ART

谷口吉生氏が手がけた
《豊田市美術館》
グリッド構造と自然光が美しい美術館

2022.3.29
谷口吉生氏が手がけた<br> 《豊田市美術館》 <br><small>グリッド構造と自然光が美しい美術館</small>

自然の中に佇むモダンな建物が印象的な愛知県豊田市にある「豊田市美術館」。美術館建築で名高い谷口吉生氏が設計し、庭園はアメリカのランドスケープ・アーキテクト、ピーター・ウォーカーによるもの。常設展から特別展までさまざまな作品を鑑賞することはもちろん、建築と庭園を含めた美術館全体の魅力を紹介。

建築家
谷口吉生(たにぐち・よしお)
1937年、東京生まれ。1960年、慶應義塾大学工学部卒業。1964年、ハーヴァード大学建築学科大学院卒業。丹下健三都市建築設計研究所勤務を経て、1975年に独立。主な建築に、丸亀市猪熊弦一郎現代美術館(1991年)、東京国立博物館法隆寺宝物館(1999年)、ニューヨーク近代美術館リニューアル(2004年)、京都国立博物館平成知新館(2014年)など。日本建築学会賞(2回)、吉田五十八賞、高松宮殿下記念世界文化賞など、受賞多数。

ランドスケープ・デザイナー
ピーター・ウォーカー
1932年、アメリカ・カリフォルニア州生まれの、世界的に活躍するランドスケープデザイナー。国内では、建築家・磯崎新との共同による播磨化学公園都市計画とタウンパーク設計、谷口吉生とのコラボレーションによる丸亀駅駅前広場などがあります。ニューヨークの911/メモリアル(2011年)ツインタワー跡地に造られた巨大な池は、人々の瞑想的な追悼空間になっている。

豊田市美術館とは

愛知県で1995年に近代的な美術館として開館。作品と人が対話し、それぞれの作品との関係性をつくる場となることを目指し活動を行っている。

また豊田市美術館は、開館20周年を機に谷口吉生監修のもと、2015年にリニューアルオープンした。

建築とともにある美術館

谷口氏の手による美術館は、ただ美術作品を展示し、鑑賞する施設というわけではなく、収集方針や運営理念を最良かつ繊細な仕方で形にし、この土地ならではの特性を建物に与えている。建築と自然双方の美しさが際立つ丘の上に、その高低差を活かして建てられている。

「私が大切にしていることは、敷地の歴史や自然を生かしながら、その場所にふさわしい建築を設計することです。敷地からは、豊田市がかつての挙母といわれていた時代の隅櫓が見えます。一方、敷地の反対側からは新しい豊田市の姿が一望できます。この歴史ある町と新しい町をつなぐ場所に、カフェがある広いテラスを設け、彫刻を配して、周辺の景観と一体となった美術館を目指しました。」と谷口氏は語る。

豊田市美術館は、建物の周りを歩いても楽しい。建物はすぐにその姿を現さず、一歩一歩アプローチを登っていくと、外に置かれているオブジェや水に反射する光などが楽しめ、やがて空を背景に美術館が見えてくる。


ファサード

外観には、心地よい水の広がりが波紋を映しながら、その水平に伸びるファサードの巨大な構えとグリッド構造が美しく圧倒される。ここは夜になると乳白色の展示室から光を放射して、まるでランタンのように水面に浮かび上がり、建物も作品の一部となる。


光を包む乳白色の磨りガラスが印象的な内部空間

巨大なファサードとは対照的な控えめなエントランスのギャップも面白い。天井の低い薄暗いエントランスに入ると、乳白色のガラスが外からの光を心地よく取り込む空間。右側に企画展示室、左側に光あふれる吹き抜け空間。階段を上がると、さらに大きな明るい展示室が現れる。光溢れる開放的な空間から始まり、そこから小さい展示室に移り、再び明るく広々とした空間に出る、光の変化のシークエンスを演出し、アートをまた違った目線で見ることができるユニークさも感じられる。

ラウンジや、髙橋節郎館では、屋外から続くモスグリーンのスレートが外と内側に敷かれ境界が曖昧になり、切り取ったような風景も1つの作品に見えて美しい。

庭園は、米国のランドスケープデザイナー、ピーター・ウォーカーのデザインによるもの。2段式の庭園は、円と四角、幾何学と不定形の対立する要素で構成されている。上段の池の底と庭園には帯模様が、下段の庭園には芝生と砂利による市松模様が配され、その幾何学をずらすように彫刻が設置。ゆるやかな傾斜で伸びるスロープや長い石畳は、遠近感を強調して、伸びやかな空間の広がりを際立たせる。この場所にはかつて拳母藩の七州城があり、敷地の一角には隅櫓が復元されて残されている。

木造数寄屋造りの谷口建築が美しい

また美術館の敷地の西側には、かつて挙母藩(ころもはん)の居城があった美術館の敷地の一帯が、「童子山(どうじやま)」と呼ばれていた茶室「童子苑」がある。茶室の建物の設計は美術館と同じ、谷口吉生氏が手がけている。美術館で作品との対話を楽しんだあとは、四季折々の自然の表情を眺めながらゆっくり過ごせるのも豊田市美術館ならではの楽しみ方。

そのほかにも、市街地を一望できるレストランや、探していたものや、思ってもみなかったユニークなものに出合えるミュージアムショップなどもある。

日没後はランタンのような温もりを感じる

美術品のための枠組みである建築美とともに、大池や彫刻テラス、市街地を眺めながらまったりとした時間を豊田市美術館で過ごしてみてはいかが。

豊田市美術館
住所|愛知県豊田市小坂本町8-5-1
Tel|0565-34-6610
開館時間|10:00~17:30(入場は17:00まで)
※レストラン営業時間 10:00~17:30(ランチは10:30~15:00)
※童子苑立礼席営業時間 11:00~16:00
休館日|月曜日(祝日を除く)、展示替えの期間、年末年始
観覧料|常設展:一般300円[250円]、高校・大学生200円[150円]、中学生以下無料
[  ]内は20名以上の団体料金
企画展はその都度定める
障がい者手帳をお持ちの方(介添者1名)、
豊田市内在住又は在学の高校生及び豊田市内在住の75歳以上は無料[要証明]、
その他、観覧料の減免対象者及び割引等については
豊田市美術館ウェブサイトをご確認いただくか、美術館へお問い合わせください
https://www.museum.toyota.aichi.jp/

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