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「ただいま」と言いたくなる
心安らぐ湖北の宿「旅館 紅鮎」

2020.3.23
<b>「ただいま」と言いたくなる<br class=“none” />心安らぐ湖北の宿「旅館 紅鮎」</b><br>
琵琶湖を望む特別室「花心」の露天風呂。湖面には野鳥がのんびりと浮かぶ様子を眺め、時折聞こえる鳥の声に耳を傾ける。穏やかな空気が流れる琵琶湖の風景を独占しながら温泉を愉しめる

日本ならではの宿泊スタイルである日本旅館こそ、数泊することでその魅力が愉しめる。今回は、琵琶湖の美味と温泉を愉しみながらのんびりしたい人におすすめの宿「紅鮎」での二泊三日滞在の愉しみかたを紹介する。

柏井 壽(かしわい・ひさし)
1952年、京都府生まれ。1976年大阪歯科大学卒業。京都市北区で歯科医院を開業。生粋の京都人であることから京都関連の書籍を、生来の旅好きから旅紀行のエッセイを執筆。著書に『極みの名旅館』(光文社新書)、『鴨川食堂』(小学館)、『京都の定番』(幻冬舎新書)などがある

“何もない”を愉しむ
湖北の宿へ

宿の周りは野鳥の飛来地。遠浅で餌が捕れるため年を通じさまざまな種類の鳥がいるので、見ていて飽きることがない

日本一の湖、琵琶湖は場所によって異なる顔をもっている。湖南は華やぎ、湖西は穏やかだが、湖東から湖北にかけては、どことなく、北欧の湖を思わせる静けさが特徴だ。

森閑とした森には、かつての戦の場があり、山城の跡が残っている。湖岸に目を遣れば、近くの山、遠くの山を水面に映し、いくつもの入り江がゆるやかなカーブを描いている。その水面に多くの水鳥が飛来し、湖に浮かぶ島影とともに、水墨画のような、穏やかな景色を生み出している。

「花心」にはマッサージチェアも用意

そんな湖北にあって、湖岸ぎりぎりに建つ湖畔の宿「紅鮎」を、何度訪れたか数えきれない。連泊といえば真っ先にこの宿が浮かぶ。家族と一緒に、友人と連れ立って、夫婦二人で、と、さまざまな旅の夜を過ごしてきたが、紅鮎で最も多いのは一人泊まりだ。少なくとも2泊、たいていは4泊する。宿泊というより、滞在という言葉がふさわしいのが、僕にとっての紅鮎。

この宿の最大の特徴はと言えば、周りに何もないことである。コンビニもなければ飲食店もない。少し離れた場所に「湖北みずどりステーション」という道の駅があり、そこが唯一の待避所だ。したがって、滞在中のほとんどは宿の中で過ごすことになる。

予定に追われず気の向くままにライブラリーの本を読んだり、宿から少し歩いて水鳥の観察センターに行ってみるのもいい。

多くの場合は仕事持ち込みだ。我が家同然となった客室「花心」で、日がな一日物を書いて過ごす。その合間に何度も湯浴みをし、朝昼晩と三食をいただき、夜はぐっすりと眠る。暮らすように泊まる。それが僕の紅鮎での過ごし方だ。

古く文豪と呼ばれる作家たちは、きっとこんな風だっただろう。宿を出ることなく、自らを幽閉することで、筆を進ませる。おそれながら僕もそのまねごとをしているわけだが、確かに仕事がはかどる。もちろん、そんな仕事など持ち込まず、何も考えることなく、飽かず琵琶湖を眺め、水鳥の動きに目を遊ばせるのが一番なのだが。

部屋にも温泉が付いているが、到着したらまずは大浴場へ。肌にいいメタケイ酸を含んだ鉱泉で、肌当たりの優しい温泉だ。大浴場にはドライサウナ(利用可能時間14:00〜20:00)も

目立たぬ存在ながら、この宿の湯がいい。尾上温泉といっても、よほどの温泉通でなければ、その場所すら浮かばないが、淡い萌黄色をして、ぬるりと肌にまとわる温泉は、すこぶる心地いい湯だ。なので宿にチェックインしたら、すぐに大浴場へと急ぐ。琵琶湖と、比良山系の山並みしか目に入らない、静かな景色を眺めながらの湯浴みは、日常のさまざまをゆるゆると洗い落としてくれる。

陽があるうちは仕事をし、陽が傾きはじめたら、もう一度、今度は部屋付きの露天風呂で湯浴みをし、身支度を整えて食事処へ向かう。この間、ずっと宿の作務衣で通せるのもうれしい。大方の日本旅館は浴衣と相場が決まっているが、着崩れしない作務衣は、行儀の悪い僕には最適なのだ。

湖北地方の郷土料理ボク鍋。ボク鍋とは鰻の鍋のこと。鰻の頭と肝を先に入れて出汁を取り、野菜と鰻の身を投入。鰻と野菜の旨みが凝縮した絶品!

≫「ボク鍋」がお取り寄せできます

食事処にはテーブル席、掘りごたつ式の座敷席などのほかに、琵琶湖を望む、カウンター席があり、一人旅のときは、専らここで夕食をとる。湖魚、川魚、地の野菜、近江牛と、食材には事欠かない土地だから、食のバリエーションは至って豊富だ。2泊はもちろん、3泊、4泊と重ねても、飽きることのない夕食の品々に、いつも感心しきりだ。

見るだに美しい前菜を肴にして、近江の銘酒を重ねる。一合が二合、三合となれば主菜の出番。鰻鍋のときもあれば、牛肉の豆乳しゃぶしゃぶもあり、質量ともに満ち足りて箸を置く。

気分は北欧! 湖畔に特設したテントサウナ

明けて翌朝になれば、鳥の声が目覚まし時計。滞在するうち、鳴声を聞き分けられるようになる。同じ水鳥でも音色が異なる。朝風呂の後、過不足のない朝食を済ませたら、湖岸にしつらえられたテントサウナで、たっぷりと汗を流すのも一興。慣れてくると、そのまま湖に飛び込んで、火照りを取るのだそうだが、そんな勇気はない。

こんな時間を重ねながら、3日、4日と過ごすのも日本旅館の愉しみだ。

紅鮎
住所:滋賀県長浜市湖北町尾上312
Tel:0749-79-0315(9:00〜21:00)
客室数:15室
料金:1泊2食付2万2000円〜、「おまかせプラン」2万5500円〜(税別)
カード:AMEX、Diners、DC、JCB、VISAなど
IN:14:00 OUT:11:00
夕食:食事処 朝食:食事処
アクセス:車/北陸自動車道木之本ICから約10分電車/JR高月駅から送迎バスで10分(要予約)
施設:大浴場、食事処

文=柏井 壽 写真=宮地 工
2020年2月号 特集「世界に愛されるニッポンのホテル&名旅館」

 《2泊3日以上がこれからの日本旅館の愉しみ方》
1|唐津焼の世界を満喫できる宿「洋々閣」
2|那須をめぐりゆるりとリゾート滞在「那須別邸 回 」「山水閣」
3|「ただいま」と言いたくなる心安らぐ湖北の宿「紅鮎」

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