『ショウナイホテル スイデンテラス』
建築家・坂茂が手掛ける新しい庄内の街づくりのシンボル
地元の人が“何もない場所”とほほ笑む鶴岡市郊外には穏やかな田園風景が広がる。その一画に地方創世モデルの“サイエンスパーク”が誕生、頭脳集団がバイオベンチャーを担っている。
そしてかたわらには、建築家・坂茂氏デザインの滞在型宿泊施設「SHONAI HOTEL SUIDEN TERRASSE(ショウナイホテル スイデンテラス)」が佇む。この地から未来がはじまる、そんな予感がする。
せきねきょうこ
1994年から現職。世界のホテルや旅館の「環境問題、癒し、もてなし」を主題に現場取材を貫く。スクープも多く、雑誌、新聞、ウェブを中心に連載多数。ホテルのコンサルタントやアドバイザーも兼任。著書多数。
www.kyokosekine.com
庄内から発信される斬新なプロジェクト
山形県庄内平野の真ん中から、国内外に向けて街づくりのメッセージを発信しはじめたベンチャー企業がある。その名は「ヤマガタデザイン株式会社」(代表取締役・山中大介)という。
鶴岡市郊外の水田地帯には、鶴岡市が開発を手掛けた“サイエンスパーク”が先に稼働しさまざまな分野で事業を展開中だ。そのサイエンスパークのかたわらに、周囲の田園地帯に融合するようにホテルが建っている。この9月19日、自然との一体感をうたい建てられたホテル「ショウナイホテル スイデンテラス」がグランドオープンを迎えた。ホテルは前述のヤマガタデザインによってつくられた。この会社は、次世代に繋ぐ街づくりをデザインするという、地域主導の不動産開発運営会社として発足し、事業の一環としてホテルが誕生している。
鶴岡を訪れる前、テラスの情報に目を通しながら、ホテル名から発せられる不思議なオーラに驚かされた。さらにいえば、見たこともなかった鶴岡の田んぼや広い空が透けて見えそうなホテルのロゴにも、妙に惹かれたのである。ロゴを創った小松裕行氏のメッセージには、「収穫期にキラキラと黄金色に輝く稲穂に囲まれ建つホテル。たくさんの人々が集い、豊穣の喜びと笑顔が重なり……(中略)そんなイメージを直感的に視覚化したい。そう思ってロゴのデザインを考えました。だからきっと、ここはそんな場所になっていくんだと思います」と綴られていた。(中略は筆者による)これを読んで、ストンと腑に落ちた。山中代表を筆頭に、機知に富み感性豊かな人々がかかわるこの街づくりプロジェクトの取材当日、ワクワクしながら飛行機に乗り込んだ。
オープンしたての真新しいホテルは、想像を遥かに超えた美しいフォルムで、魅了された。建築デザインは、世界的に知られる建築家・坂茂氏が、水田風景になじむようにと設計を施したという。
完成した唯一無二の建物は、大空や水田、鏡のようなホテル周囲の水盤(地下水)と相まって、近くで見ても、遠望しても、ドラマチックな絵画のように見えた。ホテルのエントランスから2階に上がると、都会ではあり得ない横長低層2階建ての贅沢な建物は、フロントを中央にして、一方はライブラリーとショップ、もう一方には、全面ガラス張りのレストラン&バーがある。さらに天然温泉源泉かけ流しの大浴場もホテル自慢だ。客室も基礎部分以外は木造であり、館内には、坂氏のアイコンである丸い筒の“紙管”が随所に使われ、椅子やベンチ、ベッドボード、家具などが優しげな空間を演出している。
自然とともに過ごす贅沢と
街づくりベンチャーの拠点
そもそも、なぜ鶴岡? なぜ田んぼの真ん中? と、山積する質問を代表の山中氏にぶつけた。プロジェクトがスタートするまでに、この地に呼ばれた“縁”を感じさせる出来事が次々に起きたのだという。そして「多くの人が庄内のファンになってくれるような施設をつくりたかった」、「人生を懸けてやることを見つけた」と語ってくれた。さまざまな偶然は、このプロジェクトが実現するための必然の流れだったのだろうか。
そして、山中氏が特に力を注いでいる農業にも話が及んだ。ホテルから車で少し走った場所に所有する、ハウス12棟からなる施設で、農業を実践している様子を見せてくれた。「地域の自然循環で農作物を育てています」と、農業専門家を含むチームが、早い冬を迎える準備に奔走していた。ここでは環境共生型農業を目指し、農薬や化学肥料を使用せずに、地域の自然を活用した自前の土づくりから野菜栽培を行っている。「農業をいま以上に魅力的な産業とし、農業に夢を見る若者を育てたい」と山中氏。
今回の2日間の滞在を通し、私が追うホテルストーリーとともに透けて見えてきたのは、日本の未来を支える頼もしい“街づくり”の礎であった。
幅広いバリエーションの客室
山形のいいものが揃うショップ
館内には山形の名産品をセレクトしたショップもある。メインは「山形と庄内のオトナのお土産」をコンセプトに揃えた地酒や、地元のクラフト作家のオリジナルアートや雑貨が並んでいる。
スパ&フィットネス・エリア
宿泊者とスパ&フィットネス会員専用のエリアには、男女別の天然温泉大浴場と写真のスポーツジムがある。温泉と同棟の下階につくられたフィットネスエリアには、全身運動と持久力をつけるマシンが用意されている。
キッズドームで弾けよう!
