奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」で
鮮度抜群の温泉にとろける【序章】
温泉ビューティ研究家・石井宏子さん厳選!
温泉は生きている地球そのものだ。マグマのエネルギーに温められ、その土地の栄養を溶け込ませて全力で私たちを癒してくれる。唯一無二のありがたい生命の源だ。
飛騨山脈は日本列島を東西に分画するホットスポット。高温で湯量豊富な温泉が湧いている奥飛騨温泉郷はスゴイ温泉の宝庫だ。温泉ビューティ研究科の石井宏子さんが、湯力を存分に満喫できると評判の福地温泉「元湯 孫九郎」を訪れた。
石井宏子さん
温泉と美味しいものを求めて年間200日国内外の温泉を旅する。「温泉は地球がくれた天然のビューティツール」と確信し、ひたすら湯に浸かっている。温泉・自然環境・食事など、旅で心も身体もキレイになる温泉ビューティを研究する
飲泉もできる美肌のとろ湯と
緑のにごり湯が満ちる露天風呂
温泉は生きている。地球の生命力をぎゅっと閉じ込めて湧き出し、地上へ出た瞬間に花開く。湯船へと注がれて人々を癒し、空気に触れて熟成し、やがて酸化していく。温泉力をしっかり感じたいなら、湯船へ注がれている源泉の湯量と鮮度がポイント。何も手を加えていない生まれたての温泉がもつ還元パワーは、肌、身体、心まで染み渡り、全身の細胞一つひとつを丁寧に癒し、磨き上げてくれるのだ。鮮度がよい湯はどっしりとした重量感がある。ざぶんと浸かると、ぎゅっと湯が寄り添ってきて、ぐいぐいと身体に染み込んでくる力を感じる。「くうぅうう。キク~」と誰しもが言いたくなる至福の瞬間だ。「元湯 孫九郎」の内風呂「大湯」は、まさに鮮度のいい温泉の典型である。いかにもなめらかな湯面の照りを感じ取っていただけるだろうか。湯船を満たす源泉はずっしりとした大きな塊のようになって待ち受ける。ざぶーんと、肩まで湯の中に沈み込み、じんじんと染み渡る湯の力に身を任せれば、全身の細胞が音を立てて芽吹いていくような感じがする。ああ、やはり、ここまで旅してきてよかった。今日も素晴らしく湧いてくれていてありがとう。と、地球の恵みに感謝してしまうのだ。
元湯 孫九郎には、温泉にとことん気持ちよく浸かり、温泉がもつ力を最大限に取り込むための仕掛けが随所にある。これは温泉が大好きな人でないと思い至らないことだと感服する。総檜の内風呂「大湯」は、奥がぬる湯で深さも十分にあり居眠りしたくなる心地よさ。大きい湯船はやや熱めの湯で、熱交換で適温にした源泉が大量に注がれ新鮮さが際立つ。湯温の異なるふたつの湯船を行き来するのがあまりにも気持ちよくて無限ループに陥りそうだ。飲泉許可を取得した源泉は飲むこともでき、内臓の活性化になる。浴室中央に大きな丸太のベンチがあるのもいい。外風呂「蒼の湯」は、ダイナミックな露天の岩風呂に、このエリアでは珍しい緑色のにごり湯がたたえられている。異なる源泉をブレンドすることで湯の鮮度を損なうことなく温度を調整しているのだが、源泉は透明なのに合わせると微量の硫黄分と鉄分が反応して緑褐色のにごり湯へと変化していくそうだ。寒い雪の日も、日差しが暑い日も、いつでも気持ちよく露天風呂を楽しめる工夫がある。屋根付きで深めの露天はどんな天気でもありがたいし、脱衣小屋に隣接する内風呂はぬるめでウォーミングアップに最適。旅情も快適さも考えられた設計だ。
1|岐阜県 奥飛騨の名湯宿「元湯 孫九郎」序章 前編 後編
2|青森県 蔦温泉「蔦温泉旅館」
3|群馬県 草津温泉「奈良屋」
4|北海道 然別峡温泉「かんの温泉」
5|鹿児島県 妙見温泉「妙見石原荘」
6|長野県 野沢温泉「村のホテル 住吉屋」
7|北海道 豊富温泉「川島旅館」
8|新潟県 栃尾又温泉「自在館」
9|徳島県 祖谷温泉「和の宿 ホテル祖谷温泉」
10|静岡県 桜田温泉「山芳園」
11|群馬県 法師温泉「法師温泉 長寿館」
text: Hiroko Ishii photo: Kenta Yoshizawa
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