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ドメーヌ・タカヒコ卒業生ワイナリーのワイン造り
ドメーヌモン/山田堂/ロウブロウ/ランセッカ/ドメーヌ・ミズキ ナカイ

2023.12.21
ドメーヌ・タカヒコ卒業生ワイナリーのワイン造り<br> <small>ドメーヌモン/山田堂/ロウブロウ/ランセッカ/ドメーヌ・ミズキ ナカイ</small>

北海道・余市でワイナリー創業を目指す移住者の多くが2年間、研修生として栽培醸造を学ぶ。人気の研修先であるドメーヌ・タカヒコを卒業した元研修生によるワイナリーのワイン造りとは?

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ピノ・グリの可能性を追求する
ドメーヌモン

山中敦生さんは元スノーボードのインストラクター。オフ・シーズンにレストランで働くうちにワインにハマりドメーヌ・タカヒコの研修生となった

ピノ・グリは冷涼な気候で個性を発揮する品種で、日本では決してメジャーな品種とは言えない。だが、山中さんは日本の食に合う複雑さと繊細さを出せる品種だと、チェーンソーを武器に自ら切り開いた畑にピノ・グリだけを植え有機栽培で育てている。実際「ドングリ」は香りの華やかさと旨みを伴う複雑な味わいをもつ。樹齢が増すごとにブドウのもつ力が増し、ワインはより豊かになっている。買いブドウのモン・シリーズの中にはメルロの「モンロー(Montrlot)」、ブドウ農家・相馬さんが育てたソーヴィニヨン・ブランの「ソーマニヨン・ブラン」がある。ともに名前に反してシリアスに造られた優れたワインだ。

ドングリの木々が囲む自社畑のピノ・グリ「ドングリ」。2022年は醸し期間を長く取り色合いが一段と濃い。フレンチオーク樽で熟成。樽には無事な熟成を祈り「八大龍王」の文字が

親しみやすいテーブルワイン
山田堂

山田雄一郎さんは、曽我貴彦さんの造るピノ・ノワールに魅せられて余市に移住し、ドメーヌ・タカヒコの研修生となった

ドメーヌ・タカヒコのピノ・ノワールに魅せられ余市に移住した山田雄一郎さんが目指すのは、曽我さんの教えを基にした、北海道における高品質なテーブルワイン。そのため自園で栽培したブドウだけでなく、買いブドウも積極的に取り入れていくスタイルのワイナリーを目指している。そこで選択したのが、余市町で実績があり、豊産性のミュラー・トゥルガウである。
農家の納屋を改装したワイナリーは醸造設備もシンプル。ここで2023年は2万本のワインを仕込んだ。これからも、余市町内の買いブドウで生産量を増やし、低価格で高品質なワインを増やそうと考えている。飲み手にとってはうれしい話だ。

ヨイチ ロゼ ピノ・ノワールはしっとりと身体に染み込む。ミュラー・トゥルガウは柑橘類の香りを振りまき、するりとのどを通り抜けていく

農業への想いがワイン造りへ
LOWBROW CRAFT Local Independent Winery

栽培醸造家の赤城学さんは1970年代のアメリカ西海岸のポップなアートやロックの愛好家

東京の大手酒販店で働いていた赤城学さんは、農業に従事したいと北海道に移住。ドメーヌ・タカヒコの研修生として3年働いた後、2022年に独立した。
ワイナリー名は1970年代にアメリカ西海岸で流行した既存のルールにとらわれないロウブロウアート(大衆アート)から。日々の食卓で楽しめる大衆的なワインを目指しロウブロウという単語を入れた。生食ブドウから造るスパークリングはまさにはつらつとし、ドライですいすい飲めるデイリーワインだ。けれども登川右岸の政五郎沢に開いた畑で育てているツヴァイゲルト・レーベはちょっと違う。品種の可能性を突き詰め親しみやすいだけでなく果実味と華やかさをもったワインを目指している。