全天候型自動遊戯施設「KIDS DOME SORAI」も坂茂氏の設計デザイン。長さ45mの斜面や高さ3mの壁のクライミングゾーン、ネットジャングルなど0〜12歳までが保護者とともに遊べる施設。下階にはワークショップ空間も。
期間限定、おすすめの「鴨しゃぶ」
事前予約が必要(4名〜)だが、庄内産バルバリー種をいただく「鴨のしゃぶしゃぶセット」。庄内産野菜サラダ、鮮魚の前菜、そして庄内野菜と鴨のしゃぶしゃぶをコースで。最後は出汁を楽しむ雑炊、デザートへ。
柔らか山形牛のタリアータ
赤ワインにぴったりのタリアータは、旨みを凝縮させるため塊を焼き、その後スライスして野菜とともに食す。
チーズと生ハムの前菜
「蔵王チーズと庄内豚生ハム盛り合わせ」はペッパーゴーダ、スモークゴーダなど蔵王産チーズに生ハム添え。
地魚のカルパッチョ
この日は白身魚アラ(スズキ目ハタ科)と水ダコのカルパッチョ。香り高いオリーブオイルが旨みを引き立てる。
旬の味暦
春(3〜5月):孟宗竹、山菜、アスパラガス、イカ、タコ、サクラマス
夏(6〜8月):ナス、キュウリ、だだちゃ豆、アワビ、サザエ、岩牡蠣
秋(9〜11月):サツマイモ、ラ・フランス、ハタハタ、サワラ、平目、アオリイカ、鮭、モクズガニ
冬(12〜2月):大根、さといも、温海かぶ(11〜12月)、寒ダラ、アンコウ、ヤリイカ(通年)山形牛、庄内豚、コイ、ニジマス
地酒の飲み比べセットも
朝食はビュッフェスタイル
朝陽に包まれた朝食時間。自家農園のフレッシュサラダや地元産の食材がずらり。ササニシキのご飯、ハーブ鶏、塩納豆、温泉卵、ハタハタ、庄内豚ウィンナーなど東北自慢の漬物と。
山形のワイン、充実しています
アメニティは環境保全型
室内着
コットン製、ロゴ入りの室内着。寝間着として利用でき、締めつけのないワンピース型で着心地に解放感
タオル
フェイスタオルとバスタオル。真新しいが水切れのいいタオルは肌触りも抜群
ボディ&フェイスソープ
地球環境保全プロジェクト「Private Lab」のアイテム。「JamLabel Shampoo」は髪も身体もOK
スキン・ヘアケア
フェイス、ヘア、ボディケアの3種。人にも環境にも配慮した生分解性の高い原料を使用した無刺激商品
ショウナイホテル スイデンテラス
住所:山形県鶴岡市北京田字下鳥ノ巣23-1
Tel:050-1745-9721(10:00〜22:00)
料金:1室9000〜4万円(税別)、
グループルーム4000円
カード:AMEX、DINERS、JCB、
MASTER、VISAほか 部屋数:143室
チェックイン:15:30〜24:00
チェックアウト:5:00〜10:00
夕食:和食、イタリアン 朝食:和食
アクセス:車/山形自動車道鶴岡ICから約10分
電車/JR鶴岡駅からタクシーで約10分
飛行機/庄内空港から庄内空港連絡バスで約20分、
サイエンスパーク降車
施設:レストラン、大浴場、フィットネス、
ライブラリ、ショップ、ビジネスルーム、キッズドーム
インターネット:Wi-Fi
ext: Kyoko Sekine photo: Atsushi Yamahira plan: A2WORKS
2019年1月号『風土を醸す酒』