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2022年の干支「トラ」と日本の関係性とは?
寅年の基礎知識

2021.12.28
<small>2022年の干支「トラ」と日本の関係性とは?</small><br>寅年の基礎知識

2022年の干支であり、日本画にもしばしば登場する、トラ。恐ろしく猛々しいだけでなく、どこか威厳を漂わせた生き物として描かれてきました。それはトラが人間の全くかなわない、命を握るものというところから、厳然たる自然の摂理を体現する、いわば神の化身ととらえられてきたためです。といっても、それは日本人が実際にトラと対峙して体感したことではなく、中国から渡ってきた絵画や物語の中でのこと。日本人にとってトラとは架空の生き物にして身近な生き物だったのです。この機会に日本とトラの関係を学んでみましょう。

実は日本にもトラがいた?!

静岡県の採石場から、トラの化石が出てきたことがある。トラだけでなく人骨も一緒に見つかった。その人骨にはトラかどうかはさだかでないが、食肉獣に噛まれた跡があったそうだ。これらが発見されたのは2万年以上前の地層で、まだ日本がユーラシア大陸と地続きだったころのもの。その当時は大陸の東の端の地まで、トラは悠然と歩きまわっていたことになる。その後、地殻変動によって日本がユーラシア大陸から離れ、日本にいたトラは絶滅してしまった。現在のところ、縄文時代の遺跡や弥生時代の遺跡からトラの骨は発見されておらず、『魏志倭人伝』には「その地(※倭の国・日本)には牛馬虎豹~がいない」と書かれている。

トラは神であり、仏と心が通じる生き物

中国の古代から続く思想では、東西南北を守る神を四神といい、それぞれ東から青龍、白虎、朱雀、玄武と呼ばれる、動物をかたどった姿をしている。この四神は、日本でも高松塚古墳の内壁に描かれるなど、かなり古い時代から守り神として受け入れられていたとみられる。朝廷がおかれる御所も、悪霊などが都に入ってこないように、四方の門に四神の名がつけられていた。

またインド発祥の仏教でも、釈迦の慈愛の大きさを語るうえでトラは欠かせない動物だった。釈迦がまだ出家前のこと、竹林で大勢の子供を抱えて飢えに苦しむ母トラを見て、自らの体をトラに与えようとしたという逸話がある。恐ろしい獣にも深い親子の情があり、自らの命にさえ執着せずに他に与える釈迦の徳を語るもので、こうした話からトラは人を食べる恐ろしいもの、しかしのちの釈迦となる人と通じ合う賢いものというイメージが、日本にも持ち込まれた。この逸話は、トラはとても子を大事にする、大事なもの=トラの子という言葉のもとにもなっている。

トラを退治したら伝説の勇者になれる

日本三名城の一つに数えられる熊本城を築いた加藤清正(かとう きよまさ)公像

トラは、人間ならとても暮らしていけないような岩山やジャングルにも生息している。厳しい自然の中で群れを作らず暮らす、その孤高ともいうべき生態が、人に畏敬の念を起こさせるのだろう。それだけにトラを倒すということは非常な名誉であり、知略と武力に優れた人物としてたたえられた。
日本でも何人かトラ退治で名を遺した人物がある。古くは膳臣巴提便(かしはでのおみはすひ)が、百済に使いに行った際、愛児がトラにさらわれてしまったので、雪の上に残ったトラの足跡を追った。そして向かってくるトラに飲まれそうになりながら、片手でトラの舌をつかみもう片方の手で刺し殺し、皮をはいで持ち帰ったと、日本書紀に記されている。

また豊臣秀吉に仕え、史実でもきっての猛将とされる加藤清正も、トラ退治で有名な人物。彼は自分の子どもではなく、かわいがっていた小姓の一人と愛馬をトラに奪われ、仇を討ちに行ったそうだ。この話は武勇伝に仕立てられて、のちの世に広まった。槍でトラと闘ったと言われていたが、実際は火縄銃で撃ったのだとか。

見世物小屋の人気者だったトラ

日本には実物のトラはいなくても、絵画や説話、冒険談(前述の加藤清正のトラ退治や、中国の『水滸伝』など)で、トラに親しんできた。

トラの皮は古くから貢物などで日本に入ってきていたが、それらを庶民が目にすることはなかった。しかし生きたトラを目にする機会は何度かあった。加藤清正がトラ退治をした朝鮮出兵の際、吉川広家が生きたトラを秀吉に献上したという記録がある。その後も見世物として日本に何度かトラが持ち込まれた。早いところでは1600年代に京都や大阪でトラの見世物が出たという記録があり、その後も何回か江戸や大阪でトラが見世物小屋に出て、庶民の人気を博したという記述が現れるようになる。

こうした珍しい生き物を見せる興行は、今でいうところの大人気アトラクションで、トラだけでなくゾウやオウム、アザラシ(アシカ?)、ダチョウ(ヒクイドリ?)、ラクダなども、当時の話題をさらう大人気の見世物となった。珍しいものを見ると寿命が延びると言って、縁起物でもあったのだ。ちなみにラクダの奇妙な姿は、よほど人々にインパクトを与えたと見られ、ゆっくりとした歩き方や食べては寝ている姿になぞらえて、体が大きくてのそのそした人を指して「あいつはラクダのようだ」という言葉まで生まれた。それが現代にも残る落語の名作「らくだ」を生み出した。

トラは竹林とともに描かれることが多く、そのためトラは笹の葉を食べると勘違いされていました。「ささ」というのはお酒を指す言葉でもあり、そのため笹をたくさん食べる=お酒をたくさん飲むことを、トラになるという風になったのです。年末年始はお酒を飲む機会が増えますが、うっかりトラになっていると退治されてしまいますのでご注意を!

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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=干支セトラ、etc.(岩波書店)/干支と十二獣(北隆館)/干支の動物誌(技報堂出版)/江戸娯楽誌(講談社学術文庫)

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