谷尻誠が手掛ける「DAICHI」の
ネイチャーデベロップ事業とは?
2021年2月、自然環境を生かしたネイチャーデベロップ事業を行う「DAICHI」がついに動き出しました。建築家・起業家の谷尻誠さん、造園家・グリーンディレクターの齊藤太一さん、プロジェクトマネージャーの馬屋原竜さん、クリエイティブディレクターの木本梨絵さん、ディレクターの町田智昭さんが主なメンバーとなり、サウナチームとしてととのえ親方の松尾大さんとサウナ師匠の秋山大輔さんが参画しています。DAICHIが展開する“ネイチャーデベロップ事業”とは、いったいどのようなものなのか? 谷尻誠さんに話を聞きました。
建築家・起業家/SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役
谷尻誠(たにじり・まこと)
1974年広島生まれ。2000年、建築設計事務所SUPPOSE DESIGN OFFICE設立。2014年より吉田愛と共同主宰。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設まで国内外合わせ多数のプロジェクトを手掛けるかたわら、穴吹デザイン専門学校特任講師、広島女学院大学客員教授、大阪芸術大学准教授なども勤める。近年オープンの「BIRD BATH&KIOSK」のほか、「社食堂」や「絶景不動産」、「21世紀工務店」、「Tecture」、「CAMP.TECTS」、「社外取締役」、「toha」をはじめとする多分野で開業、活動の幅も広がっている。
「能動的ラグジュアリー」を提案する
「DAICHIでは、自然豊かな環境で行う宿泊施設の企画開発、運営、販売・賃貸業を軸に、幅広い事業を展開していく予定なんですね。それぞれの土地が有する魅力を建築で表現し、体験に価値を見出すこれからの時代へ向けた、『能動的ラグジュアリー』を提案していきます。たとえば肉を焼いたり、お酒を用意したりといったホテルでは全部やってくれることも、アウトドアならすべて自分でやりますよね。そのような能動的な体験の方が記憶に残りますし、気持ちを豊かにしてくれるんです」
DAICHIが展開する宿泊施設は“キャンプ以上、別荘未満”。ホテルには飽きが生じ、「自然の中に身を置きたい」と思いつつも、グランピングでは物足りず、キャンプには道具の準備等でハードルの高さや水回りの快適性に不安を感じるといった層にハマる、まったく新しい滞在スタイルだ。
「テントの設営や片付けなどの必要なく、別荘より設備が整っていないけれど、空間のグレードは高い。そんな宿泊施設はこれまでありませんでした。グランピングは、ほぼホテルですしね(笑)」
大きな開口部によって屋内と屋外がシームレスに繋がる建物や、屋内のスペースを最小限に抑え大地のリビングを自由に拡張できる建物など、DAICHIでは自然の風景を取り込む設計を行なっている。すべての施設にサウナも併設する予定で、汗を流したあとはそのまま湖や川へ飛び込んだり、人目を気にせず外気浴を楽しむことも可能だ。プライベートサイトとしてアウトドアを存分に満喫できるのは、大きな魅力であろう。
「キャンプではキッチンもリビングも屋外にありますし、寝室ですら外と中との境界が曖昧です。しかしこれまでは建物にすべての要素を閉じ込めていました。DAICHIではそれらを解放し、自然と一体化する建築をつくりたい。僕たちは“足らない”を提案しようと考えていて、便利なハードやソフトはあえて詰め込みません。サービスを提供しはじめるとライバルがホテルとなり、『それならホテルの方が楽だね』となるはずなんですよ。“真のラグジュアリー”とは、お金を払って得るサービスではないと思うんですね。薪をくべて火をおこす、月の明かりを頼りに夜を過ごす、このような体験こそが真のラグジュアリーではないかなと感じています」
自然の中にいるからこそ得られる体験
谷尻さんは毎週末のようにキャンプへ出かけるというアウトドア派。キャンプをはじめたきっかけは、6歳になる息子さんの存在であるという。
「東京で子どもと遊ぶには、公園のように誰かがあらかじめ準備した場所しかありません。でも自然の中では枝や石を拾ったり、葉っぱを集めたり、自分で遊び方を考えますよね。自ら何かを生み出せる大人になるには、そういった環境が大事だと思うんです。息子もキャンプへ行くたびにたくましくなっていますよ」
