「和多屋別荘」
佐賀県嬉野でワーケーション
温泉旅館×サテライトオフィス
職場環境を変えるだけじゃない。最大の目的は旅館と街に新たなエナジーを生むこと。温泉旅館「和多屋別荘」と嬉野茶の魅力を発信する「イノベーションパートナーズ」が取り組む、持続可能な旅館と企業の共生に迫る。
旅館の一室がオフィスになった!?
新型コロナウイルスの影響が拡大する中で、観光・旅館業は窮地に立たされている。嬉野茶、温泉、肥前吉田焼を掛け合わせ、ティーツーリズムという新たな旅のスタイルを提案してきた温泉旅館「和多屋別荘」も、その影響をまともに受けている旅館のひとつだ。
そんな中、和多屋別荘が新たな宿の活用方法として始めたのが客室のオフィス化。旅先で休暇を楽しみながらテレワークするワーケーションとは違い、稼働していなかった客室をオフィス仕様にリノベーションし、企業を誘致するというもの。旅館は”1泊2食”や”短期間の滞在”が当たり前という固定観念を壊し、使っていない客室があるなら、有効活用した方がよいという考えの下に発足したプロジェクトで、2年ほど前から構想を温めていたそうだ。実際に企業が入居し、オフィスとして稼働しはじめたのは今年4月。和多屋別荘の代表取締役・小原嘉元さんは「自粛期間中、宿泊客を受け入れられない時期でも、このオフィスだけは稼働していました。つまり、宿泊客ゼロでも、当旅館としては家賃70万円が1カ月の売り上げになる」と赤裸々に語る。
働き方や職場環境などが見直されていた時期だったこともあり、市内外で話題を呼び、旅館が生き残るための一手として注目を集めた。
オフィスに入居しているのは東京に本社を構えるプロモーション企業「イノベーションパートナーズ」。同社は嬉野の茶農家が主体となって嬉野茶の魅力を発信するプロジェクト「嬉野茶時」のEコマース事業に関わっており、その縁から入居第1社目となった。そんなイノベーションパートナーズが嬉野にサテライトオフィスを開設することで生まれるメリットとは?そして、今後の展望、思いに迫った。
企業誘致でシナジーを生む
旅館、地域との持続可能な共生関係
「イノベーションパートナーズ」の嬉野サテライトオフィスに常駐しているのは、現在4人。プロデューサー、ディレクターなど職種はさまざまだ。同社代表の本田晋一郎さんは「嬉野との関係性が深まる中で、地に足を着けて活動したほうがよいと考え、サテライトオフィスを設立しました。ただ、最も大切なのは、私たちはここで何ができるかということ。単に嬉野で働くだけではなく、地域やそこに暮らす人たちとどれだけ共生し、新たなシナジーを生むことができるかが重要」と話す。
その考えから、サテライトオフィス立ち上げにあたり新たに雇用した現地の社員には、旅館や茶農家の仕事を体験してもらったという。その理由は「嬉野の風土や文化を身をもって体験しないと、そこにオフィスを構える意味がない」から。支社設立だけが目的ではないのだ。
さらにイノベーションパートナーズは「和多屋別荘」のハウスエージェンシーとしての機能もサテライトオフィスにもたせた。そのことを和多屋別荘の小原さんは「当旅館にとって家賃契約以上の価値」と話し、今後さらに客室のオフィス化を進める中で、イノベーションパートナーズが企業を誘致するサブリース契約も結んだ。つまり、多方面のプロモーションを得意とするイノベーションパートナーズのネットワークを活用し、全国から嬉野へと企業や事業主を集めるというわけだ。もちろん、そこには嬉野、ひいては佐賀に共生し、新たなイノベーションを起こす存在となることが絶対条件になる。”旅館×オフィス”によって生まれるシナジー。この仕組みが確立されれば、地方雇用の増大はもちろん、新たな地域ブランドの誕生も夢ではない。
イノベーションパートナーズ 嬉野アジアヘッドオフィス
住所|佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙738(和多屋別荘内)
問|イノベーションパートナーズ(Tel:0954-27-8320)、和多屋別荘(Tel:0954-42-0210)
Wi-Fi自由!温泉地の公園でワーケーションもできる!
温泉街を流れる塩田川に面して整備。嬉野市の無料公衆無線LAN「bihada Wi-Fi」が公園全域をカバーしているほか、川に面してカウンターやベンチを用意。カウンター下には自由に利用できるコンセントもあり、ここで仕事をすることも可能だ。
嬉野温泉公園
住所|佐賀県嬉野市嬉野町大字下野甲12-1
問|嬉野市観光商工課(Tel:0954-42-3310)
営業時間|終日解放(bihada Wi-Fi利用可能時間:6:00~22:00)
text:Tsutomu Isayama photo:Hiromasa Matsumoto