《三社祭》を迎えたら江戸は夏!
浅草を熱くする伝統の祭り
|改めて知っておきたい日本の祭り
古くから日本人の暮らしに密着し、土地の風土や文化を表す「祭り」。祭りの中には旅行客が参加できるものも多く、地域の人々と同じ体験を共有できる。また参加することで日本の文化や歴史も学べる。祭りを目的とした旅は、普通の旅行では味わえない特別な体験をもたらしてくれる。
今回紹介するのは、東京・浅草神社の「三社祭」。江戸三大祭りのひとつに数えられるこの祭りの起源や見どころを紹介します。
※2024年は5月17日(金)~19日(日)にかけて開催予定。詳しくは記事下部をご覧ください。
浅草神社のはじまりは、
隅田川から引き揚げられた尊い仏像
江戸三大祭りのひとつに数えられる三社祭は、1312(正和元)年にはじまったと言われる浅草神社の祭礼。毎年5月、3日間にわたり行われるこの祭りは、100基あまりの神輿が町内を練り歩く、勇壮な渡御が見どころのひとつ。「三社(祭)が来れば浴衣を着る」という説もある、江戸に夏の到来を告げる祭りでもある。
浅草神社が祀るのは土師真中知命、檜前浜成命、檜前武成命だが、この3柱の神様はもともと人間だった。推古天皇の時代に隅田川から聖観世音菩薩像を引き上げたのが、漁師だった檜前兄弟。この辺りの知識人だった土師氏がその像を引き取り、自宅にお祀りしたのが浅草寺のはじまりだ。
この浅草寺の創始にかかわった3人を神様としてお祀りしたのが浅草神社。神仏混交の時代は土師氏を阿弥陀如来、漁師兄弟を観世音菩薩、勢至菩薩の化現として祀っていたが、明治維新後の神仏分離令により、神社では3人を仏の化現ではなく、御祭神として祀るようになった。
華やかな大行列と田楽舞が見どころの1日目
三社祭は3日間にわたって行われ、日によってそれぞれ違った見どころがある。
1日目は囃子屋台がにぎやかに祭囃子を奏で、浅草芸者衆の手古舞や組踊、役半纏を羽織った男衆の大行列が練り歩く。この行列が神社に着くと浅草神社の社殿で「びんざさら舞」が奉演される。拍板とは108枚の細く薄くした檜の板を重ねて紐で止めた楽器のこと。びんざさら舞は室町時代に発生した田楽舞で、五穀豊穣や悪霊退散を願う。これは昔、浅草周辺が田園地帯であったことの名残で、豊作の敵である害虫や悪疫消除祈願を願う獅子舞なども演じられる。
揃いの半纏姿も凛々しい
町会神輿が練り歩く2日目
2日目は例大祭の式典後、各町会の神輿が浅草寺裏に集まり、浅草神社でお祓いを受けて町内へと繰り出す。江戸時代までは神輿よりも山車が中心で、本社神輿が船に載せられて隅田川を遡上する船渡御が行われていた。現在は浅草神社の氏子44ケ町の神輿の数およそ100基はあり、各町内自慢の神輿を揃いの半纏姿で担いで練り歩く。この100基の神輿が浅草寺裏の広場にずらりと揃ったところはまさに壮観のひと言だ。
荒く担ぐほど霊力が増す
本社神輿が登場する3日目
3日目は本社神輿3基が浅草神社を出て各町内をまわる。この神輿には浅草神社の祭神が乗り、氏子の住む地域を見まわるというもの。各町内の氏子が引き継ぎ引き継ぎ担いでまわる。以前は徳川家光が寄進した3基を含め7基の本社神輿があったが、東京大空襲で焼失してしまい、現在の3基はすべて戦後に奉納されたものだ。
本社神輿は荒く担ぐほど神の霊力が高まるとされており、昨日に増して威勢よく神輿を担ぐ人々が押し合いへし合いしながら、各町内40分ほどかけてまわっていく。
祭りのフィナーレは鳶(とび)の頭たちによる神輿の庫入れ。午後8時から8時半の間に3基の本社神輿が境内に戻り、宮へと戻る。先ほどまでの荒々しいエネルギーが倉入りと同時にしんとおさまり、祭りの後の静けさが境内を包む。
全国の神輿マニアが「一度は担ぎたい!」と憧れる三社の神輿
三社祭で神輿を担ぎたい、特に本社神輿を担ぎたいと願う神輿マニアは全国に大勢いるが、三社祭の神輿は基本的に氏子が担ぐものであり、勝手に飛び入りした者が神輿に手を触れられないように、境内通行証やワッペンを発行し、担ぐ資格のある者かどうかすぐにわかるようにしている。全国の神輿の中には担ぎ手が神輿に乗るってあおることを許している祭りもあるが、三社祭で神輿に乗ることはご法度。こうしたルールを徹底して守らせるためにも、担ぎ手を限定している。
読了ライン
毎年5月に行われていた三社祭も、コロナ禍で2020年、21年は神輿をトラックに載せて町内をまわるなどしていた。2023年は宮出しこそ規模を縮小するが、それ以外は従来通りの三社祭を行うという。待ちに待った本式の三社祭に、浅草っ子たちの熱気は高まる一方。3日間で150万人の人出が見込まれている。
三社祭
開催時期|5月第3金~日曜 ※2024年は5月17日(金)~19日(日)にて開催
会場|浅草神社
住所|東京都台東区浅草2-3-1
Tel|03-3844-1575
https://www.asakusajinja.jp
ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=日本の祭り解剖図鑑(エクスナレッジ)、日本の祭り(実業之日本社)、祭りの辞典(東京堂出版)、浅草 三社祭(星雲社)