TRADITION

徳島県《阿波おどり》
400年の歴史を持つ世界屈指の盆踊り大会
|改めて知っておきたい日本の祭り

2022.8.6
徳島県《阿波おどり》<br> 400年の歴史を持つ世界屈指の盆踊り大会<br><small>|改めて知っておきたい日本の祭り</small>

古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。

今回紹介するのは、400年を超える歴史を持つと言われる、徳島が世界に誇る伝統芸能「阿波おどり」。阿波踊りの起源や歴史、祭りの見どころを紹介しよう。

※2024年は8月11日(日)~15日(木)にて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください

徳島の名物と言えば鳴門海峡。そして夏ならば何といっても阿波おどりだ。
しかしこの「阿波踊り」という名称が、意外に最近のものであることは、あまり知られていない。はっきりはしないが、江戸時代初期にすでに原型ができていた、阿波の踊りの祭典は長らくただ単に「盆踊り」と呼ばれていた。大正時代あたりから一部で言われ出していた「阿波踊り」という言葉を使うのがよかろうと言い出したのは、郷土史家・林鼓浪で、昭和初期のこと。「阿波踊り」という名称が定着したのは、戦後の話なのだ。

庶民パワーが炸裂!
お上に危険視されるほどの大レイヴ

阿波踊りの起源には諸説あり、どれも確定的な証拠には欠けるが、なんにせよ江戸時代初期には、この地域でお盆の時期に庶民たちが熱狂的に踊るという風習があったことは間違いないようだ。

戦国時代の末期から阿波を治めた三好一族の興亡記「三好記」に、天正6年に領主が城下において庶民の風流踊りを見物したという記録がある。この風流踊りとは戦国時代に大人気となった、いまで言うところの仮装行列。お盆の時期に町や村など一つの集団で隊列を組み、流行歌を歌ったり笛や太鼓で囃したりしながら、よその地域へ足を延ばして踊りまわる。この風流踊りを披露されたよその地域では、自分たちも出かけて行って風流踊りを披露する。このよそへ行って風流踊りを披露することを「風流を懸ける」と言い、お返しに出かけて行って風流踊りを披露することを「返す」と言った。自分たちの住む地域の疫病神をよそへ連れ出して払うことが風流踊りの起源ともいわれ、当然連れてこられた側はまたその疫病神をよそへ連れ出す。その「よそへ」「返す」「よそへ」「返す」の繰り返しが野火のように広がり、お盆の時期に大規模な風流踊りが発生するという現象になったと言われている。これは阿波に限ったことではなく、京都などでも大流行して、踊りに熱狂した人々が内裏にまでなだれ込んだこともあった。
こうした庶民の熱狂が暴動になるのを恐れ、江戸時代はたびたび「大集団になってはいけない」「派手にやってはいけない」などの制限令が何度か出たが、そのたびにその制限をかいくぐる形で、阿波踊りは進化していった。

地元総人口の数倍の踊り手が集まる、
世界屈指の盆踊り大会

現代の阿波踊りは三味線や太鼓が奏でる単純なリズムに合わせて、独特の動きで手を揺り動かす形が主流。それも江戸時代に町ごとに百人以上が一つの集団をなして、奇抜な踊りを競って踊った派手な祭りを制限されたために生まれた工夫の一つで、これにより見物人も興がのればすぐに見よう見まねで参加できるようになり、制限がかかったことが逆に阿波踊りのすそ野を広げてくれる結果になったのだ。

8月12~15日に行われる徳島市の阿波おどりには、徳島市の人口を数倍上回る人々がつめかけ、日々練習を重ねてきた踊りを披露する。数々のグループ(連)の踊りをゆっくりと鑑賞できる演舞場の桟敷席チケットは、毎年争奪戦になるプレミアもの。近年は有名な連によるステージ公演も行われている。阿波踊りに魅せられた他県の人々も、7~9月にそれぞれの地方で阿波踊りを開催しており、中には数十年に及ぶ歴史を持つ、阿波ではない土地の阿波踊りもある。例えば東京だけでも年間に20~30の阿波踊りイベントが開催されており、徳島以外の連も一年中練習に練習を重ね、徳島市の阿波おどりに駆けつけて、日ごろの練習の成果を披露するのを無上の喜びとしている。

見よ!日ごろの練習の成果が光る、
一糸乱れぬ連の踊り

阿波踊りの振り付けは前述のとおり、あまり複雑ではないのが魅力のひとつ。しかしひとつの連として一糸乱れぬ動きを身に着けるのは生中なことではない。阿波踊りは男踊りと女踊りに分かれ、腰を落として右手右足、左手左足を同時に出して進むのが基本。男は頭を手拭いで巻き、女は編み笠を被る。メロディーは、江戸時代に流行した「よしこの節」で、連には旋律を担当する篠笛、スピードをコントロールし連を指揮する鉦、リズムを刻む大小の鼓と太鼓が付き物。連によって多少振付が異なるだけでなく、スピードにも個性があり、超スローモーな動きで、連の一体感を演出する連や、超高速で勢いを見せる連もあり、それぞれの連のアピールポイントの違いが見どころになる。

阿波おどりの音色

阿波おどり独特のお囃子を奏でる楽器を総じて「鳴り物」と呼ぶ。鉦、鼓、締太鼓、大太鼓、笛、三味線の組み合わせを基本とし、阿波おどりの軽快なリズムで、ぞめき囃子を奏でます。その演出は伝統的な旋律を守りながらも連のおどりスタイルに合わせて絶妙にアレンジさせ、個性を競い合う。

メロディ楽器として主旋律を担当。一般的な篠笛のほか、調律笛も使われる
踊りを盛り立てる大太鼓。お囃子のベースとなり締太鼓とともに踊り子のモチベーションを高める
阿波おどり特有のメロディを奏でる三味線は、鳴り物の風情を醸し出す重要な存在
鉦(かね)は場面に応じて叩き方に緩急をつけ、ほかの鳴り物が演奏しやすいように導く
徳島市中心部一円が踊りの渦に巻き込まれ、興奮のるつぼと化す
徳島市中心部には、1年を通して阿波おどりを楽しめる「阿波おどり会館」があり、徳島市ではいつでも阿波おどりの魅力に触れることができる

阿波おどり
開催時期|8月11日~15日 ※2024年は8月11日(日)~15日(木)にて開催予定
会場|徳島市内中心部一円
問|阿波おどり未来へつなぐ実行委員会事務局
Tel|088-678-5181
https://www.awaodorimirai.com/

ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=日本の祭り解剖図鑑(エクスナレッジ)、祭りの辞典(東京堂出版)、日本の祭り(実業之日本社)、祭りの日本史(洋泉社)

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