大阪府《岸和田だんじり祭》
走る!疾る!奔る!迫力のリズムとパフォーマンス
|改めて知っておきたい日本の祭り
古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。
今回は、巨大な山車を勢いよく曳行する迫力満点の「岸和田だんじり祭」を紹介。歴史や特徴、見どころなどから祭りの魅力をひも解こう。
※2023年は9月16日(土)・17日(日)、10月7日(土)・8日(日)に開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください
岸和田だんじり祭とは?
日本各地で大きな山車が町内をまわる形式の祭りが行われているが、京都の祇園祭の山鉾のように静々と移動するものもあれば、山車同士を荒々しくぶつけ合うものもある。岸和田のだんじり祭は、巨大なだんじり(地車)を勢いよく曳行する点が大きな特徴で、特に角を曲がるときにもスピードを緩めず、だんじりが直角に方向転換をする。だんじりに振り回されそうになりながら全力で食らいついていく、曳き手たちの姿が大きな見どころの祭りだ。
京都伏見稲荷の勧請にはじまる、約300年の歴史
岸和田だんじり祭の発祥は、1703年に岸和田藩主だった岡部長泰が、五穀豊穣を願い京都伏見稲荷を城内の三の丸に勧請した際に行った祭りと言われている。初期の祭りは、長持ちに車輪を付けたような「車付き引きだんじり」で城内に入りお殿様に神楽獅子や「にわか」を披露し、その後に神社に参拝するといったごくシンプルな祭りだったようだ。
それから40年ほどたった1745年に、岸和田御宮(現在の岸城神社)と、城内三の丸の稲荷神社の祭礼にあわせて、岸和田の城下にある本町・堺町・魚屋町・南町・北町の5つの町で、歴史上の人物や有名な景色などの拵え物を載せた引きだんじりを作り、それぞれの町で曳行した。その後5つの町以外も引きだんじりを作って曳行するようになっていった。
だんじり祭りが生み出す町内の結束
現在の岸和田だんじり祭は8つの地区が、9月に2地区と10月に6地区に分かれて行われている。各地区は年齢層ごとに役割がふられ、成長するにつれだんじり祭りへの関わり方が変わっていく。地域の子どもたちはだんじり祭で働く年上の人々の姿を見て憧れを募らせ、祭りへの情熱を育んでいく。大きなだんじりを曳行するにも、また祭りを事故なく催行するにも、人々の結束は欠かせない。岸和田では祭りの準備だけでなく、一年を通じて町内で定期的な奉仕活動などを行い、住民の結束を強めるのが習わしだ。町会の代表者である町会長は、曳行の責任者とともに、だんじり曳行の際はだんじりの前方に乗るなど、だんじり祭でも大きな役割を担う。だんじり曳行責任者は世話人と呼ばれる町全体のまとめ役から選ばれる。
疾走感を高めるリズムとパフォーマンス
だんじり祭の見どころは何といってもだんじりの動き。鳴り物に合わせてだんじりが動いていて、大別して4つのリズムがある。まずは一番早く走るリズムで一直線の道を走るときのもの、その次に早いリズムで駆け足程度。歩いて曳行するリズム、そしてだんじりが休憩して止まっているときのもの。この太鼓と人々の掛け声に乗ってだんじりは曳行される。
もうひとつの見どころは、大工方によるだんじりの大屋根の上での踊りだ。この役は祭りの役職の中で最も華やか。岸和田の若者の憧れ中の憧れといっても過言ではない。疾走したりやりまわしをするだんじりの上で、バランスを取り華麗に踊りながら後梃子に指示を出すのは命がけでもある。しかしまるでだんじりを操っているような大工方は町の花形であり「顔」である。希望者全員がなれるものではなく、町に自薦もしくは他薦の中から選ばれるため、彼らは誇りを持っている。
彫物の腕を見せつける、あえての木目仕上げ
走る姿ばかりが注目されるだんじりだが、止まっているときにぜひじっくり見ておきたいのが、だんじりの彫物だ。だんじりの彫物は金箔を貼ったり漆を塗ったりせず、木目を生かして仕上げる。彫物の題材は歴史上の英雄や霊獣、花鳥などで、神話や戦記物の名場面が多い。岸和田近辺の貝塚地方には、日光東照宮の彫物も手掛けている宮彫師の一門がいたため、彫刻を主にしただんじりが生まれたと考えられている。なおこの貝塚の宮彫師の中に伝説の名人・左甚五郎がいたという言い伝えもあるそうだ。
岸和田だんじり祭
開催時期|9月は敬老の日直前の2日間、10月はスポーツの日直前の土・日曜 ※2023年は9月16日(土)・17日(日)、10月7日(土)・8日(日)に開催予定
会場|9月は岸和田(旧市)地区・春木地区の34町、10月は東岸和田地区・南掃守地区・八木地区・山直地区・山直南地区・山滝地区の46町
Tel|072-423-2121
https://www.city.kishiwada.osaka.jp/site/danjiri/
ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=祭りの日本史(洋泉社)、祭りの辞典(東京堂出版)、日本の祭り(実業之日本社)、日本の祭り 旅と観光(新日本法規出版)、日本だんじり文化論(創元社)