TRADITION

茨城県《土浦全国花火競技大会》
秋の夜空を彩る地域活性化を願う花火
|改めて知っておきたい日本の祭り

2022.10.12
茨城県《土浦全国花火競技大会》<br>秋の夜空を彩る地域活性化を願う花火<br><small>|改めて知っておきたい日本の祭り</small>

古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。

花火といえば夏の季語だが、秋にも有名な花火大会がある。今回紹介する土浦全国花火競技大会がそうだ。同大会の歴史や見どころをひも解こう。

※2022年は11月5日(土)に開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください

はじまりは地域活性化を願う住職のアイデアだった!?

佳作「群青世界」

昨今、集客のために夏に限らず四季折々に花火を上げる観光地が増えているが、土浦の花火大会はその名称が「土浦全国花火競技大会」とあるとおり、目的は花火師の技術向上のため。その歴史は1925(大正14)年に始まる。第一回から第五回大会までは、大日本仏教護国団という団体が主催しており、霞ケ浦海軍航空隊殉職者の慰霊や地元商工会の活性化、さらには秋の実りを感謝する五穀豊穣の祈りなども、大会の趣旨に含まれていた。この大日本仏教護国団を組織したのが、土浦の神龍寺の住職・秋元梅峯で、彼は笠間稲荷神社全国煙火競技大会を参考に、土浦の花火競技大会を誕生させたのだ。秋元梅峯は、花火競技会を立ち上げただけでなく、様々な社会事業を手掛け、地元の発展に尽くした人物として尊敬を集めている。

花火競技大会初期の記念写真(中央前列が秋元梅峯師)

花火師の地位向上にも努めた伝説の花火師

優秀賞「白銀映える桜川河畔」

土浦の花火競技大会を語る上で、もうひとり重要な人物がいる。それは北島義一だ。彼は明治時代から花火製造業を営んできた家に育ち、花火師としての技術研鑽を積んで独立。戦後、土浦火工株式会社を立ち上げて、全国の花火競技大会で数々の賞を受賞してきた、昭和を代表する花火師のひとりだ。その代表作のひとつが昭和20年代にはじめて打ち上げたとされる「ブドウ煙」で、当時まだ難しいとされていた紫色の煙と落下傘を組み合わせた、斬新な昼花火だった。彼は後進の指導を熱心に行い、各地から集まった弟子がその知識や技術を受け継いで地方へと散っていき、全国の花火技術のレベルアップに貢献した。また北島はただ単に美しい花火を作るだけでなく、花火製造業の地位向上や、打ち上げの保安にも尽力した、日本の花火界の発展に尽くした人物としても知られている。

土浦でスターマインの賞を取るのが花火師の夢


優秀賞「虹色千輪」

現在の土浦の花火競技大会は、50組前後の煙火業者が参加し、①10号玉②スターマイン③創造花火で、その成果を競う。花火競技大会といえば有名な大曲では、参加業者に指定制を採用しているが、土浦はそうした枠はない。また①~③の全部門参加が絶対条件ではなく、10号玉だけ、創造花火だけでも参加できるなど、自由度が高いのも特徴のひとつだ。
スターマインはその進化の歴史の中で、とにかくたくさん打ち上げれば派手で見栄えがするという方向に走りかけたのを、土浦の花火競技大会が玉数や筒数に制限を設けたことで、玉の出来、全体の構成、点火のタイミングなどにこだわる、スターマイン本来の魅力を追求する方向に戻ったという経緯がある。このため、花火師にとって土浦の花火競技大会でスターマイン部門の優勝を勝ち取ることは、名誉もひと際。多種多様な花火を組み合わせた土浦仕様のスペシャルバージョンが披露されることも多い。

スターマイン打上現場

遠くからも花火がきれいに見える、平地の打ち上げ会場

開催地である土浦市の風景

花火大会は競技だけでなく、競技の中盤やエンディングに、大会提供の花火が打ち上げられるコーナーもある。ここでは土浦といえばスターマインとばかりの大掛かりなワイドスターマインや、大玉の連打など、度肝を抜くような派手な花火が打ち上げられる。これも競技とは別に、大会の大きな見どころのひとつになっている。
観覧には有料の桟敷席が用意され、なんとその総延長は約450ⅿ。桟敷席以外でも、打ち上げ地点から半径500ⅿほどの範囲なら、360度どこからでも花火が楽しめる。土浦駅からシャトルバスが運行するが、露天などを冷かしながら歩いて会場へ向かう人も多い。東京から特急電車で小一時間ほどという距離の近さもあり、関東近県を中心に多くの観光客が集まる、秋の夜長の風物詩となっている。

読了ライン

優秀賞「秋の彩り」


入選「田んぼに咲く華」


最優秀賞 「満天の星」


最優秀賞「夜空彩る秋の花」

土浦全国花火競技大会
開催時期|11月第1土曜日 ※2022年は11月5日(土)17:30スタート(荒天の場合は12日(土)または13日(日)に延期)
会場|土浦市桜川畔(学園大橋付近)
Tel|029-826-1111
https://www.tsuchiura-hanabi.jp/

ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)

大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=日本の花火(筑摩書店)、日本列島花火紀行(山と渓谷社)、花火と土浦(公式冊子)

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