左はナイアガラ、右は小樽市塩谷原産といわれる旅路から、瓶内二次発酵も野生酵母で行い、おり引きせず亜硫酸無添加で仕上げたスパークリング

目指すは自然を感じられる身近なワイン
ランセッカ

山川惇太郎さんは元セミプロの自転車ロードレーサー

ランセッカのランは、楽しさを表現する音“ランランラン”のラン、セッカは雪華。「強いて言えば楽しい雪かな」と山川惇太郎さん。降雪量が2m近い余市の冬の美しさと楽しさ、ワインの楽しさをワイナリー名に込めている。
仁木町生まれで道外に出ていた山川さんは農業に携わりたいと帰郷。その想いからワイン造りに入ったので、ブドウのもつ力を素直に生かすワイン造りを心掛けている。初年度から造っている「早花咲月(サハナサヅキ)」の白は、ほのかに甘いナイアガラの果実味がほわりと広がりかすかな苦みが味を引き締める。山川さんの狙い通り、飲むと顔がほころんでくる楽しいワインだ。

自社畑ワインは2023年春がファーストリリース。「KOYACHI」は栽培から醸造まで山川さんが、「pon nitay」は奥さんの笠千春さんが担当している

2023年創業、農家からワイナリーへ!
ドメーヌ・ミズキ ナカイ

ワイン造りを担う中井瑞葵さん(写真右)は中井観光農園の5代目。ブドウ栽培の中心は父の淳さん(写真左)

中井家の先祖が富山から登の高台に移住して2023年で100年。この記念すべき年に中井家は地元の農家としては第1号となるワイナリーを起こした。「中井観光農園」としてサクランボなど多様な果樹も栽培する中井家は、ワイン専用種栽培の先駆け農家の一軒だ。
5代目の中井瑞葵さんは、かつて中井観光農園の研修生だった曽我貴彦さんの下で学び、初仕込みに備えてきた。2023年はこれまでジュースにしていたピノ・ノワールの一部とケルナーで3000本と、シードルを仕込んだ。自園ブドウの大半は引き続きワイナリー数社に供給する。まだ20代の瑞葵さんは家族に見守られながら自らの名を冠したワインの個性を育んでいく。

自園産の果実やワイン、ジャムなどを販売するショップに隣接するテラスは、ブドウ畑越しに余市のシンボル・シリパ岬と余市湾が望める象徴的なスポット

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余市の風土を凝縮!モンガク谷ワイナリー
 
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ドメーヌモン
創業年|2016年
自社畑面積|1.8ha
自社畑主要栽培品種|ピノ・グリ
ワイン生産量|1万本
住所|北海道余市郡余市郡余市町登町898
Tel|0135-22-5330
https://domainemont.com

山田堂
創業年|2021年
畑の広さ|2.3ha
自社畑主要栽培品種|ミュラー・トゥルガウ
ワイン生産量|2万本
住所|北海道余市郡余市町登町1064
Mail|info@yamadado.jp
http://www.yamadado.jp

LOWBROW CRAFT Local Independent Winery
創業年|2022年
自社畑面積|2ha
自社畑主要栽培品種|ツヴァイゲルト・レーベ、ピノ・グリ
ワイン生産量|1万本
住所|北海道余市町登町987
Mail|lowbrowcraft@gmail.com
https://lowbrowcraft.jp

ランセッカ
創業年|2020年
自社畑面積|2ha
自社畑主要栽培品種|ピノ・ノワール、ツヴァイゲルト・レーベ
ワイン生産量|1万2000本
住所|北海道余市郡余市町登町612
Tel|info@lanseqqua.jp
https://lanseqqua.jp

ドメーヌ・ミズキ ナカイ
創業年|2023年
自社畑面積|5.2ha
自社畑主要栽培品種|ケルナー
ワイン生産量|未定
住所|北海道余市郡余市町登町1383
https://www.instagram.com/mizuki_nakai_1226

photo: Kenta Yoshizawa
2024年1月号「ニッポンの酒最前線2024」

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