TRADITION

秋田県男鹿《なまはげ柴灯まつり》
神か鬼か?冬の夜をなまはげが練り歩く
|改めて知っておきたい日本の祭り

2023.2.1
秋田県男鹿《なまはげ柴灯まつり》<br> 神か鬼か?冬の夜をなまはげが練り歩く <br><small>|改めて知っておきたい日本の祭り</small>

古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。

今回紹介するのは秋田県男鹿市の「なまはげ柴灯(せど)まつり」。「泣く子はいねがー!」でおなじみのなまはげ、その正体は神か鬼か?ルーツや祭りの見どころを紹介します。

※2024年は2月9日(金)~11日(日)にて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください

大晦日の晩、集落の家々をまわる鬼のような面をつけた人々。藁蓑をつけた独特のスタイルで知られる「男鹿のナマハゲ」は、秋田県男鹿半島に伝わる民俗行事だ。1978年に国の重要無形民俗文化財に指定されており、男鹿半島だけでなく冬の秋田を代表する伝統行事となっている。

なまはげのルーツは異界からの訪問者?

なまはげは民間信仰に基づいた行事と考えられているが、そのルーツにはいくつか説がある。

例えば、中国の前漢時代に多くの外征を行った武帝という皇帝が男鹿半島にやってきた際、お供をしてきた5匹の蝙蝠が鬼=なまはげになった説。
また船が難破して男鹿半島に流れ着いた外国人が、なまはげのもとになっているという説。「目鼻立ちの大きい顔立ち」「大きな体」「意味の分からない言葉を話す」といったところから、難破船から逃れてきた外国人を、人間ではなく神の使いや魔物と考えたと思われる伝説は日本各地にある。
さらには男鹿半島の山々で修業を積む山伏たちの姿がなまはげのもとになっているという説などもあり、どれかひとつが正しいのではなく、いくつかの原型が重なり合って、現在まで残るなまはげになったのではないかと考えられている。

怠け者を働き者に変える、家に福をもたらす存在

なまはげと言えば子どもたちを脅して歩くイメージが強いが、あれは子どもに限らず、長時間火に当たっているとできる手足に赤みのある者、すなわち立ち働かずに囲炉裏の前にどっかり腰を下ろしっぱなしの怠け者を探しているのである。この手足の赤みのことを「なもみ」といい、「なもみをはぐ→なもみはぎ→なまはげ」となった。
家々をまわるなまはげは、怠け者を戒める怖い一面だけでなく、家々に五穀豊穣や無病息災と言ったご利益をもたらす来訪神ある。鬼のように恐ろしい存在でもあり、神のようにあがめられる存在でもあるのだ。

このなまはげの行事がいつからはじまったかは定かでない。男鹿半島の各地で行われているが、面や衣装のデザイン、作法については集落ごとに異なっているのが特徴だ。かつては小正月に行われていたが、現在は大晦日に行われている。このなまはげ行事を男鹿市外からの観光客にも体験してもらおうと雪まつりとしてはじまり、いくつかの変遷を経て、真山神社の伝統行事「柴灯祭」と組み合わせた現在の「なまはげ柴灯まつり」となった。

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神事と結びつけて生まれた勇壮な冬の夜祭

なまはげ柴灯まつりで行われる儀式「なまはげ入魂」。なまはげに扮した若者たちが、参道入口の石段で神(しん)の入った面を授かり身に付ける。若者たちはなまはげと化し山へ戻って行く

柴灯祭は、900年以上前から、毎年1月3日に真山神社で行われている神事であり、境内に柴灯火を焚いて神楽を舞うなどの行事が行われていた。「なまはげ柴灯まつり」では、これになまはげが加わり、なまはげに扮する若者たちが面を受け取る「なまはげ入魂」や、境内で炎に照らされながら勇壮に舞い踊る「なまはげ踊り」、松明をかざしたなまはげが山から現れて境内を練り歩く「なまはげ下山」などが行われる。

なまはげってこんなに自由なの?
と驚く多彩なデザイン

なまはげと和太鼓を組み合わせた男鹿の郷土芸能「なまはげ太鼓」。「家内安全」「五穀豊穣」などを願い演奏される

「なまはげ柴灯まつり」は夕方からなので、日中はぜひ「なまはげ館」や「男鹿真山伝承館」に足を延ばしてみるといい。祭りという形に昇華したなまはげとはまた違う、民俗行事として残ってきたなまはげの古くからの形や、各地域によって異なる多彩なデザインのなまはげの姿を見ることができる。


祭りのクライマックスを飾る「なまはげ下山・献餅(けんぺい)」。松明をかざしたなまはげが雪山の闇の中から観客のもとに降り立って境内を練り歩き、続く献餅は神に献ずる護摩餅を神の使者なまはげに進ずる。柴灯火で焼かれた大餅には神力が宿り、なまはげは容易に触れることができない。ようやく護摩餅を手にしたなまはげは、神の元へ帰って行く。

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なまはげ柴灯まつり
開催時期|毎年2月第2土曜を含む金・土・日曜 ※2024年は2月9(金)~11(日)にて開催
会場|真山神社
住所|秋田県男鹿市北浦真山水喰沢97
Tel|0185-24-9220(なまはげ柴灯まつり実行委員会)
https://oganavi.com/sedo/

ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)

大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=祭りの辞典(東京堂出版)/日本の祭り(実業之日本社)/日本の祭り 旅と観光(新日本法規出版)/ナマハゲを知る辞典(柊風舎)

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