TRADITION

あの世からも帰省ラッシュ?
お盆の基礎知識

2021.7.21
あの世からも帰省ラッシュ?<br>お盆の基礎知識

例年なら、お盆休みには帰省ラッシュでごった返す各地のターミナル駅の映像がテレビで流れます。まとまった休みだから、たまには実家に帰るか……という人も多いようですが、そもそもは実家に帰るべき時期だから、お盆にはまとまった休みがあるのです。なにせこの時期は遠い遠いあの世からも、人々が実家に帰ってくる! そう考えてお迎えの準備をし、時期の終わりにはお見送りをする風習が、古く日本書紀にも描かれていました。

ご先祖様を救う日?もてなす日?

お盆は旧暦7月15日を中心に13日~16日を指す(現在の新暦の同じ時期をお盆の期間とする地域も、旧暦の同時期にあたる1か月遅れの8月15日前後、8月13日~16日とする地域もある)。お盆というのは盂蘭盆会(うらぼんえ)の略で仏教の言葉だが、仏教だけでなく土着の信仰が混合した行事で、共通しているのはご先祖様の霊を慰めること。仏教の盂蘭盆会は、お釈迦様の弟子が、死後に地獄で苦しんでいる母を救うためには多くの僧を招いて供養するようにとお釈迦様から教わり、その通りにして母親を救ったというエピソードだ。これはご先祖様が帰ってくるという話ではなく、あの世にいるご先祖様を苦しみから救うため、供養をしましょうというもの。日本書紀の推古天皇の章に「この年(606年)初めて、寺ごとに4月8日、7月15日に設斎(おがみ)す」という記述が登場している。

ここに日本の土着信仰が結びつくことで、ご先祖様が帰ってくるという意味が生まれる。日本では昔からご先祖様はつねに現世にいる自分たちを見守ってくれているという思いが強くあり、そのご先祖様に感謝し、慰労する行事が夏に行われてきた。それと仏教のご先祖様のために祈る行事が結びついたのが、日本のお盆なのだ。

ご先祖様に休んでいただく場所づくり

お盆はご先祖様を家にお迎えするところから始まる。古くは墓地までご先祖様を迎えに行ったが、現在では門口や玄関先で土器に苧殻をのせて焼く「迎え火」という簡略な形をとっているところが多い。迎え火は、昔なら提灯やたいまつに火をつけて、ご先祖様をお迎えに行った形の縮小版。火を清浄なものと考えるのは、日本古来の厄払いに通じる。

家にお迎えしたご先祖様の居場所として、精霊棚、盆棚などという、仏壇とは別の場所を用意し、そこに花や捧げものを並べる。仏壇からお位牌を出してきて、ここに並べる地域もある。飾る花は野山でとってくるのが習わしで、日本では山に神をはじめ異界のものや精霊が集うという考えが広く伝わっており、その考えから、お供えの花を山に求める風習ができたものと思われる。お盆に飾るために鬼灯(ほおずき)が売られるのは、鬼灯の「鬼」は「鬼籍に入る」というのと同じ、死後の世界に行った者、精霊を指しており、そうした精霊たちが宿るこの植物を飾り、お休み処を用意するという意味がある。

ナスとキュウリに割りばしを刺し、ナスは牛、キュウリは馬に見立てて飾るのは、遠いあの世から帰ってくるのに、歩いて帰ってくるのは大変だから、乗り物を用意するという意味。行きは馬に乗って早く帰ってきてほしい、帰りは牛でゆっくり帰ってほしいという意味だとする地域もある。

花火や盆踊りもおもてなしの一つ

迎え火もその一つだが、火をたくというのは霊を慰める、魔を払うという意味で、様々な形で日本の行事に登場する。花火もその一つで、魔を払う火をエンタテイメント化したもの。現代でも個人や企業がお金を払って花火を上げる祭りがあるが、江戸時代も同じで、今に伝わる隅田川の花火大会は、江戸時代にお金持ちが費用を出して花火をあげて、夏の厄払いをしたのがルーツ。お盆と花火は必ずしも関係してはいないが、夏は死亡率が高かったため、ご先祖様に守ってもらいたいからお盆、厄を払うために大きな火と、色々な形で災厄を避ける行事が行われていた。

盆踊りもこの世につかの間戻ってきたご先祖様にこの世を楽しんでもらうためのもので、笠をかぶって顔を隠すことで、あの世の人とこの世の人の区別がつかないようにする、またいろいろな布をつぎはぎした着物をまとうことで、その布をかつて身にまとっていた人とともに楽しむなど、地域によっていろいろな形でご先祖様と生きている人が一緒に踊る風習が残っている。

お別れは寂しいけれど、また来年!

お盆の最後には、お迎えとは逆にお見送りの行事がある。お墓までご先祖様を送っていく、送り火をたく、精霊棚、盆棚にかざった飾り物や供物を川や海に流す(精霊流し、灯篭流し)など、火や水でご先祖様を送り出す。

現代では環境に配慮して、川などに流された供物はあとで回収するが、江戸時代にも実はお盆の供物は一部回収されていた。なんと、川に流されたキュウリの馬やナスの牛を拾い集めて漬物を作り、それを売り歩くというちゃっかり商売が成り立っていたのだ。

お盆の時期に実家に帰るのは、日ごろ見守ってくださるご先祖様をもてなすためですが、最も身近なご先祖様である親や親類に孝行するという意味もありました。昔は「藪入り」といって、1月15日と7月16日(お盆の翌日)は、普段は家に帰ることが許されない住み込みの奉公人や、嫁に行った女性が、実家に帰ってよい日と決まっており、帰る方も迎える方もとても楽しみにしていたのです。きっとこのコロナ禍で会えない家族と同じ気持ちで、次に会える日を心待ちにしていたのでしょう。

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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=「日本の行事」と「しあわせ」の関係 日本のくらし「基本のき」(メディアパル)/暮らしのならわし十二か月(飛鳥新社)/おうち歳時記(朝日新聞出版)/年中行事覚書(講談社学術文庫)/しきたりの日本文化(角川ソフィア文庫)/日本の「行事」と「食」のしきたり(青春出版社)

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