ART

東京・新木場「木材会館」
木の強さ、美しさ、優しさを体現した、木材需要拡大のホームグラウンド

2021.8.23
<small>東京・新木場「木材会館」</small><br>木の強さ、美しさ、優しさを体現した、木材需要拡大のホームグラウンド

東京・新木場駅を下りて駅前広場を見渡すと、桜の木々の向こうに顔を覗かせる、木材とコンクリートと鉄を組み合わせた幾何学的な建築物。ここは木とともに生きてきた日本の風土や、未来の木材の在り方を考える場所。多彩な質感の木やユニークな設計、絶景も楽しめる建物、木材会館に迫ります。

サステナブルな天然資源
「古くて新しい素材=木材」

東京都・木場エリアと材木問屋の関係が始まったのは江戸時代。江戸城修築はもとより、爆発的に人口が増大する江戸の暮らしの礎となる、住宅建設による旺盛な木材需要を支えてきた。度重なる大火事や関東大震災、戦災からの復興も、木場の材木問屋が大きな役割を担っていた。

そして現代、拠点を新木場に移し、いまもなお首都圏の木材需要の大部分をまかなっている。地球温暖化や環境破壊が問題視される中、循環しうる天然資源として再注目されている木材。そんな「古くて新しい素材=木材」扱う都内の木材問屋の組織が、本施設を運営する東京木材問屋協同組合だ。

そんな東京木材問屋協同組合によって、木材需要拡大を目指す新たな拠点として2009(平成21)年に建てられたのが、地上7階地下1階からなる「木材会館」だ。建物の内装と外装、構造には檜を中心に1000㎥以上の国産木材が使用されているが、すべてはどこの材木屋でも手に入る普通の木材(規格材)。それらを使って伝統的な工法に最新の技術を組み合わせて作られた。設計は日建設計、施工は大成建設が担当し、従来利用が避けられていた中高層ビルへの木材利用について、適法に無理なく使用するため、両社の知識と技術を駆使し、材木屋の経験と知恵を加味して完成した。

木材会館のもうひとつの大きな役割は、地球環境への貢献だ。木材は大気中の二酸化炭素を吸収して生育し、固定する。1000㎥の木材は、建物が存続する限り炭素を固定し続ける。「森を育てたいから木を使う」という想いを体現した建物が木材会館というわけだ。

"燃えない木材"を駆使し
火災時にも安全な構造を実現

「木材は燃える」という既成概念から、永く建物の外部に木材を使用することは避けられてきた。しかしながら、重要なのは材料が可燃かどうかではなく、火災時に建物が安全かどうかということ。

木材会館は、耐火性能の高い鉄骨鉄筋コンクリート造で構造躯体を形成することにより、万一火災が発生し、外壁が炎にさらされても安全な構造となっている。また外壁が炎上しても、上階へと燃え広がることがないよう、階の途中に不燃処理を施した燃えない木材をファイアーストップ材として設置することで、火災拡大を防ぐ構造を実現した。

木材会館内部をご案内!

木材を使った安らぎの空間づくりを追求して作られた木材会館。外観のみならず建物内のあらゆる空間からも、木材を使った最新の建築技術を知ることができる。木の魅力を存分に生かしたフロアの一部をご紹介!

1階 多目的ギャラリー

大きな檜舞台が特徴的な多目的ギャラリー。檜舞台から西側に目を向けると、檜で組んだ壁と天井が作り出す爽やかなテラスの向こうに、広場を行き交う人達の姿が目に映る。東側のユニークな壁面は、なんと檜の角材をランダムに組み合わせたデザインで、一部隠し扉も! 入口には1975(昭和50)年に竣工した深川の旧木材会館の石碑が移設されている。

7階 檜ホール

古来の日本建物において、 木材は構造体であると同時に化粧材でもあった。檜ホールの屋根を支える大梁は、存在感のある檜の12cm角で組まれている。コンピューター制御のNC加工で、伝統的な追掛大栓継手を施し、シラカシの木栓をはめ込んで繋がれ組み上げている。木と木を組み合わせ、木と木のめりこみによって互いに力を合わせて強度を発揮。補助的にボルトで締めあげることで一体化された巨大な形状の大梁は、様々な実大強度実験をクリアし、安全性を実証した。木梁と木梁の間に設けられた天窓からは光が降り注ぎ、ホールと木梁を柔らかく照らす。

7階 テラス・ロビー

檜ホール西側のガラス戸を開けると、広々としたテラスが出現。スカイツリーや、空気の澄んだ日には都心の高層ビルの向こうに、遠く富士山を望むこともできる。木の温もりや絶景、人々との交流を楽しめる寛ぎの空間。

6階 小ホール

木材の美しさに思わずうっとりしてしまう多目的な小ホール。入口には木の新しい表情をデザインしたカウンターが設置。奥には、杉の木立をイメージしたオブジェが、前に置かれた檜の演台とともに柔らかな雰囲気を醸し出す。カウンターには、波状に削り積み重ねた檜の角材を使用。和紙がデザインされた華やかな天井からも上品な空間が演出されている。

中央に檜のオブジェが置かれたゆとりのある1階エントランスホール。オブジェに腰を下ろすと、杉の風合いを映し出した打ち放しコンクリートの高い壁面と天井が寛ぎの雰囲気を醸し出す
2階の役員会議室。カバ桜(真樺)の無垢材で組み立てられた美しいテーブルが、壁面の山桜の凹凸のある羽目板とマッチ
1階には水屋を備えた本格的な茶室・和室も

木材会館では随時見学が可能。内外装に木材を多様した建物をぜひ実際に見に行こう。
※見学は要事前予約。緊急事態宣言解除後

さまざまな工夫と実験を積み重ねの結晶であり、木材の強さ、美しさ、優しさを率直に具現した木材会館。この建物に多くの人が集い、働き、憩うことが、木材の新たなる未来へと繋がっていくはずだ。木材を利用した中高層建築物の新時代を拓いたといえる本施設を訪れてみてはいかがだろうか。

※一般見学は事前予約制。緊急事態宣言中は休止

木材会館(東京木材問屋協同組合)
住所|東京都江東区新木場1-18-8
TEL|03-5534-3111
https://www.mokuzai-tonya.jp/mokuzaikaikan

text=Discover Japan


東京のオススメ記事

関連するテーマの人気記事