FOOD

“東京のローカルファースト”をテーマにしたレストラン調布「Maruta(マルタ)」
犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン

2020.12.18
“東京のローカルファースト”をテーマにしたレストラン調布「Maruta(マルタ)」<br><small>犬養裕美子のディスカバー ベスト・レストラン</small>
オーナーはこの地域で緑との共生を目指す環境デザイン会社の代表取締役。1851㎡の敷地に店とオーナーの自宅棟、賃貸棟が点在する「深大寺ガーデン」

思いがけないところに、思ってもみなかったいい店がある。日本のレストラン文化はこんなに奥深い!と感激する店を探してきました!今回は、地域で手に入る素材を使い、調理法はシンプルに薪で焼く、「東京のローカルファースト」をテーマにした調布深大寺のレストラン「Maruta」(マルタ)を紹介します。

犬養裕美子(いぬかい・ゆみこ)
東京を中心に世界のレストラン、食文化を取材。最近は日本の地方に注目。郷土料理を守るだけでなく、その土地の生産者とともに新しいレストラン様式に挑戦するシェフを取材。農林水産省表彰制度「料理マスターズ」審査員

コロナと戦いながら、少しずつでも環境を整える
「新しい時代のレストランの在り方」

気持ちのいい空気に満ちた空間。裏にはソーラーパネルで電気を貯蓄し、薪で調理するなど現代的方法論と原始的方法論を駆使して理想の状態をつくる

調布駅からバスで15分ほど。深大寺植物公園に隣接した一画に建つ一軒家が「マルタ」だ。2018年オープン当時から「東京のローカルファースト」をテーマにしたレストランとして注目されてきた。できるだけこの地域で手に入る素材を使う。調理法はシンプルに薪で焼く。大きなテーブルを囲んだ客同士で塊の肉をシェアするなどなど、どれもこの店ならではのユニークなスタイルだ。実は4月に取材にうかがう予定だったが、コロナ問題がおさまる気配もなく、数カ月保留となっていた。6月になって営業を再開したという情報が届いた。石松一樹シェフに連絡を取ると、2カ月間、店は閉めていたが、6月から再開した。コンセプトは変わらず、よりお客さまに気軽に来ていただけるアラカルトを充実させたという。そこであらためて取材をお願いした。

大きな扉を開けて入ると、天井高5mのゆったりした空間にオープンキッチン、5・5mものロングテーブル3つが配置され、壁ぎわには薪火グリルが赤々と燃えている。これだけでも充分贅沢だが、石松シェフが「こちらも見てください!」とちょっと自慢気に案内してくれたのが裏庭。一見、自然に生い茂っているように思える協生農法を実践している。一軒家、薪火のグリル、自家菜園、世界中のシェフが羨む理想系だ。こんなレストランがコロナでどんな影響を受けたのか?

「グリーンワイズ」本社スタッフ・木村正典さんは、月に2度庭の手入れにくる
薪は店のスタッフが割る。何事も自力で!

「遠方からの予約はキャンセルが続く。でも地元の方が来店してくれたことに感動しました。やはり地元の方が利用しやすい店にならなければいけない」と料理や営業時間などを見直した。以前は昼夜ともコースのみで、テーブルごとの一斉スタートだったが、6月からは営業時間を昼頃から日没までに。コースも一万円1本のみにして、アラカルトを充実させるなど新たな取り組みに挑戦しはじめた。2021年12月31日までに環境に配慮しゴミをゼロにすることを目標としたのだ。プロジェクトリーダーはPR担当の井上さん。「目標は『ゼロ・ウェイストレストラン』(ゴミを出さない店)として注目されるフィンランド・ヘルシンキの『ノラ』です」。ゴミゼロレストランは日本で新常識になるか?

ある日のランチコース
ガストロノミックなコースも、気軽な日常のアラカルトもある。
つい、立ち寄りたくなる店を目指す。

都心のレストランではお任せコースのみ、飲み物のペアリングで一人3万円前後が相場。種類豊富な素材を極小サイズにカットしてピンセットでアートのごとく盛り込む。その時間と手間を考れば妥当な対価かもしれないが、もう少し気軽なコース設定ならいいのに、と思うことは多い。ここでも以前は昼7000円、夜1万2000円のみだった。それがリニューアル後、コースは1万円のみに。アラカルトにも対応するなど、グッと利用しやすくなった。コース全9品の一皿ひと皿はそれぞれ旬の素材にフォカースし、皮や茎、花や葉などその野菜の知らなかった部分も使う。ゴミゼロを目指す意味でも、野菜の美味しさを見直すことにもつながる大きな進歩だと思う。

