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シンプルなフォルムが映し出す
色の小宇宙
「岩崎龍二のうつわ」というアート

2021.2.7
シンプルなフォルムが映し出す<br>色の小宇宙<br> 「岩崎龍二のうつわ」というアート
アイスグリーン、紫匂(しこう)、椿……美しい色の名をもつ平皿に飯椀、小鉢。 間近で眺めると、その質感の豊かさにも驚かされる

吸い込まれそう——幻想的な色彩に思わずそんな気分にさせられる、岩崎龍二さんのうつわ。見る者の目を引きつけて離さない凜とした美しさ、それでいてどこか温もりを醸し出す作品は、いかにして生まれるのだろう。岩崎さんのアトリエを訪ね、その深みを探ってみた。

岩崎龍二(いわさき・りゅうじ)
1980年大阪府生まれ。2000年大阪美術専門学校卒業。古野幸治氏に師事し、氏が主宰する陶芸教室に勤める傍ら技術を磨き、日本伝統工芸近畿展で新人奨励賞、大阪工芸展で市長賞ほかを受賞、全関西美術展・神戸ビエンナーレなどで入選。‘12年から大阪府富田林市に工房を構える。Instagram/@iwasakiryuji

美しい色のグラデーションが洗練のフォルムに映える、うつわの数々。自宅兼工房の一角に設けたショールーム「STUDIO depth」の壁一面に飾られた様は壮観だ。

岩崎さんが自作のうつわをアップするInstagramのフォロワーは、2021年2月現在で5万3000人余り。日本はもちろんNY、香港、台湾など海外のフォロワーも多く、陶芸好きにとどまらずファッションやアートに関心を寄せる層にもファンが広がっているようだ。FENDI表参道店から花器の依頼を受けたのもInstagramがきっかけ。SNS全盛時代のアーティストらしい逸話だが、岩崎さんの陶歴、実は伝統工芸の世界からはじまっている。

STUDIO depth。天井まで吹き抜けの大壁面には花器、大鉢といった伝統工芸の技術を駆使した大作から、普段使いできるうつわまでがずらり

「子どもの頃から粘土遊びが大好きだった」という岩崎さん。大阪美術専門学校を卒業後、就職したのは伝統工芸界の重鎮・古野幸治氏が主宰する陶芸教室だった。ここで登り窯をはじめ各種窯での焼成技術を学ぶとともに、ろくろ挽きにのめりこむ。

「土の塊からブワッとかたちができていくのが何ともおもしろくて。教室の仕事を終えた後、夜な夜な土と格闘し、夢中になってろくろを挽いていました」。菊練り3年、ろくろ8年ともいわれる厳しい修練を重ねて精緻な技を身に付け、多数の工芸展で受賞。壺や大鉢などの大作を、コレクターが買い求めるまでになった。

「非の打ちどころのないものを追求する」伝統工芸の作品制作に手応えを感じる一方、自らの工房を構えた頃から、食器など小品のうつわづくりにも取り組みはじめる。地元・富田林で活躍する陶芸作家やレストランシェフなどとの出会いに刺激を受け、「つくり手の手の跡が現れるような、より自由な表現」に惹かれるようになったという。そこで釉薬の研究をはじめ、今度はその織りなす色彩の魅力にのめりこんでいった。

土の中の空気を抜く「菊練り」(写真上)と、土を成形する「ロクロ挽き」(写真下)。岩崎さんの手にかかれば、土がまるで生き物のように柔軟に動き、みるみるうちにうつわのかたちに。「自然にできる土の動きと手のあとを大切にしながら、のびのびつくっています」

岩崎さんのうつわの最大の特徴は、絵画的ともいえる華やかな色彩だ。「釉薬の配合、窯で焼く際の数・詰め方、冷まし方などさまざまな条件によって、色の出方が変わる。その組み合わせは無数だから、色彩も無限」

思い描く色を求め、研究を重ね至ったのが、岩崎さんオリジナルの釉薬使い。半磁器土を成形した素地に、まずチタン入りの白い釉薬をかけ、さらに色を出す釉薬をスプレーガンで吹き付ける。

多くの陶芸家はベースの釉薬に色釉を混ぜて使うが、岩崎さんはあえて下地に白釉をかけてから、色の釉薬をのせる。「たとえるならばカレー粉を混ぜてから調理するか、後からかけるかの違い。後からのほうがカレー粉の味がはっきり感じられるように、後からのせたほうが、色の濃淡がよりはっきり出るんです」

