一生に一度は見たい!越中八尾「おわら風の盆」
三味線と胡弓のどこか寂しさを含んだ調べに、唄いが応え、それに合わせて優美な踊りが繰り広げられる……。歴史ある町並みと相まった、その幻想的な風景は、一生に一度は見ておきたい。舞台は富山県の山あいの町、八尾。ひと夏の恋の、あの胸の高鳴りと切なさにも似た、「おわら風の盆」が今年も行われる。
※2024年は9月1日(日)~3日(火)にて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください
いつどこで踊りがはじまるか分からない
300年以上も続く民謡行事
提灯のぼんやりした灯の連なる坂上から、唄声と胡弓の調べが小さく聞こえる。目を凝らすと、暗闇の中から揃いの浴衣を着た踊り手たちが、ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。編み笠を深く被った女性の、ひざを折りしなをつくる様子はなまめかしく、一方それに寄り添うように踊る男性は、力強くもまた、その手の所作一つひとつに優美さが漂う――。
300年以上も続く民謡行事「おわら風の盆」。全国的に人気の高いこの祭りの舞台となるのが、富山県八尾だ。普段の人口は2500人にも満たない小さな町だが、毎年9月の1日からの3日間、その表情をがらりと変える。
この「おわら」は、高橋治の恋愛小説『風の盆恋歌』で取り上げられ、一躍有名になった。民謡ブームも助け、いまでは期間中には観光バスが乗り付け、大勢の見物客が詰めかけることから、かつての風情が失われてしまったことを嘆く声もある。けれど八尾の町の生命ともいわれる「おわら」への情熱は絶えることなく、町の人々にいまも確かに受け継がれている。
八尾の人々は一年を通じておわらの練習に励み、芸を磨く。実はこのおわら、旧町と呼ばれる八尾の11の支部が自主的に行う、いわゆる“町内会行事”だ。直前には各町で公民館に集まり毎晩のように稽古を重ねるが、それも誰かに見せるためではない。純粋な自分たちの楽しみのための踊りであるところに、おわらのよさはある。
そのため風の盆期間中も、すべての町が一堂に会して踊るというようことはなく、一部の町流し・演舞場での出演以外は、いつどこで踊りがはじまるのかわからない。
実際、おわらを観に行きたいと思ったら、まずは昼おわらがおすすめ。各エリアで町流しや輪踊りが繰り広げられ、町をぶらぶらと練り歩けば、おわらの音色があちらこちらから聞こえてくるはずだ。
日が暮れた八尾の町にぬるい風がつうっ吹き、提灯がぽつりぽつりと灯りはじめると、いよいよ見物客の期待感は頂点に達する。あちらの町で踊りがはじまるらしい。いや、こちらの踊り場か。そんなうわさが飛び交う。いまかいまかと踊りがはじまるのを道脇で待つ時間も、また悪くない。
八尾の町におわららしい情緒が漂いはじめるのは日付も変わり、夜も深まる頃。おわらというと、冒頭のような夜の幻想的な雰囲気を思い浮かべる人が多いが、その光景を見られるのはよほどのツウか、幸運に恵まれないと難しい。
しかしいまも変わらず、日本の奥ゆかしい風情を残す「おわら風の盆」は一生に一度は見ておきたい祭りだ。今年も八尾では、夏から秋へと移ろう季節を、おわらで惜しむ。
おわら風の盆
期間|2024年は9月1日(日)~3日(火)にて開催予定
※各町内(11支部)による輪踊り、町流し。詳しいタイムスケジュールはガイドマップ参照
場所|富山県富山市八尾町
アクセス|電車/JR富山駅から越中八尾駅まで約25分、越中八尾駅から連絡バス (30分間隔で運行)、車/富山市内から車で約30分、駐車場から送迎バス(一部交通規制あり)
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