TRAVEL

横浜《臨港パーク》
横浜港を眺める新たなカルチャー拠点

2022.9.11
横浜《臨港パーク》<br><small>横浜港を眺める新たなカルチャー拠点</small>

山下泰樹建築デザイン研究所では、横浜市みなとみらい地区の大型公園「臨港パーク」における複合施設の設計デザインプロジェクトが進行中だ。海岸沿いの遊歩道や広大な芝生エリアがある「臨港パーク」は、みなとみらい地区で最大規模の公園で、休日は家族連れやランナーが集まるスポット。建物は次世代のサステイナブル建築として、環境に配慮した木材の利活用を行いながら、木造の可能性を追求したダイナミックな設計デザインが特徴で、新たなランドマークになることを目指している。施設内にはカフェやレストラン、ロッカーやシャワーを完備したランニングステーションの出店を予定。臨港パークの魅力を際立たせる新たなカルチャー拠点として2023年以降の完成を予定している。

山下泰樹建築デザイン研究所(TJ Design and Architecture)
山下泰樹氏が率いる、建築・インテリアデザイン領域を中心に活動する建築設計事務所兼研究機関。DRAFT内に発足された組織であり、人を主役としたデザインのあり方を追求し、様々な分野でより高いレベルのデザインを追求している。

山下 泰樹(やました・たいじゅ)
1981年生まれ、東京都出身。2008年にDRAFT Inc.を設立。インテリアデザインから建築設計、プロダクトデザインまで幅広い領域を手がけるデザイナー。Best of Year(米)、SBID(英)、INSIDE Award(独)など海外のデザイン賞を多数受賞し、気鋭のデザイナーとして国際的評価も高い。桑沢デザイン研究所 非常勤講師。

環境と共存・共生していく
新しい建築のカタチ

臨港パークプロジェクトでは、横浜港を臨むみなとみらい地区最大の緑地である臨港パークにおいて、芝生が広がり木陰を生み出す木々が多くあることから、人々の憩いの場所とし、公園利用者のためのカフェ・レクリエーション施設を建築する。

山下氏がこのプロジェクトで狙っていること、それは横浜市が掲げる「クリエイティブシティ・ヨコハマ」を体現するデザインを行うとともに、これからの時代を担うに相応しい環境共生型の建築を実現し、みなとみらいエリアの一層の盛り上がりを牽引していくこと。

横浜市が2004年から掲げている都市ビジョン「文化芸術振興」や「経済振興」といったソフト施策と、「まちづくり」などのハード施策を一体的に取り組み、国内外から「選ばれる都市」として持続的に発展していくことを目指している。

木材をダイナミックに全面活用した
建築デザイン

本プロジェクトは、構造部材の耐火被覆に木材を使う「木質ハイブリッド構法」によって建築を構成。サステナブルな建材として再び注目の集まる木材をふんだんに活用しながら、建築物として必要な耐力・耐火性を確保。

デザインは、この木質ハイブリッド構法をただ水平・垂直に使うのではなく、ファサード部材を全面ダイナミックにダイヤ状に構成。そうすることで、スラブの水平ラインや後ろに控える鉄骨・ガラスサッシとの強いコントラストをつくっている。

屋根はゆるやかなアーチを連続させ、臨港パークの既存の樹木がつくるスカイラインと調和させることをねらった。さらには使用している木材を定期的に交換できるようにすることで、構造体を損傷させることなく、木材を適切に循環していくことができるサステナブルなつくりとした。

ここまで取り組むからこそ、クリエイティブシティ・ヨコハマを体現し、臨港パークの新たなランドマークとして人々の記憶に残るデザインは実現できると山下氏は考えている。

伊勢神宮の“式年遷宮”に学ぶ、
日本古来のサステナブル思想

「木材を適切に循環していく」という考え方は、伊勢神宮の”式年遷宮”から着想を得たものだ。約2000年もの歴史を持つ伊勢神宮は、外宮・内宮のそれぞれが東西に同じ広さの敷地を持ち、20年毎に同じ形の社殿を交互に新しく造り替える“式年遷宮”という神事を行う。

西暦690年以来続いているこの儀式は、材料となる木の伐採からはじまり、部材が運ばれ、社殿が建てられ、20年の役目を終えて解体され、また木を伐採し…という循環をたどる。その一つ一つが自然への感謝とリスペクトを持って祭事として行われており、さらにこの儀式によって生じた古材は可能な限り再利用されているのである。このように材料の一つ一つを大切に使って循環させ、人・自然・建築が共存共生していくサステナブルな取り組みが、日本では1500年も前から取り組まれていたのだ。

スクラップアンドビルドではなく、
”循環する”建築の時代へ

「今の日本でも同じような考え方によって建築をつくることはできないか。」「木を使い、きちんと循環させ、環境にも配慮した建築はつくれないか。」山下氏はこうした思いを持ち、臨港パークプロジェクトのデザインに臨んでいる。

日本では、モダニズム建築が台頭してきた20世紀以降、合理的・機能的な建築ばかりが大量につくられ、そして大量に消費されてきた。それらは確かに合理的かもしれないが、反面チープで、一つ一つが大事にデザインされていないものも多い。当たり前のように建築がスクラップアンドビルド*されてきたことにより、地球環境に対して大きな影響を及ぼしていることは言うまでもない。これからの時代、我々は都市の合理化ばかりを進めるのではなく、一つ一つの建物をじっくり長く、そして大事に使っていくべきだと考えている。

※スクラップアンドビルド
老朽化・陳腐化で、物理的または機能的に古くなった建物・設備を廃棄し、最新の施設・設備に置き換えること。

臨港パークの魅力を最大化させる新たなカルチャー拠点として、商業エリアから続く海沿いの賑わいと、周辺住民にも親しまれるのどかさを併せ持つ新しい「臨港パーク」の完成が楽しみだ。

臨港パーク
https://www.pacifico.co.jp/visitor/floorguide/outside/tabid/207/Default.aspx

DRAFT
https://draft.co.jp

神奈川のオススメ記事

関連するテーマの人気記事