TRADITION

平安神宮《時代祭》
京都の歴史と文化がひと目でわかる時代行列
|改めて知っておきたい日本の祭り

2022.9.17
平安神宮《時代祭》<br> 京都の歴史と文化がひと目でわかる時代行列<br> <small>|改めて知っておきたい日本の祭り</small>

古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。

今回紹介するのは京都・岡崎の街のシンボルとも言える平安神宮で行われる「時代祭」。さまざまな祭りがある京都の中でもちょっと異例の祭りと言える、京都三大祭りのひとつ「時代祭」とはどんな祭りなのだろうか?

※2024年は10月22日(火)に開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください

平安神宮創建時に花を添えた時代行列

そもそも京都の祭りの中では特出して歴史が浅い(といっても誕生から127年を数えるのだが…)。1895(明治28)年にこの祭りが誕生したのは、京都へ都が移った、平安遷都より1100年目。この年、桓武天皇を祭神とする平安神宮が造営され、その紀念祭が行われたのがきっかけだ。
平安神宮の大祭、そして建物や神苑を維持保存するために、京都市民による講社(神社のお世話をする、その神社を信仰する人々による組織)が組まれ、彼らが紀念祭の終わった翌日に行った時代風俗行列が、現代まで続く時代祭の始まりとなった。
当初は約500名あまりで6列という規模だったが、時代が下るにつれてどんどん人が増え、現在では4倍の約2000名20列の大行列が練り歩く、秋の京都を代表する祭りとなっている。

「京都は日本一の都」という京都人の自負

実はこの祭りには、平安神宮をお守りするというのとは別の、重要な意味があった。京都人を励まし「京都は日本一の都である」という自負を鼓舞するためでもあったのだ。というのも、明治維新を機に平安遷都以来ずっと京都にいた天皇が、東京へと引っ越してしまったため、京都人にとっては「鎌倉や江戸にいくら政府ができたところで、日本の頂点である天皇は京都にいる。つまり京都が本当の都」という自負の念が、根拠を失ってしまったため、京都人の多くが口に出さなくても相当に気落ちしていた。

そんな中で平安神宮が創建されたのを機に「我々は1000年以上続く都の民だ」という歴史を実感できるものをと案出されたのが、京都の歴史の長さを目で見てたどる時代風俗行列だった。

正確な時代考証と当時から続く
技術の研鑽が生んだ“本物”

時代祭は、ひと目で京都の歴史の長さと文化の高さが理解できる、京都ならではの祭りとして、京都三大祭りのひとつにまでなった。その大きな理由は明治維新の勤王隊から始まり、江戸時代、安土桃山時代、室町時代、吉野時代、鎌倉時代、藤原時代、延歴時代と続く、時間をさかのぼる行列に参加する、人々の衣裳や小道具などのクオリティの高さだ。これらはすべて綿密な時代考証を重ねて当時のものを復元した“本物”であり、それを復元できるのは、それらが作られた当時の伝統工芸の技が今に残る京都だからこそ。まさにその時代の人々が見た景色を忠実に再現する、立体時代絵巻ともいうべき行列なのだ。

太平洋戦争が激化した1944(昭和19)年に一度中断された時代祭だが、戦後の1950(昭和25)年に再開された際に、新たに時代婦人列が加わりさらに華やぎを増した。この婦人列は現在江戸時代婦人列、中世婦人列、平安時代婦人列の3つに分かれており、京都の地域女性連合会、さらに京都の5つの花街が輪番で奉仕している。

平安神宮の御鳳輦とともに
京都の街を行く時代行列

時代祭の日程は10月15日に時代祭の無事執行を祈り、行列の主な参役の任命が行われる「時代祭宣状祭」、10月21日に祭儀と参列者の安全を祈願する「時代祭前日祭」、10月22日朝7時の、平安神宮における祭文の奏上から時代祭が始まる。その後神様をお遷しした御鳳輦が京都御苑に向けて出発し、御所建礼門前で時代行列と合流。12時に出発して平安神宮に戻るという行程をたどる。

約2キロにわたる生きた時代絵巻を一目見ようと、国内外から観光客が押し寄せる時代祭。歴史と文化は過去のものではなく、今まさに生きた人間によってずっと続いているものなのだと実感できる、京都ならではの祭りである。

時代祭
開催時期|10月22日 ※2024年は10月22日(火)に開催予定
会場|平安神宮
住所|京都府京都市左京区岡崎西天王町97
Tel|075-761-0221
http://www.heianjingu.or.jp

ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=祭りの辞典(東京堂出版)、日本の祭り(実業之日本社)、日本の祭り 旅と観光(新日本法規出版)

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