あるいは自然信仰の対象として「霊(タマ)」と呼ばれたことなどにちなむ。主軸がしっかりして強度が高く、杖や農具などの道具類に使われる。

木材名|谷地梻
学名|Fraxinus mandshurica Rupr. var. japonica Maxim.
科名|モクセイ科(トネリコ属)落葉広葉樹
産地|北海道、本州(長野県以北)

⑧ 枝は現在も各地の風習に用いられる「ヤナギ」

しだれた枝の、川沿いに生える木を想像する人も多いが、実は日本に30種類以上あるヤナギにそういったものは少ない。枝が垂れるシダレヤナギの原産地は中国。樹高15m以上になり、古くから日本各地に植栽されてきた。正月にヤナギの枝に餅花を結んだり、柳箸をつくって豊作や無病を祈る風習が残る。

木材名|柳
学名|Salix spp.
科名|ヤナギ科(ヤナギ属)落葉広葉樹
産地|日本全土

読了ライン

《暮らしの中にある木の図鑑30》
01|アカマツ
02|イチョウ
03|エゾマツ
04|オニグルミ
05|カエデ
06|カツラ
07|カバ
08|カラマツ
09|キリ
10|クスノキ
11|クリ
12|ケヤキ
13|コウヤマキ
14|サクラ
15|トチノキ
16|スギ
17|ナラ
18|ブナ
19|ヒノキ
20|ヒバ
21|ホオノキ
22|モミ
23|イチイ〜ヤナギ

監修=国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 安部 久
text: Naruhiko Maeda photo: Hisashi Abe from Forest Research and Management Organization
参考文献=『日本有用樹木誌』伊東隆夫・佐野雄三・安部 久・内海泰弘・山口和穂著(海青社)
Discover Japan 2023年9月号「木と生きる」

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