1. 虹鱒

虹鱒は、静岡県富士宮市から取り寄せ。一番下に虹鱒の皮を乾燥させ、油で揚げたチップス。続いて薪の香りをつけたクリームを絞り、虹鱒の切り身を乗せる。その上にフェンネルの花、ピクルス、粒マスタード、パクチーの花を飾る。小さく絞った生クリームはほのかに燻製香を感じるのがポイント。薪は焼くだけではなく、香りづけにもよく使う。

2. 人参

皿が運ばれてきてビックリ!真っ黒な人参(写真右)は失敗作ではありません。しっかりと焼いた結果、周りは炭化して、同時に中までしっかり火が入り、半分に割るとほっくり、とろりと軟らかくなっている(写真左)。皿の上にはカリカリになるまで焼いた人参の葉、スパイス入り発酵バター、シークワーサーの実、生のクルミなどと混ぜて味わう。

3. 新島の金目鯛

いま石松シェフが気に入っているのが新島の金目鯛。新島も東京都です!しかも朝、新島を出荷された魚は午後には調布空港に到着。店まで車で15分で届く。「深海魚なので脂が乗って美味しいですね」。骨を焼いて引いた出汁、カブのすり流しとともに黒文字、馬告(台湾の胡椒)をプラスしたエキゾチックな蒸し物。何料理ともいえない自由な構成。

火を操るのが料理。
そのバリエーションで素材を丸ごといただく
4. アオリイカのリゾット

熱々に起こした炭が運ばれてくる。スライスしたアオリイカを一枚つまんで、その炭で軽く炙る。イカの肝を加えたトマトソースで炊いた黒米、押し麦リゾットと合わせて楽しむ。味に変化を出すために、添えてあるスープを少し加えるといい。レモングラスや夏みかんなど柑橘系の香りをプラスしたスープ(アサリ、ハマグリの出汁)はすっきり爽やか。

フォカッチャと発酵バターも自家製。
うれしいことに本格的な味わい!発酵バターが旨い!
5. 門崎牛の薪焼き

岩手県で育てられた門崎牛は黒毛和牛だが、「黒毛和牛特有の細かいさしがなく、すっきりした味。それでいて焼いても硬くならず軟らかい」とシェフも驚く。東京の卸業者に紹介されて取り入れることになった。その時によって部位は違うがこの日はランプ。コースでは一人分100g。アラカルトでも100g(3000円)から用意している。

6. 親鶏と湧水のコンソメ

深大寺は美味しい水に恵まれたところ。その湧き水でつくるコンソメスープ。週一でコンソメの仕込みをするとき、湧き水を汲みに行く。丸鶏のガラで出汁を取り、肉でミンチをつくる。左の皿がハーブ(レモンタイム)、奥が薪の香りのオイル。

7. 薪焼きイチヂクとフレッシュチーズ

イチジクを薪火で焼くと、表面は硬くなるが、内側はジャムのようにねっとりする。合わせるチーズはモッツァレラチーズ。八王子の畜産農家から新鮮な牛乳を仕入れて店でつくる。「スタッフで試行錯誤しながらつくっています。

8. 菊芋の寒天/和梨のマリネ

デザートといってもフレンチ風ではなく、素材をテーマにした、和風、あるいはアジアンエスニックなものが多い。寒天に閉じ込められた菊茶、梨をシロップ漬けにした和梨のマリネなど、オリジナリティあふれるデザートが登場。

9. 食後の飲み物

コーヒー、紅茶、ハーブティーがあるが、コースの流れを考慮した、その日のおすすめ茶を用意。お茶は桑の葉、ハスの葉、ハトムギ、よもぎ、黒文字、花はぶ、グァバの全7種。それぞれ美味しいだけでなく身体にもいい。

気軽に楽しめるアラカルトも!

ハンバーガー2000円

オリジナルの自家製バンズを焼き、鹿肉を使ったパテを挟む。赤み肉でヘルシー、ジビエと言っても癖がなく食べやすい。さらに自家製ハーブソースや発酵させた赤玉ネギなど、個性豊かなアイテムをプラス。ここでしか味わえない味にはまる!

1800円

裏庭の自家農園のハーブをたっぷり使ったペーストをもとにしたカレー。毎回、ハーブの種類や割合が違うので、二度と同じ味が出せない。でも、ハーブの香りで春夏秋冬のカレーに仕上がる。本日はナスのカレー。といってもタイカレーのように辛くはない。

シェフ 石松一樹(いしまつ・かずき)さん
1988年、東京都生まれ。都内の有名フレンチでの修業を経て、27歳でオーストラリアへ。メルボルンにある名店「Brae」で、自家菜園から取れた野菜の美味しさに感動。食材の最高の状態を提供する店を目指す

Maruta
住所|東京都調布市深大寺北町1-20-1
Tel|042-444-3511
営業時間|昼頃〜日没
定休日|月、火曜
料金|1万円〜 ※アラカルトあり
www.maruta.green

text:Yumiko Inukai photo: Muneaki Maeda
Discover Japan 2021年1月 特集「温泉と酒。」


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