奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」で
鮮度抜群の温泉にとろける【前編】
温泉ビューティ研究家・石井宏子さん厳選!
温泉は生きている地球そのものだ。マグマのエネルギーに温められ、その土地の栄養を溶け込ませて全力で私たちを癒してくれる。唯一無二のありがたい生命の源だ。
飛騨山脈は日本列島を東西に分画するホットスポット。高温で湯量豊富な温泉が湧いている奥飛騨温泉郷はスゴイ温泉の宝庫だ。温泉ビューティ研究科の石井宏子さんが、湯力を存分に満喫できると評判の福地温泉「元湯 孫九郎」を訪れた。
飛騨山脈は日本列島の東西を分画する火山帯であり日本海と太平洋の分水嶺エリアでもある。地球のエネルギーが渦巻く奥飛騨温泉郷には、全国屈指の高温で湯量豊富な温泉が湧いている。福地温泉では平安時代から温泉が利用されていたが、温泉地となってからは半世紀ほどだ。元湯 孫九郎は、養蚕や農業を営んでいた先代が、自宅の古民家を活用して1968年にはじめた温泉宿だ。2代目の女将はこの家で生まれ育ち、すてきな伴侶を得て二人三脚で宿を進化させた。大旦那と大女将も裏方として活躍し、家族のハーモニーがもたらす温かさに心安らぐ。
宿が独自に試行錯誤した源泉利用法の変革により、源泉100%で温泉の鮮度を損なうことなくすべての湯船へ届けられることになり、宿の湯力が劇的に向上した。同時に、温泉熱交換の恩恵で全館温泉熱暖房となり、エコエネルギーと滞在の快適性をもたらした。主力の自家源泉「帝の湯4号泉」は飲泉ができ料理にも活用。身体の内側からも温泉の力で元気をもらえる。
飛騨の古民家を活用した旅情あふれる湯宿から、その趣は残しつつ、過ごしやすさを追求して改装を重ね、飛騨家具を取り入れたモダンなパブリックスペースや客室もできた。温泉を満喫したら、のんびり音浴を。飛騨家具の椅子に座ってビンテージスピーカーで心地よい音楽に浸れる「音泉リビングParagon」は、古民家の入り口からは想像もつかない別世界だ。ロビーにある囲炉裏の奥には、飛騨家具を置いた休憩室や独立した喫煙室があり、お気に入りの椅子を見つけて過ごすお客も多い。リニューアルされた客室は、壁は珪藻土仕上げ、飛騨家具が置かれ、快適な寝具がある。訪れるたびに進化しているので、本当に目が離せない宿だ。
宿に到着したら、源泉昆布茶で一服し、作務衣に着替えて露天風呂へ向かう。脱衣室に隣接する内湯で、まず身体をゆるめる。ほどよい温度で深めの湯船、しっかり手足を伸ばしてリラックス。ふわっと身体が軽くなったら露天の広い岩風呂へ。やわらかな緑色のにごり湯にテンションが上がる。旅情たっぷり、これぞ求めていた温泉の世界だ。気分転換に屋根付きの露天風呂へと移動。おや、ここの湯は透明なオーロラ色だ。同じ源泉なのに不思議だなあと入ってみると、なんだか感触も違うように感じる。湯船の広さによって注がれてからの熟成度が微妙に違うからかもしれない。泉質は単純温泉なのに個性的、まったく単純ではないのが温泉のおもしろさだ。音泉リビングで休息したら、別の自家源泉の内風呂「大湯」へ。泉質はナトリウム炭酸水素塩泉、肌の古い角質を落としてなめらかに整える美肌の湯だ。無色透明だが大地のミネラルたっぷり、とろりとなめらかな湯にぎゅっと抱かれているような重厚感だ。ここの温泉分析書はすごい。通常は源泉湧出時で分析したものが多いが、熱交換後の湯口でわざわざ分析して掲示しているのだ。二酸化炭素ガスが308.3㎎も残っているのは鮮度を損なわずに熱交換されて湯口へ届いている納得の数値だ。
【内湯】
泉質|ナトリウム炭酸水素塩泉
泉温|81.8度℃
湯の色|無色透明
加温|なし
加水|独自の熱交換システムで加水なしで適温に調整
かけ流し|〇
【露天風呂】
泉質|単純温泉
泉温|帝の湯2号泉67.2℃、帝の湯5号泉36℃
※掛け合わせて適温に調整
湯の色|緑褐色にごり湯(季節によりにごらない場合もあり)
加温|なし
加水|なし
かけ流し|〇
1|岐阜県 奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」序章 前編 後編
2|青森県 蔦温泉「蔦温泉旅館」
3|群馬県 草津温泉「奈良屋」
4|北海道 然別峡温泉「かんの温泉」
5|鹿児島県 妙見温泉「妙見石原荘」
6|長野県 野沢温泉「村のホテル 住吉屋」
7|北海道 豊富温泉「川島旅館」
8|新潟県 栃尾又温泉「自在館」
9|徳島県 祖谷温泉「和の宿 ホテル祖谷温泉」
10|静岡県 桜田温泉「山芳園」
11|群馬県 法師温泉「法師温泉 長寿館」
text: Hiroko Ishii photo: Kenta Yoshizawa
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