北海道を豊かにした魚・ニシン。
絶滅寸前から復活した理由とは?〈後編〉
北海道の魚を知る旅
明治・大正期、現代に換算して、3カ月で約1億円もの利益を生んだニシン漁だったが、やがて漁獲量は減り続け、資源が枯渇してしまったと思われていた。しかし近年、北海道西部の日本海沿岸で、じわじわと上がっているという。ニシンの絶滅寸前からの復活劇の真相に迫る。
「50年ぶりに小樽の海にニシンが戻ってきた!」
「春にニシンの大群が産卵のために沿岸にやってくることを『群来』と呼びます。10年ほど前に、いまは亡き父が『50年ぶりに、小樽の海にまた群来が戻ってきた!』と大喜びしていたのを覚えています」。こう話すのは、1954年創業の小樽の老舗蕎麦店「籔半」の若女将・河野明香さん。
籔半では、2〜3月と6月の「おたる祝津にしん群来祭り」の際の限定メニューとして、「にしんくきそば」を提供する。温かい蕎麦の上にニシンの甘露煮をのせ、群来の海をイメージしたとろろ芋とワカメ、海苔、数の子をあしらう。ひと口食べるとニシンの身がほろりと崩れ、甘みのあるツユとからむ蕎麦、数の子の食感がアクセントの人気メニューだ。
それにしても、なぜ半世紀も途絶えていたニシンの群来が「復活」したのだろうか?
小樽商科大学グローカル戦略推進センターの高野宏康博士(歴史民俗資料学)は、「北海道のニシンはいくつかの系統に分かれています。かつて日本海側で大量に捕れたのは『北海道サハリン系集団』で、いま増加傾向にあるのは『石狩湾系集団』と考えられています」と解説する。つまりいまと昔ではニシンの系統が違うというわけだが、「復活」の背景には、地元漁業者の努力もあったようだ。
小樽で食事処と民宿「青塚食堂」を営む青塚忍さんは「1980年代はじめに道の指導でニシンの育苗放流がはじまりました。その後も漁業者が漁協を通じて放流の費用を負担し、放流と漁獲管理の両面からニシンの保護をしてきました」と話す。青塚さんの祖父は明治後期に秋田から小樽に移住。小樽祝津の三大親方と呼ばれる茨木家の船頭となった後に、独立した。父も漁師だ。青塚さんは幼い頃の思い出をこう振り返る。
「小学校4年生のとき、ニシンの大群が押し寄せて学校が休みになり、子どもたちもニシン漁の手伝いをしました。現在の小樽には、シャコやホタテ、ウニ、イカなどニシン以外の海産物もたくさん揚がります。でもやっぱり、ニシンは特別な魚なのです」
ニシンをめぐる旅案内
北海道の歴史に欠かせないニシンを訪ねる旅。ぜひ立ち寄りたいスポットを紹介!
蕎麦前も充実!小樽の蕎麦の名店
「藪半」
「一杯楽しめる蕎麦屋」として知られる老舗。趣のある店舗は、ニシン漁で栄えた親方・白鳥家の別邸と石蔵、北前船で財をなした豪商・金澤友次郎氏の別邸の一部を活用。美味しい蕎麦や蕎麦前の地酒はもちろん、経済都市として栄えた小樽の歴史をも感じることができる。
藪半
住所|北海道小樽市稲穂2-19-4
Tel|0134-33-1212
営業時間|11:00〜15:00、17:00〜20:00
定休日|火曜、月一回水曜不定休
漁師の心意気を料理にこめた食堂
「民宿 青塚食堂」
小樽祝津の海に面した、店頭の炭火で焼いた新鮮な魚介類を提供する漁師の食堂。炭火でふっくらと焼いたニシン定食のほか、海の幸をふんだんに使った定食メニューや季節のお造り、ラーメン、丼物など、豊富なメニューが人気で、炭火焼は定食でも単品でお酒のつまみでも楽しめる。民宿の営業も行っているが、食事だけの利用も可能だ。
青塚食堂
住所|北海道小樽市祝津3-210
Tel|0134-22-8034
営業時間|10:00〜20:00
定休日|なし
ニシンで栄えた当時を伝える
「小樽市鰊御殿」
積丹半島の泊村でニシン親方・田中福松氏が建てたニシン漁場建築を移設し復元。明治期の原形をとどめており、華やかな往時が感じられる。道の有形文化財に指定。
小樽市鰊御殿
住所|北海道小樽市祝津3-228
Tel|0134-22-1038
営業時間|9:00〜17:00
定休日|なし(12〜3月は閉館)
鰊御殿に泊まれる!
「銀鱗荘」
小樽市の隣、余市町でニシン漁により栄華を極めた大親方の鰊御殿を移築。石狩湾を見下ろす高台に建ち、小樽市指定歴史的建造物にも指定された温泉宿泊施設だ。
銀鱗荘
住所|北海道小樽市桜1-1
Tel|0134-54-7010
料金|1泊2食付1万6650円〜3万3150円(税・サ込)
小樽の地元の人が通う朝市へ
「鱗友朝市」
早朝から開いている市場。近海で水揚げされた新鮮な魚介類が並ぶ右写真は干物や海産物の加工品などを扱う「大坂水産」。左写真は「朝市食堂」の「小樽丼(2200円)」。
鱗友朝市
住所|北海道小樽市色内3-10-15
Tel|0134-22-0257、朝市食堂0134-24-0668
営業時間|4:00〜14:00、朝市食堂4:00〜14:00、11〜4月5:00〜
定休日|日曜、1月1〜10日
いま小樽はホタテも熱い!
ニシン漁で栄えた小樽だが、1980年代にホタテの養殖に成功し、稚貝を全国に出荷するホタテの一大産地となった。さらに現在、成貝も含めて小樽産ホタテを「おタテ」としてブランド化。市内の飲食店で人気だ。
読了ライン
実はよく見かけるシシャモは本物じゃなかった!?
≫続きを読む
text: Tomoko Honma photo: Yoshihito Ozawa
2022年2月号「美味しい魚の基本」