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青木良太さんの陶器
いま知っておきたい逸品

2020.7.17
<b>青木良太さんの陶器<br>いま知っておきたい逸品</b>
青乳瓷BOWL/スカイミルク(釉薬)
陶芸家としてデビューした初期の個展からつくり続けているうつわで原点の1つ。同じかたちでさまざまな色合いを表現してきた。「実用性がないうつわです」というアートピース。縁からはじまる黒いタレは、まさに焼いてみないとわからない焼物のおもしろさが集約されている

手仕事で生み出される本当に良いモノを紹介していく《いま知っておきたい逸品》。今回は多彩な釉薬を扱い、陶芸の新世界を切り拓いていく陶芸家・青木良太さんの陶器を紹介します。
※記事の最後にあるスペシャルコンテンツも合わせてお楽しみください。

青木良太(あおき・りょうた)
1978年、富山県生まれ。金、銀、プラチナさらにはスワロフスキーなど、従来の陶芸では使われない素材を積極的に取り入れ、未知の作品を想像し続ける陶芸家。国内外の個展のほか、陶芸による現代アートフェアにも参加。若い陶芸家を支える活動も行っている

この世界になかったものを見たいだけ

工房に流れるのは大音量のヒップホップ。背景の日の丸は、若い頃は単に陶芸の日本代表になりたい思いから掲げたが、現在は世界の陶芸史に残る意欲を示しているという

「焼物は地球上にある鉱物を原料にした釉薬を塗って焼くんですけど、それを1230℃の熱に晒すとまったく別の鉱物になります。つまりこの世になかったものになる。私はそれが見たいだけ」。

全身黒ずくめ。ただし靴のみゴールド。同じ姿で毎日通う、元は馬小屋だった工房では大音量のヒップホップを、静かな気分に浸りたいときはドビュッシーを流しながら作品づくりに没頭する姿は、陶芸家イメージとかけ離れているというより、醸し出す雰囲気自体が奇異だ。

工房内には電気窯が3機。薪をくべる炎の窯はギャラリーの脇に備えている

その上で青木良太という人は、よく耳にする割には実現した例を見ることのない希望を、一切の力みもなく口にするのである。強いて言うなら、朝が来れば夜が訪れるように。

青木さんがつくる作品は、同業者なら技法に絶句するだろうが、陶芸に疎い素人であってもその美しさや力強さに心を動かされる。それはつまり言葉通りの世界観を我々に提示している証しと言っていいだろう。しかし、実績や自信を背景に大仰な発言をしているわけではない。そう感じられたのは、陶芸で生きる理由を聞いたからだ。

「この世になかったものをつくるのは、私の宿題だから」。

あらゆる可能性を探りたい

釉薬試験から得た10万超のテストピース

陶芸家・青木良太の特徴としてよく語られるのは、年間1万5000種に及ぶ釉薬の研究だ。「ゆうやく」または「うわぐすり」と読む釉薬は、鉱物をはじめとする複数の素材を調合してつくられる。それを粘土から形成されたうつわの表面に掛け、窯で焼くことで素焼きにはない耐水性や耐久性が得られる。

ただし釉薬の効果は焼く工程で起こる化学変化が頼りなので、燃焼温度や焼く時間または冷ます時間で仕上がりが異なってくる。あるいはそれ以上に、釉薬の微妙な調合結果が陶器を陶芸と呼ぶ決め手になる。

ゆえに陶芸とは「焼いてみるまでわからない」という不確実で非合理な世界。そこに踏み込んだ上で、この世になかったものを求めるなら、眼前に立ちはだかるのは想像を絶する苦難に違いない。

「まずは仕上がりを予想して、1種の釉薬に対して10パターンの調合を試します。その中から3番と4番あたりにアタリがついたら、さらにその間でまた10パターンを試す。それでも焼いてみないと最後までわかりません。その果てしない試行錯誤が楽しい」。

以上は基本的なパターン。目指した仕上がりから派生して確立できた釉薬もあれば、失敗から生まれたレシピも数え切れないほどあるという。たとえばヒップホップ用語で「煌びやか」を意味するブリンブリンシリーズは前者の例。黒い釉薬のテストを続けている最中、部分的な金色の発現が気になり、18金を使わずともゴールドが表現できる陶器をつくりたくなったそうだ。

