神さまはいつ誕生したのか
神話の歴史を辿ろう
《参拝が楽しくなる基礎知識》
日本には八百万の神様がいるとされているが、その中でもとくに覚えておきたい”8柱”がいる。『古事記』や『日本書紀』の神話に登場する主役級の5柱である、伊邪那岐神、伊邪那美神、須佐之男命、天照大御神、大国主神。また、神社に多く祀られている神様3柱の八幡神、稲荷神、天神も知っておくのがおすすめだ。宗教史研究家の渋谷申博さん監修のもと、知れば神社めぐりがさらに楽しくなる、日本の神話と神様についてご紹介。
監修・文=渋谷申博(しぶや・のぶひろ)さん
宗教史研究家。神道・仏教など宗教史にかかわる執筆活動をするかたわら、全国の社寺・聖地などでのフィールドワークを続けている。著書に『参拝したくなる! 日本の神様と神社の教科書』(ナツメ社)など多数
神さまはいつ誕生したのか
『古事記』と『日本書紀』では神話の内容に違いはあるが、世界は混沌とした状態からはじまったとする点では共通している。やがて天と地が分かれ、天に神々が出現。その中から伊邪那岐神・伊邪那美神が現れて地上に降り、日本の国土と神々を生んだ。しかし、日本の神話は『古事記』や『日本書紀』が語るものばかりではない。各地の『風土記』には地域独自の神さまが活躍する神話が述べられ、『万葉集』にもいまは忘れられてしまった神話の断片が見られる。
もともと日本の神話は、『古事記』のように、まとまった話ではなかったと思われる。地域ごとに地形の由来や、災害が起こる理由、農作の起源、遠い祖先の記憶などが語られていた。それは知識の伝承であるとともに、一族のアイデンティティや誇りを受け継ぐためのものでもあった。
こうした神話は氏族・地域の交流を通して伝わった。海の神話が内陸に、山の神話が平地に伝わり、それぞれの神話の世界を豊かにした。特に新しい技術・道具などが広まる際には、それにまつわる神さまの話も伝播。有力な氏族が祀る神さま(多くの場合、その祖先である神)は神話の中でも重要な地位を占めるようになり、やがてそうした神々を中心に神話の体系がつくられていった。こうして天皇の祖先神である天照大御神が中心の『古事記』や『日本書紀』の神話が成立した。
これらの神話では、神さまを「天津神」と「国津神」に分ける。天津神は天上に住む天照大御神を中心とした神々で、多くが大和朝廷を支えた豪族の祖先。国津神は地上に住む大国主神を中心とした神々で、山の神や海の神といった自然神を含む。ただし、分類があいまいな神さまも多い。
ちなみに仏や菩薩は仏教の教えよって高い境地に至った者のことで、日本では海外の神さまとして受け入れられた。やがて仏教が強い力をもつと、日本の神さまは仏の化身または守護神とされた。この思想は「神仏習合」と呼ばれる。
神さまって人なの?
仏は人が修行してなるものだが、神さまにはなれない。『古事記』、『日本書紀』では神武天皇以降を人の時代としており、したがって父の「鵜葺草葺不合命(うがやふきあえずのみこと)」は神さまだが、子の神武天皇は人となる。神話には神さまが美女の元に通って子どもをつくるという話も多い。この場合の子どもは人間とされる
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