TRADITION

一生に一度は見たい!越中八尾「おわら風の盆」

2019.8.31
一生に一度は見たい!越中八尾「おわら風の盆」
おわらでは編笠を深く被ることが鉄則で、いまも踊るときはあごしか見せてはいけない。外からは表情が見えないからこそ、ためらいなく大胆に陶酔して踊ることができる

三味線と胡弓のどこか寂しさを含んだ調べに、唄いが応え、それに合わせて優美な踊りが繰り広げられる……。歴史ある町並みと相まった、その幻想的な風景は、一生に一度は見ておきたい。舞台は富山県の山あいの町、八尾。ひと夏の恋の、あの胸の高鳴りと切なさにも似た、「おわら風の盆」が今年も行われる。

※2023年は9月1日(金)~3日(日)にて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください

いつどこで踊りがはじまるか分からない
300年以上も続く民謡行事

毎年風の盆期間には、3日間で30万人もの観光客が八尾を訪れるという。中でも日本の道百選に選ばれている諏訪町の目抜き通りは古くからの町並みが残り、人気が高い

提灯のぼんやりした灯の連なる坂上から、唄声と胡弓の調べが小さく聞こえる。目を凝らすと、暗闇の中から揃いの浴衣を着た踊り手たちが、ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。編み笠を深く被った女性の、ひざを折りしなをつくる様子はなまめかしく、一方それに寄り添うように踊る男性は、力強くもまた、その手の所作一つひとつに優美さが漂う――。

各支部は、決まった時間にそれぞれの踊り場で町流しや輪踊りを行う。写真は東町の公民館前の輪踊り

300年以上も続く民謡行事「おわら風の盆」。全国的に人気の高いこの祭りの舞台となるのが、富山県八尾だ。普段の人口は2500人にも満たない小さな町だが、毎年9月の1日からの3日間、その表情をがらりと変える。

この「おわら」は、高橋治の恋愛小説『風の盆恋歌』で取り上げられ、一躍有名になった。民謡ブームも助け、いまでは期間中には観光バスが乗り付け、大勢の見物客が詰めかけることから、かつての風情が失われてしまったことを嘆く声もある。けれど八尾の町の生命ともいわれる「おわら」への情熱は絶えることなく、町の人々にいまも確かに受け継がれている。

おわらに特徴的な哀調の音色を奏でる胡弓のほか、三味線、太鼓、唄い、囃子を地方(じかた)という。欠かせない“バックバンド”の役割を務める

八尾の人々は一年を通じておわらの練習に励み、芸を磨く。実はこのおわら、旧町と呼ばれる八尾の11の支部が自主的に行う、いわゆる“町内会行事”だ。直前には各町で公民館に集まり毎晩のように稽古を重ねるが、それも誰かに見せるためではない。純粋な自分たちの楽しみのための踊りであるところに、おわらのよさはある。

そのため風の盆期間中も、すべての町が一堂に会して踊るというようことはなく、一部の町流し・演舞場での出演以外は、いつどこで踊りがはじまるのかわからない。

23:00を過ぎると、あとは気が向いた者同士、踊りたい人が集まったタイミングで踊りがはじまる

実際、おわらを観に行きたいと思ったら、まずは昼おわらがおすすめ。各エリアで町流しや輪踊りが繰り広げられ、町をぶらぶらと練り歩けば、おわらの音色があちらこちらから聞こえてくるはずだ。

日が暮れた八尾の町にぬるい風がつうっ吹き、提灯がぽつりぽつりと灯りはじめると、いよいよ見物客の期待感は頂点に達する。あちらの町で踊りがはじまるらしい。いや、こちらの踊り場か。そんなうわさが飛び交う。いまかいまかと踊りがはじまるのを道脇で待つ時間も、また悪くない。

山間地を切り開いて町建てされた八尾。高く積み上げられた石垣の上に町屋が立ち並ぶ風景は、その歴史をいまに伝える

八尾の町におわららしい情緒が漂いはじめるのは日付も変わり、夜も深まる頃。おわらというと、冒頭のような夜の幻想的な雰囲気を思い浮かべる人が多いが、その光景を見られるのはよほどのツウか、幸運に恵まれないと難しい。

しかしいまも変わらず、日本の奥ゆかしい風情を残す「おわら風の盆」は一生に一度は見ておきたい祭りだ。今年も八尾では、夏から秋へと移ろう季節を、おわらで惜しむ。

おわら風の盆
期間|2023年は9月1日(金)~3日(日)にて開催予定
※各町内(11支部)による輪踊り、町流し。詳しいタイムスケジュールはガイドマップ参照
場所|富山県富山市八尾町
アクセス|電車/JR富山駅から越中八尾駅まで約25分、越中八尾駅から連絡バス (30分間隔で運行)、車/富山市内から車で約30分、駐車場から送迎バス(一部交通規制あり)
www.yatsuo.net/kazenobon

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