世界で奄美大島と徳之島にしかいない
「アマミノクロウサギ」
《生物多様性を代表する三大スター》
世界が驚く島固有のいきものと言えば、まずはこのスターたち。彼らのどこがそんなにユニークなのか、今泉先生に教えてもらいました!今回は、独特な生態を3つの記事でご紹介します。
今泉 忠明(いまいずみ・ただあき)
1944年生まれ、東京都出身。ほ乳動物学者。国立科学博物館でほ乳類の分類学・生態学を学ぶ。1971年より環境省のイリオモテヤマネコ生態調査に参加。東京動物園協会評議員。『ざんねんないきもの事典』シリーズ監修。新刊は『あえるよ! 山と森の動物たち』(朝日出版社)
跳ねるより掘るのが得意な最も原始的な姿のウサギ
アマミノクロウサギ
世界で奄美大島と徳之島にしかいないウサギで、ヨーロッパのアナウサギの祖先。一説には500万年〜300万年前からいたといわれています。大陸で栄えたアマミノクロウサギの祖先種の生き残りといわれたことも。大陸の端っこに来ていたやつが、天敵のいない島でのんびり暮らしていたというわけ。大陸では後に生存能力の高いノウサギが登場し、古い形質をもつウサギはすべて絶滅しました。ノウサギは草原で進化したから速く走るのですね。走ると体温が上がるから、熱を逃すために耳が大きくなりました。一方、アマミノクロウサギは体も耳も小さく、足が短いから走るのは苦手。けれど穴掘りの名人です。昼間は斜面上に掘った巣穴で過ごし、夜になると穴を出て活動をはじめます。
赤ちゃんの育て方がユニークで、自分の巣穴とは別の穴を掘り、ハブが入らないよう土で入り口にふたをします。授乳ごとにふたを掘り開けるのですが、中から赤ちゃんが出てきて、おっぱいを飲み終えたら穴へ。すると母親はまたふたをしてどこかに行っちゃいます。その頻度は48時間に一度。赤ちゃんがミルクを消化する時間と、母親のおっぱいが張る時間が、ピタリと合っているのです。
アマミノクロウサギ
Data
分類/ウサギ目ウサギ科
体長/頭胴長41〜51㎝
体重/1.3〜2.7㎏
生息数/奄美大島2000〜4800頭、徳之島200頭(2003年)
ライフスタイル
食べているもの/ススキなどの草や、スダジイの実
住んでいる場所/常緑広葉樹の原生林の斜面の巣穴
特徴
◎小さい目
◎小さい耳
◎短いしっぽ
◎手足は短くてがっしり
◎頑丈な爪
◎毛は外側は茶色、内側は灰色
◎短い足
◎目はライトに当たると赤く光る
Q.絶滅しそうな理由って?
A.森林開発、外来種による捕食、交通事故など
開発により森林が減少し、生息地の分断が起こっている。古くから開発が進む徳之島では、山地の森林地域を中心に生息している。地理的に隔離されることによって、地域的な絶滅の危険性がある。人が持ち込んだマングースや、ノネコによる捕食も深刻。クマネズミによるウイルス病の感染も心配されている。植物の新芽を求めて夜間に林道に出てくることが多く、交通事故も後を絶たない。
「保護の取り組み」
→生息状況の調査とモニタリング。奄美マングースバスターズによるマングース防除やノネコ管理も
糞のカウント、自動撮影カメラによるモニタリングで、分布状況や生息密度を把握。生息域の一部を国立公園や天然記念物にするなど環境保全に努めている。2005年には「奄美マングースバスターズ」を結成。地域住民や研究者の協力により、マングースは根絶まであと一歩。また、近年はノネコによる脅威が明らかになってきたため、森に生息するノネコを計画的に捕獲し、希望者へ譲渡するなどの対策を行っている。
もっとアマミノクロウサギを知るためのスポット
「アマミノクロウサギ観察小屋」/徳之島
出没スポットに設置されたカメラに映る様子を観察できる施設。関連書籍や餌となる植物の植栽園地もあり、アマミノクロウサギの生態を総合的に学ぶことができる。
アマミノクロウサギ観察小屋
住所|鹿児島県大島郡天城町当部字大井久479-2
Tel|0997-85-5178(天城町役場企画財政課)
開館時間|9:00〜17:00 休館日|不定休 ※前日までに要予約
http://www.tokunoshimakanko.com/tourist_spot/kurousagi-kansatsu/
「奄美野生生物保護センター」/奄美大島
アマミノクロウサギなど稀少な野生生物の調査・研究、マングース防除事業を行う拠点。展示や自然観察会などを通じて、奄美群島の自然やいきものを肌で感じられる。
奄美野生生物保護センター
住所|鹿児島県大島郡大和村思勝551
Tel|0997-55-8620
開館時間|9:30〜16:30 休館日|月曜(祝日の場合は、翌日休)
http://kyushu.env.go.jp/okinawa/awcc/
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奄美の自然と伝統を楽しむ滞在
supervisor:Tadaaki Imaizumi text: Yukie Masumoto illustration: Tatsuji Fujihara(teppodejine)
Discover Japan 2021年8月号「世界遺産をめぐる冒険」
《生物多様性を代表する三大スター》
1|世界で奄美大島と徳之島にしかいない「アマミノクロウサギ」
2|走るのは得意だけど飛べない鳥「ヤンバルクイナ」
3|西表島だけに生息する野生のネコ「イリオモテヤマネコ」