「八ツ三館」飛騨古川の国登録有形文化財の宿で、鮎尽くしを愉しむ
飛騨古川にある160年以上の歴史がある宿「八ツ三館」。夏の若鮎もいいが、ぜひ秋の落ち鮎もいただきたい。ゆらめく和ろうそくの灯りの中、まるで時をさかのぼったかのような感覚になるのを愉しみたい。
その宿は飛騨古川にある。そう聞いただけで、その宿のあり様が目に浮かび、泊まってみたくなる。飛騨古川。日本人なら誰もが郷愁を抱くに違いない街。故郷という言葉がこれほど似合う街もほかにない。
—兎追いしかの山 小鮒釣りしかの川—
そう歌われるように、故郷に魚釣りができる川は欠かせない。川魚といって、食いしん坊の頭に浮かぶのは間違いなく鮎だ。川を見れば鮎が浮かび、鮎を見れば川を想う。
飛騨古川の街中を流れる宮川の流れを見て、間違いなく旨い鮎がいるに違いないと思った。加えてその飛騨古川には、百数十年の歴史を数える老舗宿があり、鮎料理を得意としていると聞いて、鮎好きが見逃すはずがない。川の違いが鮎の味にも変化をもたらす。巷間そういわれるが、郷愁を抱かせる飛騨古川の川鮎はどんな味わいなのだろう。
川沿いに建つ古式ゆかしい宿「八ツ三館」の玄関をくぐった。ちょっと風変わりな宿の名は、越中八尾から飛騨の地に移り住んだ創業者の名を由来としている。
そういえば、街の中を清らかな水が流れ、さらさらと水音を立てているところなど、八尾と古川はよく似た街並みをつくっている。そんな思いを馳せながら、最初に通された応接室に漂う空気は、鹿鳴館のような風情。昭和10年建築だといい、往時の贅を色濃くにじませる。
21ある客室は、すべて趣が異なり、明治38年に再建され、国登録有形文化財にも指定されている、伝統建築の「招月楼」をはじめ、昭和初期の数寄屋を改築し、モダンなデザインに生まれ変わった、半露天風呂付きの「光月楼 池月」まで、よく手入れの行き届いた部屋が揃う。
何より温泉があるのもうれしい。野趣あふれる露天風呂で、旅の疲れを癒やした後は、待ちかねた夕食だ。食事は庭に面した食事処で供される。和ろうそくの明かりに導かれ、個室に入ると、庭の篝火が迎えてくれる。幽玄の世界での夕餉。
山里ならではの鄙びた料理と、洗練の料理が混在し、食べる愉しみを存分に与えてくれる。とりわけ、この飛騨古川で育てられたという、飛騨牛の旨さは群を抜いている。適度に脂がのり、かむほどに旨みが口の中に染みわたる。
しかし本命は鮎。お造りはな香りを放ち、塩焼きは天然鮎ならではの旨みをしっかりたたえる。糀干しから〆の鮎雑炊まで、飛騨の鮎を味わい尽くすこともできる。飛騨牛と天然鮎。この取り合わせは、飛騨古川の名宿ならではの贅沢だ。
八ツ三館
住所|岐阜県飛騨市古川町向町1-8-27
Tel|0577-73-2121
Fa|0577-73-3910
E-mail|info@823kan.com
客室数|21室
料金|1泊2食付2万520円〜(税込)
カード|MASTER、VISA
IN|15:00
OUT|10:00
夕食|和食(個室食事処)※鮎懐石は要予約
朝食|和食(個室食事処)
温泉|桃源郷温泉(弱アルカリ性単純泉/源泉掛け流し/加温あり/加水あり/筋肉痛、神経痛、疲労回復、冷え性、慢性消化器病、関節痛、五十肩など)
風呂|大浴場男女別各1(15:00〜23:00、温泉)、露天風呂1(温泉)、貸切風呂1(有料、温泉)、部屋風呂全室
アクセス|車/東海北陸自動車道飛騨清見ICから約20分 電車/JR高山本線飛騨古川駅から徒歩約8分
館内施設|ロビー、ミニライブラリー
Wi-Fi|あり
www.823kan.com
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text : Hisashi Kashiwai photo : Kou Miyaji
2017年「味わいの名宿」