FOOD

銀座《空也/くうや》
あの著名人も愛した老舗和菓子屋の空也最中とは?【前編】

2023.7.17
銀座《空也/くうや》 <br><small>あの著名人も愛した老舗和菓子屋の空也最中とは?【前編】</small>

日本には100年以上続く和菓子屋は多々ある。「古きよき」、「伝統の」、「変わらぬ味」が求められる和菓子だが、東京・銀座の「空也」は和菓子の魂ともいうべきあんをANKOとして世界に広める、新しい味に挑戦している。空也の守るべきものは何かを常に考えながら、だ。前編は、あの著名人たちにも愛された、空也の代表和菓子「空也最中」の歴史について紹介しよう。

著名人たちの愛が受け継がれた最中

こんがりきつね色……よりもほんのり薄茶色い皮にたっぷり詰まった粒あん。空也の代表和菓子「空也最中」は明治時代に売り出され、その姿や味もほぼそのままに、令和のいままで不動の人気を誇っている。残念ながら戦前の資料は戦災で焼けており、現在伝えられている店の歴史は、先代、先々代の思い出話で「そうであったらしい」と伝えられていることが多いという。
 
空也というのは、言わずと知れた真言宗の祖である平安時代の僧・空也上人の名前。なぜその名がついたかというと、空也の創業者である古市阿行がこの店を開く際、力を貸してくれたのが、彼がメンバーの一人であった「関東空也衆」の人々であったことがその理由だ。難しい修行をして悟りを開いた出家僧だけでなく、一般の人もただ一念に「南無阿弥陀仏」と唱えることで仏の道に進めると説いた、空也の教えはより多くの人に広まる中で、念仏踊りなど、遊び的要素を帯びた布教法が生まれた。「関東空也衆」はこうした念仏踊りを楽しむ集団で、信仰心もないではないが、どちらかというと遊び的要素の強い旦那衆の集団だったため、メンバーである古市がひっ迫して新しい商売をはじめる際も、こうした旦那衆が合力してくれたようだ。
 
当主である山口彦之さんの先祖は、空也2代目の山口彦助。彼は初代の店に番頭として仕え、23歳で店を受け継ぐ。非常に仕事熱心で、よい和菓子づくりに努めた人物だったという。その頃、人気作家であった夏目漱石が空也の菓子をよく好んで食べていた。甘党として知られる夏目漱石は、自分の作品の中でもしばしば和菓子を登場させているが、空也の人気商品だった空也餅が『吾輩は猫である』に登場したことから、空也の名は「漱石先生おすすめの菓子店」として世に広く知られることになったのである。
 
ちなみに空也最中も、創業間もない頃から店に並んでいたものと思われ、夏目漱石も食べていた模様。こちらは初代が考案したもので、交流のあった歌舞伎俳優・9代目市川團十郎を訪ねた際、彼が古くなった最中を火で炙って食べているのに出くわし、その場でもらったところ、これは香ばしくて旨い、ということで、自分の店の最中の皮を、少し焦がし気味にして香ばしくしたという逸話が残る。空也最中は、文豪や歌舞伎界のスターという常連客からの愛が受け継がれていた。

空也最中
「予約なしには買えない」と評判の空也最中は、創業当時から空也の看板商品として、顧客に愛されてきたロングセラー商品

価格|1個110円 ※化粧箱30個入りは3600円
サイズ|約W4×D5.5×H2㎝
重さ|約30g
あんこの種類|粒あん
甘さ|すっきりとした甘さ
最中生地|パリっとした焦がし最中

語り継がれる空也ヒストリー

空也初代は「関東空也衆」の一人だった
空也念仏という天台宗一派の在家信仰があり、空也の創業者である古市阿行はこの空也念仏でつながる「関東空也衆」に入っていた。彼らは信仰を名目に、歌ったり踊ったりするのが好きな、旦那衆の集まりだったという
 
最中の焦がし皮は、歌舞伎役者・9代目團十郎がきっかけ!?
遊び好きな旦那衆の一人だった初代が9代目・市川團十郎のところに行くと、彼が古くなった最中を網であぶって焼いていた。これをもらって食べたところ香ばしくて美味しい! と気づき、皮を焦がした最中を売り出した
 
最中のかたち、屋号は「空也上人」にちなんだもの
関東空也衆の仲間が援助してくれたことがきっかけで、初代が和菓子店を開店。店名はこの絆をつくってくれた空也上人に由来し、最中のかたちは空也上人の杖についていたひょうたん飾りがモチーフになっている
 
夏目漱石の小説『吾輩は猫である』に空也餅が登場
2代目・山口彦助に明治30年に代替わり。当時本郷駒込千駄木町に住んでいた夏目漱石は、よく空也最中や空也餅を買いに来ており、『吾輩は猫である』に空也餅を登場させる。ほか数多くの文豪たちにも愛されている

読了ライン

 

100年続く空也最中の”あん”へのこだわり
 
≫次の記事を読む
 
  

 

text: Ichiko Miyatoya photo: Asami Endo
Discover Japan 2023年6月号「愛されるブランドのつくり方。」

東京のオススメ記事

関連するテーマの人気記事