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秋田の醸造所「稲とアガベ」の挑戦
神鳴の里 男鹿半島の
酒ツーリズム【前編】

2022.2.11
<small>秋田の醸造所「稲とアガベ」の挑戦</small><br>神鳴の里 男鹿半島の<br>酒ツーリズム【前編】
駅舎の趣を残した醸造所で櫂(かい)入れをする岡住修兵さん。銀行と金融公庫から協調融資で調達した資金約2億円で醸造所を開設。資金のうち3/4を駅舎の改修に充てたという。年間最大7万ℓほど製造が可能

日本海に突き出た「杭」のようなかたちをなす秋田県男鹿半島。そこに日本酒業界に雷名をとどろかす一人の男が現れた。尖った杭は打たれるか、土地の一部となって根を張れるか。男の挑戦によって動き出した男鹿から、目が離せません。

日本酒界の尖鋭者・岡住修兵の
ニューブルワリーへようこそ

2021年11月、秋田県男鹿市に、JR男鹿駅の旧駅舎を利用した醸造所「稲とアガベ」がオープンした。

酒蔵のない男鹿市での酒造りを選んだのは、北九州市出身の岡住修兵さん。秋田市にある「新政酒造」で酒造りを、大潟村の石山農産で自然栽培の米づくりを学んだ経験から、自身の酒で秋田に恩返しをしたいと男鹿に醸造所をつくる構想を練ってきた。「米からつくる栽培醸造蔵、男鹿の水と菌だけで醸す無添加蔵の実現」をコンセプトに、その他の醸造酒と、輸出用清酒の製造免許を取得。醸造を開始した。

「稲とアガベ」は清酒製造免許を取得していないため、国内販売向けの日本酒(酒税法における清酒)を造ることができない。というのも、斜陽産業ともいわれる日本酒業界では、原則として新規の清酒製造免許取得が認められていないのだ。免許をもつ企業を買収したり、移転許可を得たりする方法もあるが、「強い思いのある若者が新規参入できなければ日本酒の未来がない」と、新規免許の取得にこだわっている。現在は、他地域で清酒製造免許の取得を目指す若者とも連携し、「日本酒特区」をつくるために奔走中。大学でアントレプレナーシップを学んだ岡住さんは、「小さな醸造所が増えれば継続して雇用を生み出すことができる」と期待を込める。

最近の日本酒のトレンドとしては、酒米を多く削って雑味の原因となるアミノ酸を抑えた、クリアな味わいの大吟醸酒が人気を博しているが、岡住さんはこの傾向にも疑問をもっている。

「酒を造れば造るほど廃棄されるかもしれない米ぬかが増えるのは、これからの時代には合わない気がします」

確かな技術と自然栽培の米をもってすれば、削らなくてもきれいな味の酒をつくることができる。それを証明すべくクエン酸を生成する白麹を使い、甘みと酸味のバランスを調整。どぶろくやクラフト酒においても、表現の幅を広げていきたいという。

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岡住修兵の挑戦

秋田への恩返し
酒造りから生き方までを教わった秋田、それを支えてくれた人々に恩返しをしたいという思いからはじまった稲とアガベのプロジェクト。家族や仲間とともにいよいよ酒造りが始動。

改修前の駅舎の様子

自然栽培米
大潟村の石山農産で自然栽培を学んだ岡住さんは、自然米の自社栽培もスタート。「男鹿の風土を醸す」を合言葉に、全量、秋田県産の自然栽培の米で酒を造っている。

男鹿の湧き水
蔵から車で15分ほどの「滝の頭」の湧水を仕込み水に使用。寒風山に地下浸水し20年以上かけて湧く水は、重炭酸ナトリウム型で、滞留時間の長い地下水の特徴を示す。

低精白
稲とアガベの酒は、精米歩合90%。磨かない米は吸水しにくいため洗米後はひと晩中浸水させる。自然栽培米の風味と造りの技術を最大限に生かし、きれいな口当たりの酒を醸す。

雇用創出
できるだけ多くの雇用を創出したいという岡住さん。現在スタッフは8名だが、ほかに20名以上から求人に関する問い合わせがあるという。今後の事業展開にも期待。

クラフト酒
国内向けの酒は、副原料を使用する、もろみを搾らないなど「その他の醸造酒」の範囲で醸造する必要がある。その制限を逆手に取って新しいジャンルの酒を生み出していく。

稲とアガベ醸造所
住所|秋田県男鹿市船川港船川新浜町1-21
Tel|0185-47-7222
www.inetoagave.com

 

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text: Akiko Yamamoto photo: Atsushi Yamahira
Discover Japan 2022年1月号「酒旅と冬旅へ。」

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