釉薬をかけたら約1200度の温度で17時間かけ焼成、その後1000度付近まで温度を落としてそのまま数時間温度を保つ。すると釉薬は流れ、ゆっくりと膨らみ固まったところがガラス質に。白釉に含まれていたチタンは粒となってキラキラ輝き、色釉は美しいグラデーションを成して幻想的な、時に妖艶な表情すら見せる。

さらに釉薬の溶け方によって、器肌も豊かな肌合いに。しっとり吸い付くような質感から、つるりと滑らかな質感まで、一つのうつわの中でも多彩な味わいが出てくる。

うつわを彩る色模様をあらかじめデザイン画に起こすことは、しない。そのときの気持ちを大切に、頭に浮かんだイメージを映し出すように、釉薬を一心に吹き付けるという。

「かたちはいろいろ装飾した時代もありましたが、釉薬の美しさがもっともよく出るにはと考えるうち、いまのシンプルなフォルムに行き着きました」

「成形した後のひと手間として、スポンジで器肌をなでています。細い筋がつくことで釉薬の流れ方がおもしろくなり、美しいムラができるんです」
釉薬の原料は粉末状の酸化金属。出したい色に応じて複数の粉を調合、水で攪拌した後、スプレーガンで吹き付ける。作陶の中で「一番、集中する時間」
オリジナルの技法「環流(かんなが)し」を使った鉢。青く発色する釉薬で環(わ)をいくつも描き、その環の中に緑を発色する釉薬をのせて焼くと、釉薬が流れて融け合い、花弁のような文様に。ゆっくり冷ますことで、中央のくぼみに流れ落ちた釉薬がガラス質になって輝く。白い塊はベースの白釉の中のチタンが膨らんだもの

「黄檗(おうばく)」にはじまり、「アイスグリーン」、「紫匂」と、うつわを彩る色の釉薬のバリエーションはどんどん増えてきた。中でも長崎県佐世保市の森からやってきた椿の灰を、白い釉薬と掛け合わせることで、ほんのりピンク色を発する「椿」は近年力を注ぐ釉薬だ。「木によって灰の質も違うので、これからいろんな木の灰を使って挑戦したいですね」

飽くなき色の探求を続ける岩崎さんは、「『使えるアート』をつくっていきたい」とも言う。喜びを感じるのは「自分がつくったうつわが、一人歩きしていく時」。「いろんな人の家庭やお店で使われ、新たなストーリーを紡ぎ出していく。そうして生活に溶け込んで初めて完成するのがうつわだと考えると、本当に奥深い世界ですよね」。

しっかり空気を抜いて練り込んだ半磁器土によるうつわは、美しいだけでなく食洗機にかけられる堅牢さも自慢だ。岩崎さんのもとには和洋を問わず料理人が、店で使ううつわを求めにやってくる。結婚式の引き出物にと、コーヒーカップを何十個とオーダーする人も。

ちょうどよい持ち重りと質感、乗っていたモノがなくなると現れる、膨らみと輝きには誰しもときめくだろう。「岩崎龍二のうつわ」というアートを取り込めば、きっと、心潤う暮らしが訪れる。

夫妻とも甘党という岩崎家ではおやつも、もちろん岩崎さんのうつわで。「アイスグリーン」は酸化銅、ピンク系の「椿」は椿の灰、青みがかった「紫匂」は酸化コバルトの釉薬を使用
取材時に岩崎さんが見せてくださった、自宅の食器棚。黄檗、アイスグリーン、紫匂、椿……さまざま色彩が折り重なり、なんとも美しい。色違い、かたち違いで揃える楽しさをぜひ体感してみてほしい

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岩崎龍二さんのうつわはDiscover Japan公式オンラインショップで
購入できるのでチェックしてみてください。

text:Kaori Nagano(Arika Inc.) photo:Mariko Taya  special thanks: utsuwa-shoken


≫「うつわ祥見」が選ぶ注目作家、岩崎龍二

≫うつわ作家の食卓。岩崎 龍二さん

≫赤、緑、黄色が映える、岩崎龍二さんのアイスグリーン。うつわで料理を楽しくするもりつけのデザイン。

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