冬至とは、新しく一年が生まれ変わる日。
「冬至」の基礎知識
本年、2024年の冬至は12月21日の土曜日。冬至は春分、夏至、秋分と並んで、昼と夜の長さの比率によって1年を区切っています。春分と秋分は昼と夜の長さが同じ、夏至は昼が1年で最も長く、冬至は逆に夜が1年で最も長い日です。太陽を生命力の源という考えは全世界的にあり、そのため日照時間が最も短い冬至を1年の区切りとして、また日が長くなっていく=新しい年の始まりと考える土俗信仰が、世界各地にあります。
収穫が終わり、次の年を迎える時期
冬至のころには多くの作物が収穫を終え、木の葉は枯れ落ち、動物も寒さを避けて姿を隠してしまう。生命の躍動を感じさせるものが視界から消えるこの時期を、昔の人が一つの周期の終わりと考えたことは、想像に難くない。大した明かりのない時代、夜は魔物が活躍する時間とされていた。そんな恐ろしい夜が冬至を境に短くなっていく。つまり冬至は区切りの日、太陽が再び力を取り戻し始める日として、とてもおめでたいものだったのだ。
冬至そのものずばりではないが、ハロウィンも秋の終わり、夜が長くなってくる時期に、この世の者ならぬ者たちが歩き回るので、彼らに悪さをされないようにする行事のひとつだ。
新しい年の始まりに縁起を担ぐ
冬至の日に食べるとよいとされているものがいくつかあるが、現代でもっともよく知られているのはカボチャだろう。カボチャが日本に入ってきたのは16世紀、ポルトガル船が持ち込んだ外来野菜で、長崎から全国に伝わったとされる。講談がもとになっている落語「唐茄子屋」などでもわかる通り、庶民の食べ物としてカボチャ(唐茄子、または南瓜)は親しまれてきたが、江戸時代に「冬至にカボチャを食べる」という話は文献などにも出てこないので、明治以降に普及した風習らしい。
ではなぜ冬至にカボチャが食べられるようになったのか。それは新しい年の始まるともいうべき日に、縁起を担ごうという思いからきている。もともと冬至の日に「ん=運」がつくものを食べる風習があった。例えばれんこん、にんじん、ぎんなん、うどんなどで、寒い時期に体を温めるものが多く、実際に風邪予防などになっただろう。カボチャも「南瓜(なんきん)」と「ん」がつく食べ物で、すぐに腐ったりせず長持ちする点や、中が黄金色である点など、多くの縁起が良いポイントがあるため、冬至に食べるものの代表格になっていたのだろう。
ゆず湯ではなく水垢離(みずごり)が本当?
冬至の夜にはゆずを浮かべた「ゆず湯」に入るという人も多い。ゆず(柑橘)は冬でも葉が青々している常緑樹であること、収穫期を11~12月と寒い時期に迎えること、果実には冬でもみずみずしいさわやかな香りがあり、太陽のような黄色をしていることなどから、邪気を払い生命力をあらわす作物として古くから神事にも使われてきた。こうしたことから、冬至にゆず湯に入り、その生命力をいただくという意味が生まれたと考えられる。
しかし実はゆずよりも、湯に入ることにこそ大きな意味があるとする説もある。本来は新しい年を迎えるにあたり、身を清めることが大切であり、それには水垢離をとるのがよいが、冬至の時期に水垢離をとるのは風邪をひく危険性が大。風邪は万病のもとと言われるほど、医療が発達するまでは、風邪がもとで亡くなる人が多く、水垢離ではなく湯による行水、入浴へと変わっていったのだろう。
ゆずを入れることと身を清めること、どちらも重要であるのは間違いない。ゆず湯の歴史は、浴槽に湯をためて浸かる入浴が普及してからのことなので、江戸時代以降となる。江戸時代の銭湯でサービスとして始まり、近代に入り各家庭に湯船が設けられるようになって、一般家庭の風習になっていった。
ちなみにゆずを湯に入れるのではなく、冬至に食べるという地域もある。
古くから行われていたのは小豆粥
こうしてみると、現代で一般的とされる冬至のカボチャもゆず湯も、実は歴史はそう古くないことがわかる。では古くから冬至に行われていたのは何なのか? それは小豆粥だろう。神の力が宿る米と、生命力を感じさせる赤い色をした小豆は、日本の様々な行事に登場する最強コンビ。粥にすることで食べると体が温まり、胃もたれすることもない。地方によっては粥ではなく団子を作るというところもあるようだ。
現代でもインナービューティー(体の中をきれいにする)こそ、健康のもとという考えが支持されていますが、冬至にレンコンやニンジンなどの根菜、かぼちゃ、粥を食べるのも、体を温めて栄養をとり、健康になろうという当時の人々の知恵が生み出した風習です。ゆずをはじめとする柑橘系の香りにはリラックス効果があるので、ストレスケアにも役立つはず。ゆずの成分がしっかり出るように、風呂に入れる際は半分に切る、または輪切りにするとよいそうです。昔の人もゆず湯に入ると、寒さで硬くこわばっていたからだがほぐれるのを感じたことでしょう。
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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=知っておきたい日本の年中行事辞典(吉川弘文館)/絵でつづるやさしい暮らし歳時記(日本文芸社)/12ヶ月のしきたり(PHP研究所)/日本の「行事」と「食」のしきたり(青春出版社)/「旬」の日本文化(角川ソフィア文庫)