秋田県《大曲の花火》
花火師が技を競う花火界のオリンピック
|改めて知っておきたい日本の祭り
古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。
今回紹介するのは、日本三大花火大会のひとつであり秋田県大仙市大曲で行われる「大曲の花火」。世界で最も質の高い花火が見られると人気を集める大曲花火の特徴や見どころを紹介する。
※2024年は8月31日(土)に開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください
全国の花火師たちが目指す
最高峰の花火競技会
打ち上げ花火ほど、大勢の人が一緒に楽しめる娯楽もあるまい。打ち上げ会場まで足を運んで、露店が並ぶ中、肌でビリビリと感じる轟音とともに花火を楽しむもよし、自宅の窓や庭でゆっくり寛ぎながら、遠くの空に上がる花火と音を楽しむもよし。観客たちのうっとりした表情や、歓声に励まされて、全国の花火師たちは「まだ誰も見たことがない美しい花を打ち上げよう」と、毎年技術研鑽、新作開発に取り組む。
「大曲の花火」は、日本に数ある花火大会の中でも、花火師たちにとってほかの花火大会とは少し意味合いが違う。「大曲の花火」というのは通称で、正しくは「全国花火競技大会」。その名の通り、単なる娯楽ではなく花火師にとって日ごろ磨いた技の成果を競う技術発表会であり、まず出場することが目標となるほど、権威ある花火競技会なのだ。
参加するのも苦難の道のり!
花火界のオリンピック
大曲の花火こと「全国花火競技大会」は、1910年の諏訪神社の祭りに付随して開催された「奥羽六県煙火共進会」がはじまりとなった、100年を超える歴史を誇る花火大会。参加できる花火製造会社は28社と決まっており、5年ごとに競技成績の振るわない下位の2~3社が入れ替えられる。現在この参加枠に入っている会社は、前年以上の成績を目指して難易度の高いチャレンジをすることが求められ、全国のまだ参加枠に入っていない会社は「次の入れ替えで参加枠に食い込みたい!」と、打ち上げの機会あるごとに最高の花火を披露する。大曲の花火は、全国の花火師たちのモチベーションを上げる、花火界のオリンピック的存在でもあるのだ。
花火師自身が打ち上げまで担当
総合力で入賞を目指す
現在、大曲の花火は夏だけではなく春、秋、冬にも行われているが、なんといっても夏の全国花火競技大会は、規模、レベルともに最高峰。競技は昼花火・10号芯入割物・10号自由玉・創造花火の4種でその総合力を競うもの。ちなみに昼花火とは煙の色や形、閃光で美しさを競う。いままでにない花火、難易度の高い花火に挑戦すると言っても、花火が低空で開く、花火の星が燃焼しきらずに火が付いた状態で地上に落ちるなど、危険な状態を作り出せば当然減点になるため、製造段階ではもちろん打ち上げ技術にも高い完成度が求められる。製造した花火師が自分で花火を打ち上げるというルールがあり、そうした点でも花火師が自分自身の実力を試す絶好の機会となっている。
打ち上げ発数1万8千発、
4時間にわたる花火の祭典
昼花火競技は全国でもいまのところ大曲の花火だけが競技を行っており、よそではなかなかいろいろな会社の昼花火を見ることはできない。そのため、花火大会といえば夜から人出がはじまるところ、大曲では昼から観客が集まり、夜の競技のラストまで数えると約4時間という長丁場の花火の祭典を楽しむ。
競技大会の合間に特別プログラムや大会提供の花火も上がる。音楽に合わせて打ち上げる、広い河原を大きく使ったワイドスターマインなど、競技とはまた違った見どころがあり、多くの観客を魅了する。昼夜併せて打ち上げ予定発数は約1万8千発。昼夜にわたって大空の芸術が大曲の町を賑わせる。
全国花火競技大会「大曲の花火」
開催時期|毎年8月最終土曜 ※2024年は8月31日(土)に開催予定
会場|秋田県大仙市大曲雄物川河畔(大曲の花火公園)
アクセス|電車 JR大曲駅より徒歩約30分/車 秋田道大曲ICより約10分 ※当日は市内で車両通行止めなど交通規制あり
Tel|0187-88-8073(大曲商工会議所)
https://www.oomagari-hanabi.com/index.html
ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=日本の花火(筑摩書店)、日本列島花火紀行(山と渓谷社) photo=秋田県大仙市