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焚き火の達人・寒川一に学ぶ、
五感を刺激する”アウトドア”【前編】

2021.6.12
焚き火の達人・寒川一に学ぶ、<br>五感を刺激する”アウトドア”【前編】

いま焚火にハマる人が急増中!そして、料理界では最先端でもある焚火料理。焚火の達人・寒川一さんに、その極意をうかがいました。今回は、焚火の醍醐味や必需品、料理の数々を3つの記事でご紹介。

寒川 一(さんがわ・はじめ)
1963年、香川県生まれ。アウトドアライフアドバイザー。UPI OUTDOOR PRODUCTSのアドバイザーを務める。三浦半島での「焚火カフェ」を15年以上続けている。最新刊は『新時代の防災術』。秋に焚火の本を刊行予定

人はなぜ、火に惹かれるのか?

寒川さんの焚火は誰をも魅了する。細い枝を組んで小さな火をおこし、浜辺で拾った流木や薪を少しずつ足して火を育てていく。

「ふと見ると、漢字の〝火〟のようなかたちをしているんです。三角形に立体的に立ち上がり、回りにふたつのチョンがあって。自然とともにあった昔の人は、それを美しいと感じ、火を表す象形文字を連想したのでしょう」

昨年の暮れ、寒川さんは新潟県糸魚川市にある長者ケ原遺跡にいた。縄文時代に営まれた集落跡で、当時の竪穴住居が再現されているのだが、寒川さんは学芸員立ち会いの下、その中で焚火をした。「縄文人たちが実際に使っていた炉で火をおこしてみると、ああ、彼らはこう座って火を囲んだのだろうなってリアルに感じます。時空をトリップし、いま僕の目の前でおきている火と5000年前の火を重ね合わせることができる」。

遥か昔、二足歩行をはじめた人は火の存在を知った。焚火をおこし、暖を取って、獲物を焼いて食べた。寒川さんの前にある焚火はそんな原始の火となんら変わらない。ふらついている世の中でも決して揺るがず、裏切らないもの。私たち現代人もそのことを潜在的に知っているから、火に身を寄せていると安心するのだろう。

竪穴住居は火をおこすための構造になっていることに気がついたと寒川さん。開口部の大きさや天井の高さなどは、まるで火を焚くために逆算したかのようだと。火の周りには人が座れるスペースがある。人が集まって食をともにし、何かを相談したりして、いわゆる社会がつくられていった。

杉板に肉や魚をのせて板ごと焼くボードベイク。遠赤外線で素材の中までじっくり火が通るので軟らかくてジューシー。木の香り、こげの香りが絶妙なスパイスとなる

ところでいま、国内外で焚火(薪火)料理がブームなのをご存じだろうか? キッチンに焚火のための炉を設け、薪を燃やして熾火をつくり、肉や魚、野菜も丸ごと焼いて美しいひと皿に仕上げるレストランがある。味つけは塩と少量の油、それに自家製の調味料が添えられるのみ。素材そのものの味を堪能できる。卓上でお客が自ら食材を炭火にじかにのせて焼く店では、調理に加われる楽しさもあって美味しさが倍増する。

世界のトップシェフたちが焚火料理に注目しているのは、そのエンターテインメント性に加えて、遠赤外線による熱の入り方、焦げの風味、薪の香りといった、人の五感にアプローチする要素をもっているから。焚火で焼いた肉は、フライパンにのせてガス火で焼いた肉とはやっぱり違う。

「熾火になって発せられる遠赤外線には、食材の分子を揺らして熱を発する作用があるといいます。だから熾火で肉を焼くと表面だけでなく、内側にしっかり熱が通って、本当に美味しい。遠赤外線は目には見えないけれど、人の知覚は敏感で、五感より緻密なところでフィットするのだと思います」

焚火料理が美味しいのは、遠赤外線に加え、温まりながら、火を育てながら食べるという、プロセスを楽しめることにある。

焚火の炎は変化する。最初の火力の強い炎は、食材を炙るという調理には向かない。すぐに表面が焦げてしまいだらけになるからだ。火が落ち着き、熾火になってからが炙りタイム。鉄のフライパンをじかに置いて焼くのもよし、枝を削ってマイ串をつくったり、食材をのせた板ごと焼いてしまうワイルドな料理もおすすめ。焚火で平らな石をカンカンに熱し、肉を焼いても美味しいだろう。

焚火料理は、出来上がるまでに脳が勝手に美味しいモードになるし、完全にはコントロールできない火を相手に、時には失敗すら楽しめる。だからまずは気負わずに、誰かと焚火を囲み、串に刺したソーセージを炙ってみよう。ベーコンを巻けばなおのことビールが進むはずだ。

 

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text: Yukie Masumoto photo: Yuko Okoso
Discover Japan 2021年6月号「ビールとアウトドア」


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