HOTEL

「東京ステーションホテル」
東京駅の歴史を刻むクラシックホテル

2019.10.24
「東京ステーションホテル」<br>東京駅の歴史を刻むクラシックホテル
美しくライトアップされる東京ステーションホテル。JPタワー商業施設「KITTE」の屋上庭園からは全貌が見渡せる。

東京の玄関口、東京駅舎内にある「東京ステーションホテル」は、2015年に開業100周年を迎えた。多くの文豪に愛されたホテルは、歴史を大切にしながら進化し続け、変わらず人々を惹きつける。

100余年の歴史を紡ぐ東京の象徴

訪れるたびに、美しくよみがえったホテルの姿を見ると、ファンの一人として誇らしい気持ちになっている。日本のクラシックホテルの中でも、“東京駅丸の内駅舎”の赤れんがづくりは格別に美しい。手の込んだ彫刻も、駅の改札口を飾るドーム型の天井も、復元とはいえ創建当時を超えるエレガントな姿を披露しているように思う。

南北ドームの天井には、勇猛な鷲のレリーフが取付けられている。

大がかりな工事期間を経て、2012年10月、ホテルは華やかな開業イベントとともにドアを開けて以来、数えきれない人々を迎え入れている。この“唯一無二”の空間が、完成までに6年半もの期間を経たことを知れば感動もひとしおだ。そして2015年11月、ホテルは多くの人々の祝福に包まれて100年を迎えた。

館内では、大切な記憶の品々は消えることなくスタイリッシュなかたちで残されていることに気づく。北ドームに1カ所、南に2カ所あるアーカイブバルコニーからは、復元された荘厳なドーム、壁や柱に復元された彫刻やレリーフが間近に見える。廊下に飾られた当時の東京駅付近の華やぐ様子の絵まで、ホテル内は、まるで歴史の詰まった宝石箱のようである。

1階ロビーに併設されている“ロビーラウンジ”。英国調の家具や調度品がクラシカルな趣を演出。

部屋にいながらにして“旅”の情緒が味わえる客室

ホテルは、駅舎総面積の約半分に相当する地下から4階までの一部を占めている。客室は、どれもアースカラーをベースに寛ぎのある色遣いや、品格漂うカーテンやじゅうたんの柄など心を落ち着かせる空間づくりがされている。

滞在中にまず手をたたいて喜んだのは、作家や鉄道や駅にまつわるアメニティの数々だ。ワーキングデスクやナイトテーブルに置かれたメモパッドは、文筆家が好んで逗留したホテルらしく、原稿用紙の升目模様が印刷されている。

駅舎最上階の尖塔部分を占める“アンバサダースイート”。

そもそも客室の使い勝手のよさは、最新設備や動線の巧みさで変わるが、ほかにも家具調度品やしつらえ、気の利いたアメニティも含め、なによりもゲストへの真摯なもてなしの心が部屋に込められているかどうかで違ってくる。

客室があるのは建物の2階から4階部分までの全150室。特に“ドームサイド”の全28室は、復元された南北ドームに沿って設置されており、人気も高い。部屋の窓からは、吹き抜けのドーム内を俯瞰で望める。行き交う人々の姿や、荷物を持った旅人、仕事に向かう人々、復元されたドーム内の装飾が身近に迫る。部屋にいながらにして“旅”の情緒が味わえる、旅好きや列車愛好家にはたまらない情景だ。

着いたら安心してすぐに休める。当たり前でいて、とても大切なこと。

かつてフランスやスイスに暮らした私は、東京ステーションホテルに滞在するたびに、ふとヨーロッパ各地の主要な駅や駅前にあるホテル「Hotel De La Gare」を思い出している。異国の鉄道旅では、これほど安心で頼りになる存在はない。心細い一人旅ならなおさらに、何があっても「駅に着けばホテルが待っている」と、重い荷物を引いてドアを開け、笑顔で歓迎されたときの思い出が消えない。

大都会のラグジュアリーホテルとは似て非なる駅ホテルではあるが、豪華さは違っても、駅ホテルの温かいもてなしを思い出し、ここ東京ステーションホテルと一本の糸でつながる。旅人にとって駅とホテルの関係は宿の原点のような気がしてならない。

文豪の物語の世界にタイムスリップ

さて、多くの文豪に愛された東京ステーションホテルでは、駅や列車にまつわる小説が数知れず描かれ、ホテルは何度もその物語の舞台となっている。ホテルには客人の数だけ思い入れや物語がある。

「ブラン ルージュ」では最高のオリジナルフレンチを提供。シェフおすすめフルコースランチ「ロゼ」(6800円)、夜のグランドメニューフルコース「ルージュ」(9800円)ほか。11:30〜15:00、17:30〜22:00  ※料理は季節によって異なるため、詳しくは問い合わせを。Tel:03-5220-0014。

特に知られているのは、かつて作家の松本清張が宿泊した客室(現在2033号室)あたりの廊下に、清張の綴った小説『点と線』の連載ページ・第1回の複製と、舞台となった特急「あさかぜ号」の時刻表の複製などが飾られている。作家ファンも鉄道ファンも、そしてホテルのファンも、小説の舞台と知れば、その物語の世界にタイムスリップし、現実と重ね合わせ行ったり来たりしそうだ。

 
東京ステーションホテル
住所:東京都千代田区丸の内1-9-1
Tel:03-5220-1111
Fax:03-5220-0511
客室数:クラシック29室、パレスサイド77室、ドームサイド28室、メゾネット7室、ジュニアスイート4室、スイート4室、インペリアルスイート1室
料金:3万7832円〜(税・サ込、宿泊税別)
カード:AMEX、DC、DINERS、JCB、MASTER、MC、UC、VISA
チェックイン:15:00
チェックアウト:12:00
朝食:ブッフェ(ゲストラウンジ)
夕食:レストラン
アクセス:電車/JR東京駅丸の内南口直結
施設:ロビーラウンジ、バー&カフェ、バー、
寿司、和食、中華、イタリアン、フレンチ、鳥料理のレストラン、フィットネス&スパ、バンケットルーム、ギフトショップ

 
 

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文=せきねきょうこ 写真=野口祐一
2018年Discover Japan Travel「一度は泊まりたい ニッポンの一流ホテル&名旅館」より

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