うつわ、皿、テーブルウェアにとどまらず、アートの創造を行うのも「陶芸でできることは」という制作意欲に基づいたもの。作品はギャラリーで展示中

陶芸は一方でかたちにも挑戦を求める。かつて誰も手を出さなかった(出せなかった)陶製のワイングラスは、釉薬の研究だけにとどまらない青木さんのデザインスキルを代表する作品だ。

「陶芸家というのは、自分だけのスタイルを発見すると、それを作風としてつくり続けます。または何百年も前の銘品を現代風にアレンジしたりもする。僕はそれ、カラオケと同じだと思うんです。なんていうと嫌われますけど」。そこで黒装束は小さく笑った。

「私の作風がひとつにとどまらないのは陶芸の可能性を探りたいから。陶芸でできることは全部試したいんです」。

陶芸に生かされる宿命

Luxury Bowl/釉薬非公開
W2×H4㎜の金と銀の箔を1枚ずつ貼り付け、800℃で焼き上げたうつわ。コンセプトは日本美術の継承。「手間をかけることを厭わない精神こそ日本の美の原点です」。ただし薄い生地をろくろで挽くところから困難を極めるらしく、できればつくりたくないそうだ

青木さんが陶芸と出合ったのは、将来の不安が差し迫った大学卒業の半年前だった。独り立ちするために服やアクセサリーの製造販売を試みたがしっくりこなかった頃、「町の爺ちゃんや婆ちゃんが通う」陶芸教室に顔を出してみた。ものづくりの感性を磨くきっかけになればいいという理由で。

「これだ! って思ったんです。その感覚を言葉で表すのは難しい」。

そこで青木さんは多治見市の陶芸の職業訓練校に通うことを決意。しかし半年の陶芸経験に自信をもって入所した初日、衝撃的な事実におののいた。

色、つや、感触。そして形状に至るまで、一人の人間が生み出したとは思えない多様な器が、陶芸の可能性を追求する青木良太の足跡になっている

「周囲は美大・芸大出身者ばかり。そこですでに4年の差がついていた。これは死ぬ気の努力をしないと追いつけないと思ったら、陶芸と心中する覚悟ができました」。

昼休みは食事を5分で終えて釉薬の研究。放課後は校外の工房でろくろを回し、コンビニの深夜バイト中も「田舎でお客も少なかったから」ひたすら釉薬の本を繰っていた。その結果、2年目には釉薬の講師しか知らない知識を身につけることができた。まさに全身全霊で陶芸に打ち込んだのは、卒業と同時に陶芸だけで食べていくと決めていたからだ。

「売るためには個展を開かねばなりませんが、陶芸界では40代からという暗黙のルールがあるので、あるギャラリーに売り込んだときは一人の担当者に渋られました。けれどもう一人の方は若くても作品自体がよければと了承してくれて。おかげで最初の個展は完売で終えることができました」。

深海瓷ボナペティ9プレート/深海釉(釉薬)
キラキラ輝く粒が真珠のように見えたことから深海と命名。あるいは星が瞬く蒼空と見ることもできる、青の濃淡が美しい皿。このグラデーションは極めて神経質な釉薬の調合から生まれたもので、色合いのコントロールは難しく、やはり実際に焼いてみないと結果がつかめないそうだ

とがるような才能を放った若者は、「一人でやるべき」とあえて弟子入りを断った憧れの陶芸家や、スイス留学中の美術大学の講師など、多くの先達に恵まれた。そんな多くの恩に報いるようにして、山奥の工房でひたすら未知の焼物づくりに励んで約20年。それでも青木さんは陶芸を「大変だからこそ楽しい遊びのようなもの」と言う。やはり穏やかな風が吹くように。

「私が目指すのは21世紀の陶芸伝統。あの時代にすべて青木がやり尽くしたと、2000年後の世界で言われたい。だからこの世になかったものをつくらなきゃいけない。私の人生、陶芸に生かされる宿命だと思うから」。

RYOTA AOKI GALLERY
住所|岐阜県土岐市妻木2190-3
Tel|090-9945-1393
開廊時間|12:00〜18:00
開廊日|土・日曜、祝日
www.ryotaaoki.com
text : Tonao Tamura photo : Norihito Suzuki
2019年12月号 特集「人生を変えるモノ選び。」

≫『with BMW × Discover Japan』
feat.Ryota Aoki
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青木良太さんの作品が
≫Discover Japan lab.で購入できます
※売切れの場合もございます

≫多彩な釉薬が織りなす新しい陶器たち「青木良太」さんの記事はこちら

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