アウトドアでの体験は日々繰り返す行為ですら特別なものへ昇華していく。食事もそのひとつ。たとえそれが“いつものお弁当”であったとしても、外で食べるととても美味しく感じられはしないだろうか。谷尻さんはその理由を考え、ひとつの答えにたどり着いたという。
「ご飯もビールも、自然の空気と一緒に身体に取り込むから、より一層美味しく感じるのだと思うんです。僕らは建物ないし空間をつくる仕事をしていますが、室内でより屋外での行為の方が楽しいことに、ある種の悔しさを覚えていました。『どうしたら自然界のような感動を生み出せるのだろう』と考えた末、自然の気持ち良さを建築に取り入れれば、人工的な建物でも感動できるはずだと気づいたんです」
DAICHIを通じて自然とともに生きていく
そして導かれたのがDAICHIである。ベースとなるビジネルモデルは、DAICHIが自然環境のよい土地を購入し、建物を建て、そこを販売する仕組みだ。購入者が利用しないときは貸し出せるマッチングシステムの構築や運用のサポートもDAICHIで行うため、別荘を購入するというより利回りのいい不動産投資の感覚に近い。
「金曜の夜に出掛け、キャンプ道具の準備と片付けの手間なくDAICHIでアウトドアを楽しみ、月曜の朝に帰宅をする。平日は都内で仕事をすればいい。週のほぼ半分を自然の中で過ごせるライフスタイルなんて最高じゃないですか。しかもDAICHIのシステムなら富裕層でなくとも物件の購入が現実的ですし、黒字化の可能性もあります。だからまずは僕が実践するつもりなんですよ」
「自分はカスタマーである」という視点で設計に取り組む谷尻さんの考えは、DAICHIにも生きている。さらに自身がアウトドア好きだからこそ、自然と親しむことで得られる学びも知っているのだ。
「自分たちが訪れたいと思う建築であること、能動性が喚起される場所であること、この2つは設計を行う上でとても重要な視点です。大人になると“はじめて”が減ってきますが、自然はたくさんの“はじめて”を教えてくれる。そこから着想を得ることは多いですし、自身の体験に基づく提案には嘘がありません。自然界は思い通りにならないからこそ、人間が工夫をしますよね。僕は〝不便益〞があると思っていて、要は不便ゆえに考えて導き出されたアイデアが結果的に利益となるんです。便利な状況は何も考えずとも物事がスムーズに進むんですよ。考える癖をつけることは仕事でも役立ちますし、そこからクリエイティブが生まれていく。DAICHIが自然の魅力を知るきっかけになれたらうれしいですね」
DAICHIが手掛ける、“キャンプ以上、別荘未満”の宿泊施設
PROJECT1/CONTAINER
小屋の三面に開口を設けることで、雨風をしのぎながらも自然との一体感を実現。サイドに広がるテラスや小屋の周辺に椅子を並べれば、自然がリビングに早変わり。湖畔に点在する建物により、新しい空気の流れや光の角度を生み出している。
PROJECT2/YAMANAKAKO
山中湖からほど近い森の中に佇む小さな小屋。高い天井を備えた寝室とキッチンが一対となるよう構成し、その間にあるテラスにタープを張れば、自然を全身で感じられるリビングの完成だ。
PROJECT3/GOTENBA
大きな開口部からは富士山の姿が捉えられ、借景として建築に取り入れることで一層その存在感を増していく。屋外の開放感と屋内の便利さを備える4mのキッチンを配した、絶景を堪能できる家。
PROJECT4/COMING SOON
傾斜に合わせて建ち並ぶ建物のひとつひとつに約束される、パーソナルな眺望。焚き火やプールが楽しめる屋根の下の空間は外と繋がっているため、自然の豊かさが存分に感じられるはずだ。建築を通じて場を編集しながら、風景そのものをデザインしている。
PROJECT5/ISUMI
基本的な構造は、光と風をコントロールする屋根と壁のみ。寝室と水回り以外の空間は屋外と繋がり、自然に身を委ねられる。テラスのプールは目の前に流れる川と呼応するようで、水で身体が冷えたら暖炉で暖まろう。
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2021年5月6日発売号では、谷尻誠さん率いるSUPPOSE DESIGN OFFICEの社員旅行に密着! 太陽の下、建築家としてのアウトドアの魅力をうかがってきました。
text: Nao Ohmori