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徳山鮓/とくやまずし
滋賀県余呉町へ日本伝統の発酵食、究極の”鮒鮓”を訪ねて。【前編】

2021.6.26
徳山鮓/とくやまずし<br><small> 滋賀県余呉町へ日本伝統の発酵食、究極の”鮒鮓”を訪ねて。【前編】</small>

「徳山鮓」は、琵琶湖の北端の余呉湖の湖畔、豊臣秀吉らと柴田勝家らの合戦で有名な賤ヶ岳の麓に位置し、周囲は山々と田園風景に囲まれている。日本の原風景を愉しみながら、発酵料理、自然の恵みに満ちあふれた食事を味わえる和風オーベルジュ。今回は、発酵の世界へと導かれた料理人・徳山浩明さんが生み出す“究極の鮒鮓”の魅力を前後編でご紹介。

スペシャリテは鮒鮓。
発酵こそ、美食の王道である

コース中盤で供される、徳山鮓を代表するひと皿。腹子をもつ雌のニゴロブナを約1年漬け込んだ「鮒鮓」は、蜂蜜と実山椒を合わせたソースといただく

「発酵は、すべての和食の名脇役なんです」

語るのは、徳山鮓の主人・徳山浩明さん。再認識したのは、京都の料亭で料理人として腕を振るっていた2000年代初頭。きっかけは、日本発酵機構余呉研究所所長を務めていた発酵研究の第一人者、小泉武夫さんとの出会いだった。「発酵の時代は必ず来る」。小泉さんはそう口にしていた。

「お出汁も、醤油も、味噌も和食はすべて発酵に結び付きます。当時の私は、料理をつくること、食材を見極めることその他いろいろと勉強してきたけど、発酵の奥深さをまるで知りませんでした」

小泉さんの研究所が余呉にあったのも、運命だった。

「滋賀には『熟鮓』という素晴らしい発酵食があるのに、当時それを出す店はありませんでした。小泉先生との交流の中で、じゃあ熟鮓をメインにした料理屋をやってみよう、と。先生との出会いなくして徳山鮓はあり得ません」。

熟鮓とは、魚を塩と米飯で乳酸発酵させた保存食。その代表例が鮒鮓だ。漁獲から完成まで最短8カ月、樽によっては1年以上かかるものもある。琵琶湖を有する滋賀県では、古くから鮒鮓を食す文化があった。浩明さんは発酵学の知見をもとに鮒鮓を磨き上げ、スペシャリテとして供している。

湖畔沿い、水田を脇に道をゆき、目的地へ。日本家屋の入り口に「徳山鮓」の暖簾がなびく

美食宿のひみつは発酵だけにとどまらない。美食家たちの目当ては、浩明さんが自ら探し集める、極上の食材の数々にもある。

「店を出すにあたって、“同じ地の水の中でできたものからメニューを考える”と決めました。店から一定の圏内で、その時々に採れる食材を探す。季節に応じて何ができるかを考えながら料理を構成する。どうしてもないときは出さない。それに代わるものをつくる。型はなく、いわば徳山流の料理です」。

その全貌を体感したとき、誰もが徳山鮓の虜となるのだ――。

主人自ら食材集めに奔走する

余呉の漁師の家に生まれた、徳永浩明さん。京都の料亭で料理を学ぶ中、発酵の世界と出合いが転機となり、2004年、故郷で宿泊施設付き料理店「徳山鮓」を妻・純子さんと開業。自ら湖に船を出し、山に入り集めた食材を供する。

徳山鮓、美食のすべて

鮒鮓を中心に据えた約10皿が基本コース。季節、時期により品数・食材が変動する。奇跡のような晩餐のすべて。

鯖の熟鮓(なれずし)

鯖の熟鮓が抱くのはチーズ。フレッシュトマト、トマトと飯を混ぜた2種のソースといただく。お好みで実山椒をつけるもよし。酸味のある熟鮓が、驚くほどまろやかな味わいに変化する。

すっぽん蒸し

すっぽんと卵を合わせ、あんかけに。ショウガの風味をほのかに利かせて。ふんわりとろとろ、滋味深い味わい。胸が高鳴る一品目。

鯉のお造り

ワサビ醤油、青シソでさっぱりといただく。鯉に連想されがちな臭みはなく、味わうほどにやさしい旨みが広がる。稀少な鯉の子まぶしも。

プレート

稚アユの酢の物を中心に、熟成ジャガイモ、イタドリなどの山菜、琵琶湖産のモロコ、熊・猪・鹿のテリーヌなど、余呉の美味を彩った。

山菜の天ぷら

コゴミ、イワタバコ、ダイモンジソウ、モミジガサを天ぷらに。塩が薄くかかっており、このままほお張る。サクサクの食感がたまらない。

焼きすっぽん

グリルした骨付き肉に、すっぽんの肝のソースを添えて。食感は弾力に富み、味わいは濃厚。ぜひ手に持って、かぶりついていただきたい。

主人自ら漁に出て捕獲した、余呉湖の天然鰻。それを丸ごと一尾焼き上げた至福のひと皿。頭まで、美味。実山椒がほのかに香る。

熊鍋

純白の脂、その美しさたるや。昆布と醤油でとった上品な出汁に、たっぷりの花山椒を浮かべて。低温で溶ける繊細な味わいをご賞味あれ。

熊・出汁・細麺

食事の締めは細打ちうどん。熊鍋の出汁に独自の発酵スープを合わせた麺つゆは、まさに極上の旨み。ここでも花山椒がうれしい。

デザート

クランベリーソースを添えたアイスは、飯を使用したもの。クリームチーズのようなコクと旨みが特長だ。2012年には製法特許も取得。

美味しさのひみつは
発酵にかかせない「飯」

魚を塩と米飯で乳酸発酵させた食品である、熟鮓。その工程で余った「飯(いい)」を、徳山鮓ではさまざまな料理にアレンジして用いている。発酵の恵みが美食の数々を生むのだ。

オリジナルも有り
おともは地酒「七本槍」

料理とのペアリングには「七本鎗」の日本酒、3種を用意。写真の「紫霞の湖(しがのうみ)」は、発酵研究の第一人者・小泉武夫さんが開発した酵母を使った、オリジナル銘柄。

 

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text: Discover Japan photo: Sadaho Naito
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