「坐忘林」ニセコの原生林に佇む世界が憧れる日本旅館
北海道で開業して3年目にもかかわらず、すでに日本を代表する名旅館として知られるニセコの「坐忘林(ざぼうりん)」。国内のみならず世界各国からゲストが集うというその宿の魅力に迫りました。
何も考えずに過ごしたい原生林の隠れ家
坐忘(ZABO)とは仏教用語で、「静座して現前の世界を忘れ雑念を除くこと」とある。その“坐忘”の名を宿す宿「坐忘林」は“ニセコ積丹小樽海岸国定公園”内に位置し、雄壮な羊蹄山や、ニセコアンヌプリなど、自然が残された原生林に隠れ家のように佇んでいる。
外観はスタイリッシュな洋風建築だが、一歩中に入れば随所に和の伝統が踏襲され、かつての日本家屋のような陰と光の微妙なバランスが“陰翳礼讃”のごとく表現された、モダンでシンプルな旅館の未来形のようである。
宿を取り巻く環境は、カンバ類、ミズナラ、カエデなどの紅葉樹木やエゾマツ類、山肌に群生するシマザサなど、生物多様性保全地域として貴重な原生林が残されている。敷地内には天然温泉が湧き、各客室には源泉かけ流しの贅沢な温泉風呂もつくられた。
宿に滞在中は、何をするでもなく、心身を休ませる幸せな時の流れに任せてしまうといい。これから訪れるであろう多くの人々が、この自然の中で十分に癒され、北の大地の季節の恵みを堪能し、心穏やかに過ごしてほしいと「坐忘林」は願っている。
特別な場所に生まれた特別な宿は、真摯なスタッフとともに独自の感性で走り出した。
独自の感性で構築された空間と温かいもてなし
「坐忘林」を訪れたのは、残雪がチラホラと残る春の終わり。車は圧倒的なスケールで迫る羊蹄山やニセコアンヌプリを横目に、新芽が吹きはじめた白樺林の合間を縫って山へと入り、人里離れた山中に佇む宿に到着。山の中とはいえ住所は倶知安町だ。坐忘林は原生林の一画にひっそりと建っていた。
宿の敷地面積は4万㎡、客室数が15室のみという贅沢な宿だ。建物の外観は、まるでスモールラグジュアリーホテルのようにスタイリッシュ。見た目はホテルのようだが、ここは和の心でもてなす旅館であった。
館内には敷地内に湧き出る天然温泉“坐忘林温泉”が引かれ、客室の内風呂、露天風呂も、豊富な温泉を利用した源泉かけ流しだ。泉質はメタケイ酸やミネラル分の多い良質泉。
穏やかな森から響き渡る鳥のさえずりを聞きながら、ゆったりと湯船に浸かれば、日常の疲れはどこかに消えてしまう。
客室は全室が70〜86㎡のスイートタイプだ。こだわりは客室の呼び名にもあり、美雪、外雪輪など情緒的な“雪紋の名”がつけられている。雪の結晶がこれほど多いとは知らなかった。
部屋数は少ないが、贅を尽くしたパブリックエリアが十分にデザインされている。食事処「坐忘林」は個室づくりで、プライバシーに配慮され、ライブラリーは静かに過ごせる空間を演出。暖炉のある高い天井のリビングルーム、スタイリッシュなバーには湧水を利用したワインセラーも設置された。
さらにバーとリビングルームに接する坪庭付きの茶室など、長逗留にも十分に対応できる空間がある。特に建物の中心に位置するバーは宿のハイライト。全長11mの1本木を利用したバーカウンターが快適だ。好天の日に山を観るなら、このバーカウンター席が特等席。
見逃せないのは、好天に恵まれた夕暮れ時である。刻々と色を変える羊蹄山の切ないほどに美しい姿に、誰もが感動で言葉を失ってしまう。
独自の感性で理想を求め贅沢な空間となった宿には、マニュアルではないスタッフの温かい心遣いもあふれている。若くて気骨のある料理長は“キタカイセキ”なる独自の会席料理を開発。
また、宿のスタッフの一人には、仕事を勇退し諸事をこなす男性がいる。愛称は“山菜ハンター”。春から初夏にかけた山は旬の恵みの宝庫だ。彼は慣れた山に入り貴重な山菜を採集。旬の朝摘み山菜として、料理長は新鮮な山の幸をゲストのテーブルに提供するため、今日も腕を振るう。
手づくり感にあふれた温かな宿を中心に、料理に限らず、美しい自然に囲まれた北の大地で新たな旅物語も生まれそうな予感がする。
坐忘林
住所|北海道虻田郡倶知安町花園76-4
Tel|0136-23-0003
客室数|15室
料金|1室(2名利用1名料金、2食付)7万5000円〜(税・サ込)
カード|AMEX、DC、DINERS、JCB、MASTER、UC、VISAほか
チェックイン|14:00
チェックアウト|11:00
夕食|和食(食事処)
朝食|和食または洋食(食事処)
アクセス|車/新千歳空港から約2時間 電車/JR倶知安駅から無料シャトルバスで約10分(要予約)
施設|食事処(個室)、シガーラウンジ、バー、ライブラリー、ギャラリーショップ
インターネット|無線LAN
http://zaborin.com
text=Kyoko Sekine photo=Atsushi Yamahira,Mizuaki Wakahara
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